潮騒の鎮魂歌 (Shizuoka Riot Police) ①
南伊豆町 弓ヶ浜バリケード
赤色灯と車両の照明が照らし出す弓ヶ浜海岸、先程までの喧騒は鳴りを潜め、淡い月明かりの下で消防車のエンジン音だけが響く不気味な静けさに包まれていた。
交番前の沿岸道路には横向きに停められた2台の消防車と、警備課員が乗車してきた青白の人員輸送車、そして沿岸道路沿いに打ち込まれた細い木杭から少し砂浜側に外れた場所には、南伊豆町民が乗り捨てた自動車が十数台ほど配置されていた。
人員輸送車は2台の消防車の中間よりやや後ろに並べられており、その正面には道路から少し外れて海岸の砂地の部分に乗用車が横に隙間なく並べられ、人員輸送車後方の交番の駐車場には警備係長の高橋が乗って来た、車載無線機を装備する覆面ランドクルーザーが本部との連絡用に置かれている。
一方で、2台のそれぞれの消防車からは、給水用ホースがさらに後方に伸び、市街地側にある消火栓にまで一切のねじれなく伸ばされている。また、消防車の周辺には南伊豆町消防団の面々が4名ずつ配置され、4人操法の体勢を取り、全員が恐怖を押し込んだ表情で正面を見据え続けていた。
そして人員輸送車の前には、ヘルメットを被り、大盾を正面に構え腰のホルスターにニューナンブM60を提げた、下田警察署警備課の12名の課員と駐在警官である後藤が横一列に整然と並んでおり、嵐の前の静けさに浸かりながら心臓を鼓動させていた。
人員輸送車の正面で、拡声器を片手に持ちながら約50m先の浅瀬から迫りくる帆船を睨みながら、弓ヶ浜バリケードの指揮を執る高橋が口を開く。
「作戦は先ほど話した通りだ。当初は車両の物陰に隠れて様子を伺う。そして、タイミングを見て俺が警告を行う。奴らが警告を無視した場合、警官隊は二人一組となり一方は大楯による防御、もう一方は射撃を担当しろ。そして射撃に関してだが、もちろん弾薬には限りがある。よって優先して狙うべき場所は、一発で行動不能に出来る可能性の高い脚部だが、各人の射撃技術はそれぞれだと思う。よって自信のない者は敵の胴体でも構わない。しかし、我々の使うニューナンブの38SP弾(FMJ)では、貫通力はあるが威力についてはそれほど高くない。もし、胴体を撃っても接近して来た場合は、落ち着いて敵が倒れるまで当てろ。弾を外すよりはよっぽど良い。そして……」
高橋が両サイドの消防団の面々に目を向ける。
「消防団の皆さんには最後の防衛線を守って頂きたい。我々の使う拳銃は装弾数が5発という関係上、敵が我々の対処能力を上回る人数で攻めてきた場合、一瞬で防衛線は崩壊するでしょう。そこで、消防団の方々は、我々の隙を突いて敵が防衛線を抜けてきた場合は放水にて対処をお願いします。」
「おうよっ!」
右側の消防車の班長である消防団長の輪島と、左側の消防車の班長で副団長の源さんこと玄田源が高橋に了解の意を送る。
そして、高橋は最後に付け加えた。
「最後に、前にも言ったがこの作戦の目的は、市民の避難のために出来るだけ時間を稼ぐことにある。敵の人数から考えて、現状ではどうやってもここの防衛線は長くは持たない。しかし、SRPの到着まで時間を稼ぐことが出来れば、希望はある。我々が南伊豆町の最後の防衛線だ。ギリギリまで粘るぞ!」
そう言い終わると、全員を鼓舞した高橋に対して警官隊が敬礼する。高橋は彼らの眼にひと際強い意志が宿ったように感じた。
――
南伊豆町 弓ヶ浜バリケード正面 強襲上陸部隊
こちら側の世界で弓ヶ浜と呼ばれる海岸では、船団の先頭集団で軽装歩兵と軽量化された重鎧を装備する重装騎士、少数の魔導兵及び弓兵を擁する数隻の帆船が、積載重量の軽さと身軽さからいち早く浅瀬に到達し、帆船正面の扉を降ろして上陸を開始していた。
