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翡翠の凶槍④

 

 南伊豆町近海 強襲上陸部隊別動隊 指揮船


 僚船を全て失った指揮船で、ここまでの様子を見ていたスーラは、エリエスの新鋭船の火力と機動力に驚嘆していた。


「我々の軍船があんなにも容易く破られるなど……ありえん!」


 憤慨したスーラは側にあった木箱を思い切り蹴り飛ばす。そのまま木箱は宙を舞い甲板に叩きつけられる。それを見ていたレーベが差し迫った事態について、スーラに注意を促す。


「恐縮ですがスーラ様、多くの魔法兵や貴重な水霊龍とその契約者を失ってしまいましたが、今が敵船を撃破する最大の好機かと考えます。直ちに魔砲への魔力充填を御命じ下さい!」


 レーベに諌められたスーラはすぐに冷静さを取り戻し、船首に控えていた魔砲の操作員に、魔砲への魔力充填を命じた。


 命令を受けた操作員は、すぐに照準を前方の大型新鋭船に向ける。そして、周囲に複数待機していた魔法兵が砲首に嵌められた巨大な魔力結晶に魔力を込め始めた。


 緑色に輝きだす魔導収束砲、光の波紋を鼓動の如く発しながら、徐々にその光を強めていく。


 その時、前方を監視していたレーベは、敵小型船が大型船への射線を塞ぐようにこちらに接近してくるのに気づく。


 わざわざ、射線を重ねてくれるとは有り難い。魔砲の有効性については、先程の攻撃で実証済みだ。魔法障壁すら展開していない奴らの船は、魔砲で容易に貫ける。しかし、その機動力はこちらにとって依然として脅威だ。


 レーベは船首に目をやると魔法兵たちの作業を急がせる。


「魔法兵! 魔力充填を急げ! 今が最大の好機だ。小型船ごと貫くのだ!」


 レーベはすぐに小型船の方角を見る。驚くことに、既にかなり接近されている。


 レーベは僅かな焦りを感じつつも、魔砲の威力を信じて、その瞬間を待ち続ける。


 敵の小型船のシルエットが大きくなり目視照準可能な距離に入った瞬間、スーラが叫んだ。


「今だ! 奴らに帝国軍の威信を見せつけよ!」


 その号令を聞き、砲手がすぐに発射スイッチに手を伸ばす。


 それは、砲手が発射スイッチを押し、魔力結晶に収束された魔力の槍を敵船に向けて放つ瞬間だった。


 前方の海上を白い閃光が照らし、空気が揺らめいた。


 その瞬間、前方からの光の礫が魔砲の周辺に居た操作員を貫き、ぼろ雑巾のように後方へと吹き飛ばした。


 それから、魔法兵が反撃したものの攻撃も防御も間に合わず、一人また一人と船上を襲う暴風雨に打たれて、甲板に亡骸を晒していった。


「あと一歩及ばずか……」


 この様子を見ていたレーベは、あと一歩だけ間に合わなかったことを悟り、先程から違和感を訴える脇腹にふと手を当てた。


 しかし、予想していた生暖かい感触を感じられなかったレーベは、自らの脇腹をローブごと抉るように空いた大穴に目を向ける。大穴からは絶えず出血し、甲板に血だまりを築き始めていた。


 そのまま、うつ伏せに倒れるレーベ。それを見ていたスーラが慌てて駆け寄り、仰向けにしてレーベを抱えた。


「レーベ! しっかりしろ! 主は我に仕える副官だろう、我の許可なく天に昇ることは許さないぞ!」


 口から血を吐き出しながら、弱々しい声でスーラへと語りかけるレーベ。すぐにスーラは耳をレーベの口元に近づける。


「お……ください……お逃げ下さい……スーラ様……」


 今にも命の灯が消えそうなレーベの顔を見つめるスーラ。何年も自分の副官を務めてくれたレーベとの記憶が蘇り、視界を濡らした。


「主を置いていけるか! すぐに一度退却するぞ! おい、レーベしっかりするのだ!」


 しかし、既にレーベからの反応はなく、息絶えたことが見て取れた。レーベの右手が力なく血だまりに沈み、自らの血で赤く染まっている。


 スーラは静かにレーベを甲板に横たえた。そして立ち上がり、自らの周囲を無数の光弾が掠めて行く中、甲板に横たわる兵士達の亡骸をゆっくりと通り過ぎながら、船首へと向かう。その先には、血痕が付着した魔導収束砲が真上を向いた状態で輝きながら佇んでいた。


 そして、船首にまで辿り着いたスーラは砲塔の操作盤を操作し、魔導収束砲の照準を再び合わせ、叫びながら発射スイッチに手をかけた。


「我々は戦わずして死は選ばない! 我々が敗れても、我が盟友達と後に続く部隊が必ず貴様らを葬ってくれようぞ!」


 その瞬間、スーラの体を数発の弾丸が貫き、その前方にあった魔導収束砲の魔力結晶を粉々に砕いた。その時、魔導収束砲を中心として周辺に瞬間的に衝撃波が広がり、そのすぐ後に翡翠の爆炎を上げながら大爆発を起こし、船上で戦い続けていた兵士ごと全てを吹き飛ばした。


 そして、船上に残ったのは、緑色に輝きながら鮮やかに燃える炎と、船体の瓦礫、スーラとレーベを含む兵士の屍のみとなった。


 炎は広がり全てを焼き尽くした後、緑から通常の橙に色を変え、木造の船体を燃やし続ける。


 それを近くの海上に佇みながら見つめ続ける「いずなみ」、その船橋のマストに掲げられた海上保安庁旗は、海風になびきながら、前方の炎に赤く照らされ続けていた――。


 ――



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