時間の夜空
「アスノヨゾラ哨戒班」~第3話時間の夜空~
「なにあの演奏?」
「すいません。練習不足です。」
「ったく…しっかりしてくれよ。」
「はい、すいません。」
あれから6年たった。
僕はいま東京に出てきてギタリストをやっている。バンドのギターをやっている訳ではなくて、収録での伴奏を弾く様な形でギターを弾いている。
「君の代わりはいくらでもいるんだ。」
スタッフの方が僕に言ってきたこの言葉が脳裏を離れない。
…世界は残酷だな…
そう思うこの頃。
今日はギターオーディションであった。
受かると有名な歌手さんのギターを担当する事が出来る。
会話からも分かるように僕はオーディションに落ちた。その日中に結果が出る。やる気もあったし、練習も沢山した。だが緊張で全く自分の納得いく演奏が出来なかったのである。
僕のギタリスト育成事務所は入っているだけで給料が貰える。まず出勤する必要も無い。客を持っていて演奏日のみスタジオに行けばそのほかの日はずっと家でゴロゴロしていても何も問題は無い。それは事務所に入れるギタリストは凄く上手い人に限られるから成り立っている。凄く上手いからすぐ歌手からのオファー又はオーディションで受かる。それによる報酬の一部を事務所に返納することで事務所も利益が出る。
しかし、僕はその事務所でも珍しい客無しである。事務所は客無しギタリストを事務所から辞めさせたがる。そりゃぁ利益にならないから当たり前のことである。
「客がいないならさ、そろそろ辞めてもらっていいかな?」
「本当にすいません。すぐにお客を見つけるのでもう少し待ってください。お願いします。」
「もうさ、その言葉何回聞いたと思ってるの?」
「お願いします。」
「どーせ見つからないのは分かってるから、これ受けて無理だったら辞めてくれないかな?」
そう言ってスタッフは僕に二次募集の紙を渡す。
「これは今日のオーディションの二次募集の応募用紙だ。1次に受かったやつより有名な歌手では無いだろうけど客がいないよりマシだ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
僕は二次募集の応募用紙を受け取る。二次募集の日は1週間後であった。
「今日はもう帰っていいよ。家でもっと練習したら?」
「はい、そうさせて頂きます。失礼致します。」
僕は事務所を出る。今日はこれから練習するのではなく母親のお見舞いに行くのである。母親は幸い軽い病気なのだが入院生活を送っている。病院は僕の実家の地域にあるのでたまにしか行くことは出来ない。
僕はギタリストを辞めなければならないかもしれないという失望感と共に電車に乗り込んだ。
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病院の自動ドアが開く。病院は少し田舎にあるにもかかわらず最新設備を整える有数の病院で前には公園があり、子供たちの楽しそうな声が聴こえなくはない。
お母さんが入院しているのは6階建ての病棟で3階。
「お母さん調子はどー?」
「あら、久しぶりね!そろそろ退院できそうよ!」
「それはよかった!」
お母さんは窓際のベットで病院の前の公園を見ていた。外の世界に出たいのだろう。今日で丁度入院生活2週間になる。昼ならば窓からは明るい光が少し薄暗い病院内を照らしている。
「しばらく病院に泊まっていこうかな。」
「家に帰らなくていいの?」
「少し休みを貰ったからさ。」
「それは良かったわね。」
僕はお母さんの病室を出てカウンターの看護士の方に伺った。
「僕のお母さんそろそろ退院出来ますかね?」
「えっとー、どなたでしょうか?」
「301号室の…」
「あ、はいはい!体調も良い感じなのでそろそろ退院になると思います。」
「あーそうですか!ありがとうございます!」
僕のお母さんの病室は入院しているのが母だけで貸し切りであるから病室番号を言えばすぐ分かってもらえる。
ふと、子供心が戻ったかのように僕は
…病院を探検したい…
と思い、病院の屋上へ向かった。