その先頭集団の指揮を執っていたのは、高位魔術師であり対魔法戦のエキスパートである、ルベルトである。ルベルトは色白で切れ長の目と黒い長髪が印象的で、装備は軽装鎧と茶色のマントを羽織っていた。
隊列を整えつつある歩兵隊の方からルベルトの部下の一人が近づき、目の前で帝国式の敬礼をすると報告を始める。
「ルベルト様、報告致します。先に到着した我々、第3大隊突撃混成歩兵第1中隊は、総員250名のうち、第1から第3小隊までの200名は進軍準備完了致しました。加えてマルス様からは、船団後方の旧式ゴーレム等の魔導兵器を満載した船の速度が思ったよりも出なかったため、後方の速度に合わせて前進するらしく、先に到着したのなら、海岸の占領を始めて構わないとの連絡を受けております」
「了解した。周囲の様子を見ると、やはり事前の砲撃は必要なかったようだな。霧に紛れての隠密上陸で正解だった。」
部下が答える。
「はい、周囲には怪しげな建造物はあれど、ゴーレムの1基も見当たりません。敵に気づかれないうちに海岸を早急に確保してしまいましょう」
ルベルトも周囲を見渡し、怪しい建物や鉄の置物を眺めた後、部下に命じた。
「分かった。マルス様は到着が遅れると言っていたな、ならば我々がマルス様の到着前に一足早く海岸堡の確保しておこう。直ぐに部隊に命じろ」
その時、バリケード側から聞きなれない言葉が聞こえてきた。
「我々は下田警察署警備課です! 直ちに武器を捨て投降してください! 抵抗する場合、実力行使を行います! 繰り返します! 武器を捨て投降しなさい!」
ルベルトは直ぐに正面を注視し、少数だが周囲に人がいた事に多少呆気に取られた。恐らく、我々の上陸以前に鉄の置物の影に潜んでいたかと思われるが、彼らの他には敵は見当たらない。自ら音を発して存在を気付かせるとは下策も下策だが、何か意図があっての事なのか。そのような考えが一瞬だけ頭を巡ったが、直前に下した命令通り、すぐさま歩兵隊に前進するように指示する。
「奴らが何者かは不明だが、我々の妨害をする者はすべて敵だ。正面のバリケードはそこまで大きくはない。全歩兵隊は一気呵成に突入し粉砕せよ! 弓兵隊は矢衾を張れ!」
ルベルトが全軍に指示を出すと、彼の指揮の下、数列の横隊は各々の武器を抜きゆっくりと前進を始める。そして徐々に加速しながら、兵士たちの咆哮と軍靴が地面を踏み付ける地響きと共にそのうねる濁流を正面のバリケードに向けた。
加えて、後方に展開していた弓兵隊の持つ洋弓の弦が引き絞られ、射撃の号令と共に歩兵隊の前進方向に数十の矢が射られ、前方のバリケードの上空に影を作った。
「正面にぃ、構え!」
突如、怒号にも似た声が前方から発せられたと思うと、バリケード前方に展開していた銀色の大盾を持つ敵兵士が、掛け声とともに一斉に盾を正面に傾斜をつけて構え、自身とその後方にいる味方を完全に覆い隠した。上空から飛来した数十の矢は全てその大盾に防がれ、継続して襲い来る矢に至っても一本の例外なく全てが弾かれていった。
その間、大盾と大盾の間には左右の隙間は一切生じることはなく、実に整斉とした動作にルベルトは敵軍の将と思しき怪しげな魔具を口元に構える男に尊敬の念を抱く。
「見事なり……ならば、正面から打ち破ってくれよう」
またすぐに正体不明の言葉が聞こえてくる。
「攻撃を中止し投降せよ!! これ以上近づいたら射撃する!」
先頭を走っていた軽装歩兵の一人には、その意味は全く持って不明であったが、何やら警告のようなニュアンスが感じられた。しかし、極限まで士気が高まった集団は、その警告と思われる呼びかけを無視し、一体となった咆哮で掻き消しながら一気に距離を詰める。
「警告射撃!!」
