第5話 「家族の愛と性的な愛」
周りが畑に囲まれた小さな木造の古い家の玄関の前に二人は立っている。
玄関の戸に手をかけるルツの表情は何故か重たい。
戸にてをかけたままハァとため息をついた。
そんなルツの顔をイヴはしゃがんで下から覗いた。
「どうしたの?」
「あ…?」
ルツは大きく深呼吸してゆっくりと玄関の戸を開いた。
戸の中から少しほこりっぽい空気が流れ出てきた。
「ただいまー!!」
玄関に入ってそう叫ぶルツの後ろでイヴは玄関の扉の影でじっと家の中を覗いている。
玄関には靴が二足。多分ルツの父親のものともう一足は多分農業用の靴。
玄関から伸びた廊下には右と左に1つずつ扉があり、廊下の終わりの開いた扉の先には木造のテーブルと椅子の置いてある部屋、多分居間が見える。
内装は至って普通だが、気になるのは外。
傷だらけの壁には落書きやペンキの跡がところどころにあり、窓ガラスも石でも投げられたのか割れている。
多分、能力者がいるから近所から嫌われてるんだろうな。
家の奥から父親だろうか、白髪の混じった黒髪の少し窶れた顔の背の高い男が出てきた。
「お、ルツか。早かっ━━━」
その男はルツの姿を見た瞬間口を止めた。
それもそうだ。全身血まみれで服の右胸の部分にはナイフで指した跡と右肩の部分には銃で撃たれた穴と焦げ跡まである。驚かない方がおかしい。
「どうしたんだルツ!!誰にやられたんだ!!」
「まぁまぁ、落ち着いて」
驚いた表情で言い寄る父親にルツは少し苦笑いをした。
「お父さん…あのこれは…その……」
ここまで来て言い訳もなにも考えてなかったルツに呆れてため息をついて扉の影から出た。
「僕がやりました」
「ちょっとイヴ!!あ、あの…お父さんこれは…違うの…」
ルツの父親は状況が読めずに少し困惑しているようだったが、すぐに理解したのか、イヴの前に歩み寄っり、イヴの前でしゃがんだ。
「君は…ルツの新しい友達かい?」
「はい、そうです」
「そうか、私はボアズ。ルツの父親だ。」
ニコッと笑って立ちあがり、ルツの方を見た。
「ルツ、良かったな。友達ができて。」
「あ、うん!!」
少し照れくさそうな笑みを浮かべたルツは足音を立てながら廊下の奥へと走っていった。
「そう言えば君、名前は?」
「名前は…その…」
王家の子だと知れたらいろいろ気も使われそうだし、正直に言うべきか悩んだが、裏切らないとルツに約束させた手前、自分が嘘をつくわけにもいかない。
「名前は…エデン…イヴ…です」
「エデン…だと…?」
ボアズはまた驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔戻した。
「そうか…立ち話もなんだろうし、上がって奥で話そうか。」
「あ…はい、お邪魔しまーす」
靴を脱いで廊下へ上がり、奥の部屋まで歩いていった。
それからルツの父親に自分のことと昨日王城で起こったことから今までのことを隠さずに全て話した。
ルツの父親は黙って話を聞いていたが、話が終わると同時に口を開いた。
「そうか…君も大変な思いをしてきたんだな」
「はい。で、その…娘さんのことは…すみませんでした…」
申し訳なさそうにうつむいて目線を反らした。
ルツの父親はフッと笑うと口を開いた。
「娘自身はそんなに気にしてないみたいだし、そんなことより友達ができたことの方が娘にとっては嬉しいみたいだ。だからそんなに気に病まないでくれ」
「あ、はい…」
まさか生き返るとは言え、自分の娘を殺した人間をこうも簡単に許すとは。
人がいいと言ってもいいのか。
「いいんですか?そんなに簡単に許して。」
「娘が信用したんだ。私は娘を信じる。」
「娘さんを信じる…それが娘さんのためになると?」
「もちろんだ」
わかった。
ルツが虐められて苦しんでるのに、この父親は娘の言うことを信じるだけで疑いもせず、ルツの本心に気付こうとしなかった。
それでいてルツは父親に心配かけたくないと言いつつ、本心では父親の方から気付いてほしいだけだった。
その結果、お互いの本心に気付かないままこうなったわけか。
「お父さん、気付いてますか?娘さんの本心を」
「本心だと?」
「娘さんは学校で虐めにあってます。理由はもちろん能力者だから。それでも娘さんは貴方に心配かけたくないからそれを黙っていました。」
このことを父親に話すべきか迷ったが、このままルツが父親に本心を隠して父親もルツの本心に気付かないままだとなにも変わらない。
ただただルツが苦しいだけ。
「お父さん、イヴ、どうだった?」
濡れた髪で首にタオルをかけたルツが脱衣所から出てきた。
