ゴブリンキング
ゴツゴツとした岩の感覚を背に、うっすらと目を開く。
(お、目が覚めたか。海翔。)
(お帰りー。)
元の世界…じゃなく、異世界に帰ってきたようだ。
「ただいま。進化はやっぱグロかったか?」
(グロいな。)
「そうか。…なぁ、俺、神に会ってきた。」
(え、なにそれ。やばくない?悪魔ミーツ神とかやばくない?)
「クソニートだった。」
(……まじ?)
「馬鹿で阿呆でクズで変人でキャラ崩壊で適当で自分勝手で……」
(何があったんだ?海翔。)
(てゆうかその神本当に神なの?)
「そいついわく、神は天界に住んでいる生き物の名前で、すごい奴というわけではないらしい。」
(え、じゃあそいつ学校に絶対一人はいるただのうざいやつじゃん。)
「だよなぁ。その自称神が美少女だったらまだ許せたんだけどなぁ。駄女神みたいに。」
(なるほど。(美少女に限る)ってやつだね。)
(あざとい後輩とかやっていいのは傾城の美少女かこの世の物とは思えぬレベルのブスくらいだろう。)
「え、後者が気になる俺がいるんだが。」
(おおっと?雲行きが怪しい。)
「そういういちいち細かいのはポイント低いぞ?」
(それある!)
(…………で、なんの話だったっけ?)
「なんの話だっけ?」
(さぁ。)
「((・・・))」
「まぁいいだろ。」
(いいの?)
(いいだろ。多分。)
「そうだ、また特典をもらったんだよ。」
(へぇ、どんなの?)
「知らん。今から確認する。」
(…なんか進化特典ギャンブル要素強くない?)
「強いというか今回はがっつりギャンブルだったぞ?」
(スロットか?ルーレットか?ビンゴか?もしかしてラッキーパネルか!)
「ポーカー。」
(くそっ、俺が行きたかった……)
(そんなことより特典確認しません?)
「おぉ、そうだな。……毎回叫ぶの面倒くさいんだが。」
(叫ばなければ良いと思うんだが。)
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カイト(17)
種族:中等悪魔
性別:オス
Lv.1/60・1・1
(略)
スキル
(略)
契約Lv.10
自己再生Lv.10
打撃耐性Lv.10
SP(2160)
武器:閃光丸
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「おぉ、いろいろくれたなぁ。」
(ちょっと待って?気になるとこ一個ない?)
(ん?どこだ?)
「…………性別とかあったか?」
(なかった。)
「え、何。もしかして俺はさっきまで男じゃなかった、ということか?」
(クマノミみたいな感じなんじゃないの?男にもなれるし女にもなれる、みたいな。)
「………………恥の多い人生を送ってきました。」
(おい、待て、早まるな。まだ間に合う。)
「私は…貝になりたい……」
(どうしよう、遺言言い始めたよ⁈)
「鳥でも可。猫ならより嬉しい。犬でも良いよな。いや、でも兎とかハムスターとかも捨てがたい…」
(来世の願望語り始めた……)
(ゴキブリにでもなってしまえ!)
「なんだよ。お前ら一度は思ったことないか?猫とか犬になってみたい、って。」
(うーん。まぁ、確かにね。勉強しなくていいし。)
「なって美少女に抱き抱えられたい、って!!!」
(黙れ変態。喋んな。)
(美少女のペットになる確率なんてほとんどないんじゃないか?)
「おっさんのペットになったら舌噛んで死んでやる。」
(怖っ!トラウマになるわ!)
「あぁそうそう。来世の夢の話なんてどうでもいいんだ。それより、そろそろボス戦行こうぜ。なんだっけ、えーっと、ゴブリンリーダーだったか?」
(キングゴブリンじゃないの?)
(ゴブリンジェネラルじゃなかったか?)
「((あれ?あいつ名前なんだっけ?))」
ボス部屋の前まで戻ってきた俺たちは再び鑑定して奴の名前を思い出した。そうそう。ゴブリンキング。蒼太がニアピン賞だな。
「初のボス戦。準備は良いか?…まぁ、戦うのは俺だけなんだが。」
(ゴブリンキングの討伐。クエストを開始します。)
(制限時間は20分です。)
「え、短い。それチュートリアルの長さじゃん。」
ボス部屋の扉の向こうには前と同じようにこちらを睨みつけているゴブリンキングがいる。そのことであれからまだそんなに時間が経っていないことに気付いた。奴とのやり取りがあまりに濃すぎて時間感覚が無茶苦茶だ。これからは蒼太に少し優しくしてやろうと思いつつ、扉の中へ入る。すると、ゴブリンキングは待ってましたと言わんばかりに咆哮を上げ、手に持った骨棍棒を投げつけてき……は?投げつけて?
「うおっ、危なっ!いきなり武器投げつけるとか馬鹿かあいつ!」
間一髪躱して視線を戻すとその手にはすでに同じような骨棍棒が握られている。よく見るとゴブリンキングの足下は白い棒のようなもので埋まっている。どうやら武器は無限にあると思った方が良いようだ。ゴブリンキングは次々と棍棒を投げてきて、近づくことすらままならない。
「え、詰んでね?」
遠距離の魔法だと威力が足りず、かといって近づくと確実に死ぬ。後ろの扉はいつのまにか閉まっており、逃げることはできそうにない。
そんな無駄な事を考えていたからだろうか。ゴブリンキングが投げた棍棒が脳天に直撃した。
「ぐがっ……」
(海翔⁈)
(おいっ、大丈夫か!)
あのサイズが頭に直撃したのだ。もはや俺の死は確実だろう。まさか異世界に来て出会った美少女が天使一人とか……。あぁ、猫耳美少女に出会いたかった。
猫耳……。異世界グルメもまだ食べてないじゃないか。死にたくないなぁ。…ないなぁ。……ないなぁ。……………あれ?なんか痛くないぞ?
「ん?全然痛くないんだが。ていうかほぼノーダメージなんだが。」
(なんだと?)
(知らないうちにアンデットになってたんじゃないの?)
「アンデットじゃねぇ。アンデッドだ。」
(どーでもいいでしょそんなの!)
(まぁ、大丈夫なら真っすぐ近づいてバッサリいけばいい。楽で良いじゃないか。)
「たしかに。よし、ゴブリンキングっ!首級頂戴!」
(やなこった。)
(いや、頂戴ってお願いしてるわけじゃないから…)
仕留めたと思っていた獲物がケロッとしている状況に混乱しているゴブリンキングに飛びかかり、左胸を貫く。グゲッと呻いたかと思うとボフンと消えてしまった。ゴブリンキングが消えると同時に十四層への扉が開き、十六層への階段が現れた。
(消えた…)
「ボスだけ特別扱いってことか?なんかドロップとか宝箱とかねぇの?」
(いっぱい落ちてる骨棍棒がドロップなんじゃないか?)
「いらねぇ……」
(十個くらい持っていったら?)
「無限倉庫に入れればいいか。あの無限と言いながら無限に入るわけではないあの倉庫に。」
(無限(になる予定の)倉庫ってことなんだよ。誰も無限に入るとは言ってないからね。)
数分後。
「……さて、骨棍棒は拾ったし、忘れ物ねぇか?」
(忘れようがないね。)
(待ってくれ、何か忘れたような気がするんだ。)
「あぁ、出かける前によくあるやつか。」
(絶対気のせいだから気にしなくて良いよ?)
(そうだな。悪い。忘れてくれ。)
「それじゃあ、行きますか。」
((おー!))
十六層。ボス部屋を挟んだその先にいったい何が待ち受けるのか。期待とともに新たな階層へと進む。