バリケードから40mにまで近づいた軽装歩兵の耳に、前方から破裂音のようなものが一瞬聞こえたが、歩兵隊には誰一人損害はない。敵は音による威嚇を狙ったのかも知れないが、日頃から魔法戦による爆発音等を聞き慣れていたことから、破裂音による威嚇効果は自分を含め、歩兵隊全体に殆ど効果を及ぼさなかった。
「止まれ!!」
「威嚇射撃!!」
今度は歩兵隊からそう遠くない地面に弾丸が何発か撃ち込まれる。しかし、熱狂した兵士達は何らかの下位魔法の一種だと思い込み、自らの装備する魔法的に強化された鎧で十分防げると信じ、一切速度を落とすことなくバリケードに迫る。それが実際に「下位魔法」であったなら、兵士たちの判断は間違ってはいなかった。彼らの装備する鎧には下位の対魔・対物障壁が張られており、通常の下位魔法や物理攻撃程度ならば耐えうる性能を持っていたからだ。しかし、彼らの予想は裏切られる事となる。
先頭の軽装歩兵がバリケードまで25mにまで差し掛かった時だった。正面から突然の閃光と空気を裂く音が兵士の耳を掠める、その瞬間、自分の隣に居た戦友が次々と崩れ落ちて行く。先頭を走っていた兵士は驚き、ふと自分の胸元の鎧を見ると、小さな穴が開きそこから鮮血が噴き出してくる。そのまま兵士の視界は徐々に暗くなり両膝を地面に付く。その数秒後、前方からもう一度破裂音が聞こえ、頭に強い衝撃を受けた後、視界は完全な漆黒に閉ざされた。
ここに来て歩兵隊は、常に相手を圧倒して来た筈の自分たちに起こった事が理解できずに急停止する。その間も前方からは破裂音が断続的に聞こえ、彼らがこちらに向ける魔具のようなものから、破裂音と小規模な閃光が発せられるたびに、戦列の先頭から歩兵が崩れていく。先ほどまでの歩兵隊の熱狂は彼方へと吹き飛ばされ、周囲は既に20名以上の屈強な兵士たちの叫喚に満ちていた。ある者は足を抱え激痛に悶え、ある者は胸部から大量に出血した後に動かなくなった。前方から空気を掠めながら飛んでくる正体不明の礫は驚くほど正確に、動きを止めた歩兵の脚部や急所を撃ち抜き、純白の砂浜を血に染めていった。
先頭付近の歩兵が叫ぶ。
「こいつは下位魔法なんかじゃない! 鎧を貫通してくるぞ!」
「奴ら何を飛ばしてくるんだ! 早すぎて何も見えない!」
ルベルトは、一瞬目の前の状況を信じられなかった。このような高位の魔法を使える魔導兵が未だにエリエスに残っていたことにも勿論驚いたが、その魔法を絶え間なく発動させ続けている敵魔導士の力量にも驚いていた。通常、高位魔法はこんなに連続で使用できるものではないし、彼らは詠唱すらしていないように見える。一体どうなっている? しかし、指揮官が狼狽えては士気に影響しかねない。すぐに敵の使用する魔法は通常の下位魔法ではないと判断し、即座に次の戦術を組み立てる。
まず、前列の軽装歩兵隊に落ち着くように命じると、すぐに後列に配置した鉄製の大盾、重鎧、そしてメイスを装備した重装騎士を前列に前進させる。彼らの装備する鎧と大盾には中位の対魔・対物魔法、加えて軽量化魔法が掛けられており、軽装歩兵ほどではないが、彼らに随伴できる程度の機動力を持たせることに成功している。また、鎧の形状については、こちらの世界で言うフルプレートメイルに類するものであり、大盾に至っては屈強な体躯を持つ戦士の胸辺りまで隠し、それなりの厚さもあるため、対魔法戦においても通常の接近戦においても、前線での防壁としてはこれ以上なく適任の兵科である。
「重装騎士隊は前へ! 軽装歩兵を守れ!」
ルベルトが後列に控える重装騎士隊にそう叫ぶと、前列の落ち着きを取り戻した軽装歩兵隊が隊列を変形させ、重装騎士隊に道を開く。銀色に鈍く輝く鎧が金属を擦れ合わせる音を立てながら、重装騎士隊は前列まで前進し、軽装歩兵隊の前まで来ると一斉に右手に持った大盾を地面に下ろして、両手でしっかりと保持すると、やや前傾姿勢になり正面に大盾をどっしりと構えた。
