折角の悪人顏なので、悪役令嬢でもやってみようと思いますわ....!?
悪役令嬢もの(?)に挑戦してみました。
ある意味主人公が電波系です。
私、ツェツィーリア•フルストイを一目見た人は、みんな必ずこう思っているはず。
「わあっ、性格悪そう!」ってね。
だって、私でもそう思う。毎朝、鏡の中にはアーモンド形のつり上がったアイスブルーの猫目、細くて高い鼻梁、真っ白な髪に覆われたあまり肉のないとんがった顎に、口角が下がり気味の薄い唇。
眉間に皺こそ寄ってないけれど、ここのところ続けている夜更かし読書生活を続ければ、そのうちどこかの地下牢の教授みたいな渓谷が刻まれそうだ。
私の父は王弟、つまり、フルストイ家は前公爵家の没落によって久しぶりに作られた公爵家で、私は父の兄の息子と婚約している。
そう、つまり、私は王太子の婚約者なのだ。
私が自分の悪人顏を自覚したのは今から遡ること五年前、七歳のとき。
王太子の馬が私の初めて乗った馬の前に飛び出して来て、驚いた馬から落馬した私は、その衝撃で髪の蜂蜜色と七歳までの記憶と引き換えに前世の記憶を思い出してしまった。
それから、私の蜂蜜色だったらしい髪は真っ白になり、自分の悪役顏を自覚した私は、言動も冷たくなった。
侍女の手を借りてコルセットを締め上げ、海色のドレスを身につけて玄関に向かう。王太子が嫌がるので化粧はしない。
玄関には、もう王太子の馬車が着いていた。
急ぎ足で向かうと、中から王太子が降りて来て、その手を借りて馬車に乗った。わざわざ王太子がおりて来なくても、御者とか騎士とか使えば良いのに。
今日はグリモワール王立学園の入学パーティなのだ。魔法を得意とするグリモワール学園は、在校生の殆どが貴族なので、卒業式はもちろん、入学式でもパーティを開く。王家ではなく学園の招待でわざわざパーティを開くのは、このパーティが半ばお見合いパーティと化しているからだ。
王家の招待だと断れないが、学園の招待ならば、都合が悪ければ断ることができる。そんな人は滅多にいないが。
しかも、学園の招待ならば、生徒は全員魔法使いなので、魔法使い同士の結婚の確立をあげることができる。基本、魔力の大きな魔法使いは魔法使い同士の夫婦からしか生まれないのだ。
パーティ会場に着いてすぐに、学園長が迎えに来る。カーテシーは姿勢良く、指先まで神経を届かせて、上品に。婚約破棄されるまでは私が王太子の婚約者だから。
この現実が夢なのか何なのかよく分からないが、ざまぁジャンキーだったこの私の見ている世界である以上、夢でも転生でも、おそらく悪役令嬢とヒロインが出てくる物語でありそうだ。
外見からして、悪役令嬢はこの私。
ということは、この入学パーティで伯爵、男爵、騎士爵、または平民の出身で可愛らしい女の子が出てくるはずだ。私は悪役令嬢役を存分に楽しもう。折角なら修道院生活も経験してみたい。
王太子とともに挨拶に来る親子への挨拶をこなしていく。
今回の入学パーティは全員出席で、私たちは全員との挨拶をすでにこなした。
しかし、私がヒロインだろうと思ったのは、たった一人で、しかも、なぜか男装している。
あまりにも気になって、こっそり追いかけてどうして男装しているの?と聞くと、女顔ですが僕は男です、と返されてしまった。
しかも、私を追って来た王太子に、彼は騎士爵子息で自分より身分が低く、しかも、能力的にも今までの国への貢献度も自分の方が優れていることを微に入り細に入り懇々と語られた。
なんだろう、王太子も自慢したいお年頃なのかな。
よく考えると、もしヒロインが男装しているとしても、彼女が得るものは少ないだろう。
というか、多分教会の異端審問にかけられて命が危ない。
だから、よっぽどのことがない限り、私がヒロインと見ている人は本当に男だろう。
ということは、これはあの、びーえるげーむ、というやつかもしれない。
私は禁断の恋を邪魔する悪役令嬢役....。
ありえる!ものすごくありがちな設定だ!
教会の異端審問や嫉妬深い王太子の元婚約者をクリアしてようやく実る、美しい王太子との恋...。
あー、こうなるともうそれしか考えられない!
寧ろ、王太子が私にことあるごとに贈ってくる真紅の薔薇も、招待客全員の胸につけられた薔薇も、王家の紋章の意匠が薔薇を元にしているのも、全部びーえるを暗示しているようにしか思えない!
私は腐女子じゃないけど、そうか、王太子、きみはゲイだったのか....!
頑張ってくれ、私は不毛な悪役令嬢生活をおくる気は無いんだ、悪役令嬢の座は(まだ座ってすらなかったけど)返上しよう。
王太子の薔薇薔薇しい恋を陰ながら応援するよ...。