二人の暗い表情を見たルツは少し困惑して二人のもとに駆け寄った。
「あのー、二人ともどうしたの?」
「ルツ、本当なのか?虐められていたと言うのは。」
「え?」
少しビクついたルツは睨むのとは少し違うような目線をイヴに向けた。
「イヴ…お父さんに言ったの?」
「言わないと何も変わらないでしょ。」
ハァとため息をついて机に顔を突っ伏し、目線を反らした。
父親の方をチラリと見たルツはすぐに目線を反らして前髪をいじった。
「えぇと…」
暗い表情でうつむくルツを見てルツの父親は立ちあがり、ルツの前に膝をついてルツを優しく抱き締めた。
「ごめんな…ルツ…今まで気付いてやれなくて…」
「お父さん…」
父親は目に涙を浮かべながら何度もルツに謝った。
ルツは何度も大丈夫だと言ったがそれでも父親は謝るのをやめなかった。
「家族の愛だね…」
その様子を横で見ていたイヴは机に頬杖をついて窓の外の空を眺めながら呟いた。
その後、ルツの父親からの許可も出て、農作業や家事を手伝うことでイヴはルツの家に住むことが決まった。
そして、父親とイヴからの進言でルツは学校をやめることになった。
本人からは決してやめるとは言わなかった。
その日の夜、部屋も寝具もないので、ルツの部屋でイヴとルツは1つの同じ布団で寝ることになった。
イヴがシャワーを浴びに部屋から出てる間、モフモフしたしましま模様のフード付きの寝間着を着たルツは部屋で一人枕を抱き抱えながら布団の上で寝そべっていた。
「お父さんもあんまりだよ…私だって女の子なのに…男の子と一緒に寝させるなんて…」
ルツの顔は心なしか赤くなっている。
足をジタバタさせながら枕をさらに強く抱き締めた。
思えばさっきからイヴのことばかり頭に思いうかぶ。主に覗いた裸が。
「いやいやいや違うって!!これは違う!!」
いきなり飛び上がってそう叫ぶと壁に枕を叩き付けた。
ハッと我に帰ると投げた枕を拾って布団の上に座り込んだ。
「はぁぁあ、どうしちゃったんだろうな」
前髪を右手の人さし指に巻き付けながらハァとため息をついた。
「やっハロー!!イヴちゃんが戻ってきたよーー!!!」
「ひゃっ!!」
いきなりドンと扉が開いて妙にテンションの高いイヴが部屋にはいってきた。
濡れた長い青髪にルツのお古のモフモフしたしましま模様のフード付きの寝間着。今ルツが着てるのとサイズが違うだけ。
それに顔が不自然なほどに赤い。
「イヴ?どうしたの?顔赤いけど」
「アハハ!!お酒飲んじゃったの」
お酒を飲んで妙にテンションが高くなったイヴは少しふらふらしながらルツの胸に飛び付き、ルツの胸に顔を埋めた。
「んふふ、ルツの胸大きいね。僕もこのくらい大きくなるかな?」
「きゃっ!!」
抱き付くイヴを引き剥がし、ルツの肩に手を置いた。
イヴは人さし指を下唇に当てて首を傾げ、少しうるうるした瞳でこちらを見ている。
「ちょっと何するの!?」
「え…僕じゃだめ?お姉ちゃん」
「お、お姉ちゃん…?」
だめ、正直すごく可愛い。
このままだとイヴのテンションに飲まれてしまいそう。
「イヴ、もう寝よ」
「えぇ~!!もう寝るの!!?」
少し不満そうな顔を見せたイヴだがおもむろに布団の右側に横たわり、布団を被っておとなしくなった。
横たわったイヴを見てルツは立ち上り、照明から垂れてるひもを引いて電気を消した。
電気を消したとは言え、月明りで部屋の中はそこまで暗くない。
布団の左側のイヴの隣に横たわった。
「ルツぅ、なんかこれドキドキするね」
「え…あ、うん」
確かにドキドキするけど、多分イヴが言ってるのとは違う。
今背中にイヴがいて、しかも同じ布団で眠ってると思うとドキドキして全身が熱くなる。息をするのも苦しい。こんな感覚は生まれて初めてだ。
「ルツぅ?どーしたの?息荒いけど?大丈夫?」
「な…別に…大丈夫」
ぜんぜん大丈夫なんかじゃない。
その後もドキドキしてずっと眠れないでいた。
数時間たってイヴは完全に眠ったが、ルツはまだ眠れないでいた。
これから一緒に暮らすのにこんなんじゃ絶対にもたない。
眠ってるイヴの顔を見つめると今度はイヴの唇に目線が付いてしまう。
「いや…さすがにそれは…それだけはダメ!!」
はやる気持ちを抑え、自分の頬をペチペチと叩いた。
それでも次々と下心が涌いてくる自分が恥ずかしい。
「でも…これくらいなら…いいよね…」
そう呟きながら、眠ってるイヴを胸に抱き抱えた。
イヴの寝息や熱、鼓動の全てが際立って感じる。
さっきまで高まってた鼓動もだんだんと鎮まってきた。
「レイダ…セヴァ……お父様……」
イヴの寝言を聞き、一度フッと笑うとそのまま眠りについた。