ルベルトは次に側面に配置した一般魔導兵に前方へ煙幕を発生させるように命じ、精鋭の魔導兵に対して、煙幕が時間を稼いでいる間に高位魔法用の障壁を重装騎士に付与するように指示する。
対魔法戦の戦術は、地形により若干異なるが、その基本は、いかに敵魔導兵の攻撃を防御し、接近するかにかかっている。通常、魔導兵という兵科は強力な遠距離攻撃を行える代わりに、接近戦への対処能力は、攻撃に詠唱が必要な関係上、極端に低い。故に、遠距離においては歩兵と魔導兵では、魔導兵に軍配が上がるが、接近戦に持ち込めば、この関係は一瞬で逆転する。そしてこの、どのように敵魔導兵まで接近するかが対魔法戦指揮官の最も考慮しなければならない事項である。
立ち込める煙幕の中でも視界を確保するため、ルベルトは自身に透過視の魔法をかける。そして、徐々に見えてきた歩兵隊に前進を命じる。
「軽装歩兵隊は重装騎士の影に隠れ、煙幕と共に敵バリケード目前まで前進し、一気に畳みかけよ! それまでは、重装騎士の影から一切出ることを禁ずる」
現在は歩兵隊全体を煙幕が覆い隠しており、敵の攻撃はその精度こそ低下しているが、未だに続いている。軽装歩兵に対してはこの攻撃が致命的である以上、視界が遮られているからと言って不必要に身を晒させるのは得策ではない。
前進速度は落ちるが、これがもっとも確実に彼我との距離を詰められる作戦だ。
重装騎士隊の前進と共に、軽装歩兵隊が重装騎士の影に幾重にも隠れながらゆっくりと前進を開始する。
その時、ルベルトのすぐ側で前進していた重装騎士から金属板を思い切り叩いたような甲高い音が響き、盾を持ったまま兵士が地面に倒れこむ。その兵士のヘルムの隙間からは赤黒い液体が溢れ、下敷きにした大盾に血だまりを作っていく。
そして、驚愕したルベルトは全てを悟った。
「物理攻撃……!?」
高位魔法用の障壁が反応すらしなかった。高位魔法用の障壁や中位物理障壁を貫通いや発動すらさせない攻撃となると、高位以上の魔法など存在しないことから、この高速で飛来する礫による攻撃は、何らかの魔法で打ち出している中位以上の物理攻撃としか考えられない。だが、ただの物理攻撃が魔法的に強化された重装鎧を容易く貫通するなんて言う話はこれまで聞いたことがない。一体どうなっているのだ! いや、考えるのは後だ。敵の攻撃が物理攻撃である可能性が出てきた以上、まずは対物理用の障壁を前線の兵士に付与せねばなるまい。
ルベルトは手に持った銀色の細い魔導杖を、先ほど倒れた兵士の後ろにいた重装騎士に向け、自ら対物理防御障壁の魔法を詠唱し、壁を失った軽装歩兵にその兵士の後ろに回るように命じた。そして次に、それぞれの隊列の側面に配置した精鋭魔導兵に、高位物理防御魔法をすぐに前列の重装騎士にかけるように指示する。
精鋭魔導兵たちは即座に詠唱を開始し、前列に向けそれぞれの魔導杖を振るった。
そして、ルベルトは薄くなり始めていた煙幕を確認し、歩兵隊の前進を急がせる。
「そのまま前進しろ! 煙幕が消える前に肉薄するのだ!」
先頭の歩兵隊は歩みを早め、そして煙幕の帳を一気に走り抜けた。
その瞬間、最初に煙幕から姿を晒した重装歩兵とその盾を薄く鮮やかな緑色の燐光が包み、数発直撃した弾丸を明後日の方向に弾いた。
「今だ! 軽装歩兵隊、突撃せよ! 敵魔導兵の戦列を崩せ!」
ルベルトが叫ぶと、先ほどまで重装歩兵の影に隠れていた軽装歩兵が戦列の間を抜け、前方のバリケードに飛び込んでいく。その距離は約15mに迫った――。
「輪島さん、源さん!お願いします!」
