1.邪神教徒
「はぁ、」
広場での外れスキル宣言を経て、僕は自室でため息をついていた。
外れスキルだと王座で偽りのカミングアウトをしたこと、それはあの時僕が出来る中で最高の判断だっただろう。
もしあの時外れスキルだと言わず、違うスキルを、そう他のクラスメイトのような強スキルであると偽れば、僕はその言葉に偽りがないかステータスを確認されただろう。
少なくとも僕以外の、強スキルを得たクラスメイト全員はその言葉に嘘がないかステータスを確かめられていた。
つまりあの時僕が外れスキルを宣告していなければ、僕はステータスを確かめられあの狂人に僕の本当のスキルを知られてしまうことになっていた。
だから僕はあの場で最適解を導き出した、そう自分に言い聞かせて、
「ぐっ!」
だが、僕の頭に外れスキルを得たとそう叫んだ時クラスメイト達が向けてきた視線がよぎり、僕は呻く。
それは決してクラスメイトの意図したものではなかったかもしれないが、
その視線には無意識な嘲りが含まれていた。
そしてその視線は僕の心に深い棘を残していた。
「正直、かなり堪えるなぁ……」
僕は決して群れることを好むタイプの人間ではない。
いや、1人でも気にならない人間だというべきか?
僕は幼少の頃両親を亡くし、祖父母に引き取られ、有名な武道家だった祖父から武道の手ほどきを受けた。
その修行は決して僕を超人にする類のものではなかったけれども、それでも僕はかなりの実力を身につけた。
そしてその時僕は祖父に命じられ山籠りをさせられ、その結果ある程度1人で行動しければならないことになっても耐えられる。
クラスメイト達と僕の間に信頼関係が成り立つ限り。
だから僕はある程度クラスメイトに理解を示さられても耐えられると思い込んでいた。
だが、それはただの思い込みだったことを知ってしまう。
僕と全くの無関係の人間であればどうかは分からない。
だけど、親しくしていたはずなクラスメイトからあの視線で見られるということは少なくない衝撃だった。
「本当、想像以上だったなぁ……」
僕はもう何度目かも分からないどうしようもないことにたいする愚痴を漏らし、溜息をつく。
だが、僕はそのあとゆっくりと起き上がった。
「でも、それなら汚名返上しないと……」
立ち上がった時、僕の頭の中にクラスメイトのことはなかった。
あるのはただ一つ、僕達を召喚したこの国のトップでそして狂っている国王。
あの国王は何なのか、そしてこの国は僕らに何をしようとしているのか。
ー 世界を救う為に貴方方の力を貸してもらいたい。
国王が、僕らに告げた言葉が僕の耳に蘇る。
「あいつらが正義の味方?あり得ない」
僕はその言葉を鼻で笑う。
国王が正義の味方だと思えないという推測、それはただの勘でしかない。
いきなりの状況の変化に戸惑って不安に陥りやすくなっているだけではないか、とそれだけで済んでしまう程度の。
だが、何故か僕はその勘は当たっているだろうという確信があった。
「正直、国王は逆に世界を滅ぼそうとしている気さえする」
ポツリと僕が漏らした言葉。
それは誰かこの王宮にいる貴族の耳に入って仕舞えば僕は捕らえられてしまうかもしれない、そんな言葉。
「よしっ、行くか!」
そして僕はその自分の推測の正誤を確かめる為、動くことを決める。
目的は先程召喚された、会議にも使われるという王座。
おそらくそこで召喚に成功し浮かれている貴族達は今日様々な情報を漏らしてくれるだろう。
僕はそう確信して、窓を蹴り飛び出して行った。
誰にも分からぬよう部屋を抜け出した僕は、そのまま外から王座の窓へと向かい、そして想像以上の自分の動きに言葉を失うことになった。
確かに僕は祖父に鍛えられ、高校生らしからぬ戦闘能力を有してはいる。
だがそれは決してアクロバッティングな動きが出来るという訳ではない。
それなのに僕はまるで戸惑うことなく王宮の壁を登り、あっさり三階にある王座の窓に辿り着くことが出来た。
「これもスキルの効果なのか……」
僕は出来るだけ下を見ないように気をつけながらそう呟く。
下まではどれだけ距離があるのかわからない。
だけども僕はこの高所に命綱無しで窓に張り付いているということに恐怖を抱いている。
だが、それなのに一切身体は震えることはない。
そう、まるで熟練のアサシンにでもなったかのように。
「本当にスキルてチートだなぁ」
まぁ、これだけの能力を発揮するのは召喚者のスキルぐらいだろうが。
そう僕がスキルの規格外さに感じ入っていると、会議室の扉が開いた。
僕は気を引き締め、誰にも見つからないよう壁に身体を貼り付ける。
そして窓の隙間から覗き込むと、貴族達が疎らに集まり出している光景が目に入ってくる。
「ビンゴ、か」
そしてその光景に僕は自分の狙い通りにことが運ばれていることを悟り、口元に薄い笑みを浮かべる。
「全員集まっているな」
だがその笑みは、貴族の全員集まって少し後に現れた国王の姿を目にした途端緊張で固まる。
「っ!」
威厳に満ちて、意思が強そうな面構えと、そして狂気と虚ろに満ちた目。
先程見た時と国王は全く状態が変わっていなかった。
そのことを確かめ、僕の身体に怖気による震えが走る。
だが、そんな僕が窓に張り付いることなど知らず、国王はその顔に恍惚とした笑みを貼り付けて、叫んだ。
「では、始めようか。
ーーー邪神復活に至るための聖戦を」
「っ!」
邪神、その言葉が国王の口から放たれた瞬間僕は思わず絶句した。
そしてそれが、明らかにこの王国が危険なことを示していることを悟る。
「まじかよ……」
想像していた通り、いや想像をさらに超えたこの王国の闇に僕は思わずそう漏らす。
『邪神の為に』
「なっ!」
だが、国王の後に続きそう叫ぶ貴族達に、邪神の時さえも凌駕する驚愕を覚える。
そう叫ぶ、貴族達の目には国王に匹敵する狂気が宿っていた。
「何なんだよ、」
そこの様子はまさに狂信者と呼ぶべきものだった。
信仰対象を疑うことなく信じる、狂った教徒達。
「邪神教徒?」
そしてその姿にポツリも僕の口から、その言葉が漏れる。
それはまさに目の前の集団を表すに等しい言葉で、そのことにさらなる恐怖を覚える。
「さぁ、第1段階である依り代の召喚は成った。無事異界からの召喚魔術は成功した」
『うぉぉぉ!』
邪神教徒達は僕という異分子が紛れ込んでいることに気づくこともなく、そう叫ぶ。
「依り代って僕らのことか!」
そしてその叫びで僕は、この王国にいてはいけないという絶対の確信を得る。
思わぬ事実を知った僕の胸の鼓動が早まる。
確かに良からぬことを企んでいるのではないかとそう思っていた。
いや、確信していたと言ってもいいだろう。
だが、それでも今の話は衝撃的すぎだ。
「慎二に伝えないと!」
僕は音を立てないように、それでも出来る限り全力で窓から降りる。
そして僕は助けを求めるかのように、慎二の部屋めがけて走り出した。
そして、もう大事なことを全て聞いたと勘違いしていた僕は気付かなかった。
「邪神が依り代の一人の身体を得て現世に顕現するまでもう少しだ」
ーーー一番大切なことを聞き逃していたということを。
本日2話目の投稿です。