突如、左右から白い蛇のようなものを抱えた人間が飛び出し、水龍のブレスの如き濁流で軽装歩兵を押し流した。
左右に配置された消防車より伸びた消火用ホースから、絶え間なく放出される高水圧の水流は、弓ヶ浜の白い砂地を抉りながら、接近を試みようとする軽装歩兵を一時的に押し返し、再び向かってくる軽装歩兵に対しては前方からニューナンブの完全被甲弾(フルメタルジャケット弾と呼ばれる、弾頭を鉛や銅等の硬い金属で完全に覆い貫通力を高めた弾丸)が脇腹に喰らいつき、小さな貫通銃創を穿った。
「どんなもんだってだ!」
源さんが、目前まで迫ったが砂浜の上で踊らされている敵の軽装歩兵に言い捨てる。
「源さん! やるじゃねえか!」
「流石です源さん!」
右側の消防車周辺から見ていた輪島と佐竹は、源さんのあまりに手慣れた班員の指揮を見て賛辞を贈らずにはいられなかった。
「おうよ!」
そんな中、高橋は両名に対して礼を言う。
「源さん、輪島さん、助かりました! 両名のご協力が無ければ、今のタイミングで一気に戦列を崩されていたでしょう」
「良いってことよ!」
「南伊豆町は俺たちの故郷だ。そんな俺たちの故郷を荒そうとする奴は、お天道様が許しても、俺たちが許さねえってもんだ!」
その時、前方の薄れかけていた煙幕の中から、源さん側の消防車に向かって青白い光弾が高速で飛来した。
光弾は消防車の側面に直撃し爆発、凄まじい音と衝撃波と共に周りの車両ごと、源さんとその班員全てを後方へと吹き飛ばした。
「源さん!!」
高橋が叫んだのとほぼ同じタイミングで、大盾を構えた後藤が前方の煙の中から魔法使いらしき影がこちらに向けて杖を振るうのを発見する。
「高橋さん!こっちにも来ます!」
それを聞き、高橋も魔法使いらしき人影を認める。
「総員、盾正面、腰にぃ構え!」
高橋は大盾操法のうち、最も正面に対して踏ん張りが効く姿勢の号令を出す。
高橋の号令により、後藤を含む防御役の警官達は左右に密集したまま、大盾を地面に突き立て、左足のつま先を大盾につけ、右足を大きく後方に伸ばし、腰を下げて重心を低くした。
全員が体勢を取り終えるか終えないかのタイミングで、前方より再び青白い光弾が2発出現し、まっすぐ高橋ら警官隊の方へ襲来する。
光弾の一発目は、バリケード正面の地面に着弾し爆音と衝撃波で警官隊を襲うが、正面に並べられた車両が衝撃をある程度吸収したため、威力の減衰した衝撃波は警官隊の持つジュラルミンの盾に防がれた。しかし、2発目の光弾は僅かに高度が高く、警官隊の戦列中央に直撃、爆発した。
警官たちの大盾は軽々と吹き飛ばされ、盾を構えていた警官達も後ろの警官ごと、後方の人員輸送車に強く叩きつけられる。背後に控えていた高橋もその衝撃波の残滓で後ろに大きく投げ出された。
地面に強く叩きつけられ、天を仰いだ高橋の視界に星が舞う。ゆっくりと体を回しうつ伏せになり、正面を見る高橋だったが、視界がぼやけて焦点が定まらない。しかし、高橋は朧気ながらも防衛線の崩壊を悟り、横に落ちている拡声器を自らに引き寄せ撤退を叫ぼうとする。
今から逃げても確実に追いつかれる。だが、動ける奴だけでも逃げてくれ。死が視界にちらつく中、高橋は拡声器のボタンを押し込みながら口を開く。
「全員、逃げ……」
その時、周囲に立ち込める薄い煙を引き裂くように、上空から二筋の強力な光線が射し込まれた。
それと同時に、上から吹き付けるダウンウォッシュが周囲の煙を払い、目前まで迫っていた敵歩兵隊の全容を晒す。空気を叩きつけるローター音が頭上から絶えず響き、敵は轟音を発しながら近づいてくるその異様な物体へと釘付けになった。
混乱とした状況下、高橋は頭上を見上げながら安堵する。
「ようやく、到着か――」
――