第4話 「サイコパスの能力者」
飛んできた弾丸はちょうどルツの目の前で空中に止まった。
危なかった、もう少し反応が遅れてたら死んでた。
緊張感でその場に倒れるようにしゃがみこんだ。
「へぇ、念動力ねぇ。弾丸も止められるんだね。」
イヴは相変わらず笑みを浮かべながら銃口をこちらに向けている。
やっぱりこの子、危ない人だったよ。関わらなければよかった。
もう死ぬ。さっき弾丸止められたのだって偶然だ。もう次はない。
それに弾丸止めるのに集中力使いすぎて息が荒い。
「な…なんでこんなことするの!?」
「なんでってそりゃ、貴女が弱いから。」
「はぁ…?」
本当に訳がわからない。
銃を向けるイヴの顔が笑みから蔑みの顔に変わっていった。
自分の左手に持ってる銃を見つめると、銃を下ろした。
「僕は、貴女みたいな人が嫌い。貴女は自分が弱い立場にあるから、弱くあろうとした。虐められても自分は能力者だからって、それせいにしてなにもしなかった。」
「う……っ」
確かにそうだ。
抵抗しようと思えばできてた。
でもそのあと、自分の立場が危うくなることを怖れて何もしなかった。
イヴの言うとおり、弱くあろうとした。
でも━━━
「でも、だからって、こんなこと……」
「だってさぁ、貴女達みたいな自分を卑下する弱い能力者がいるから、能力者が嘗められる。その結果がこの能力者差別の社会だよ。貴女達みたいな奴等がいなかったらこうはならなかった。だから死んで。」
「な…なによそれ!!こじつけにも程があるでしょ!!」
怒鳴るルツの方を見てイヴはハァとため息をつき、持っている銃をルツの足元に投げた。
「ならわかった。一方的に殺されるのが嫌なら抵抗すれば?貴女は銃、僕は素手で殺し合お?」
「はぁ?もうあなたさっきから言ってること訳わかんないよ」
イヴはニコッと笑って右手の人さし指を舐めた。
「そう?」
今の一言の間にイヴは目の前に立っていた。
ルツの腹を膝蹴り、足を掛けて転ばして腰に股がった。
「あのさぁ、もっとやる気出してよ。このままだと殺されるよ?」
「殺される前に殺せって?そんなことできるわけないじゃん」
もう別に死んでもいいや。どうせ生きててもなにもない。ただ苦しいだけ。
でも最後にこのサイコパスに━━━
この日何度目かのため息をついたイヴは地面に落ちてある銃を拾い、銃口を肩に当てた。
「やっぱり貴女はそうやって耐えるだけでなにもしない。今の状況でも同じかぁ。負け犬癖が付いてるね。」
「犬でもウサギでもなんでもいいけど、さっきからあなた、人のこと弱いよわいって言ってるけど、自分は違うの?」
その言葉を聞いてイヴの目付きが急に鋭くなったと思えば、右肩から激しい痛みと出血、それと少し遅れて銃声が耳を打った。
「ぁあぁぁ!!」
「僕は貴女とは違うよ。僕は……僕は僕を蔑ろにした父親に復讐してやったんだよ。それが昨日の話。」
そう言うイヴのいつもの笑みは消えている。
右肩の激しい痛みの中で気力を振り絞りって体をお越し、イヴの胸ぐらを掴んだ。
「それで…どう感じた!?お父さんに復讐してどう感じた!?なんで笑ってないの!?」
「五月蠅いなぁ!!僕は僕を蔑ろにした奴等に復讐することだけを考えて生きてきた。悲願が果たせた。この上ない喜びだよ…」
「喜び!!?私には喜んでるようには見えない!!」
「うっ、五月蠅い!!」
声を挙げたイヴは左手の銃の引金を引いた。
銃声と共に発射された弾丸はルツの頭を貫いた。
「ほんと…」
イヴは立ち上がって銃をルツの右膝に向けた。
右膝がルツの能力核。能力を司る器官。今、ルツが死んだ状態でこれを破壊すれば生き返らない。
ため息をついて寂しそうな表情を浮かべると、自分の前髪を掴んで空を見上げた。
「お父様……僕は…どうすればいいですか?」
足元に倒れてるルツの死体を見つめると、銃を捨て、川の下流へ歩きだした。
歩いていると村が見えた。
木造の民家が点々とあるばかりで、民家の面積より畑の面積の方が拾い。
とりあえず、収穫は少なそうだけど盗みでもするか。
武器を売るほうが早いとは思ったが、バベル家の紋章の入った武器を売れば生残りだとバレる可能性がある。もしバレて、それが王の息子とでも知られれば命を狙われる危険性がある。
「とりあえず、一番持ってそうな家を━━━」
「ねぇ」
後ろからの声に振り返るとそこにはルツが立っていた。
右肩に穴のあいた血まみれの服を着て腕を後ろにくんで、イヴを見つめるその目はとても一度殺された相手に向けるような目とは思えない。
「なに?もういいでしょ。今度こそ本当に━━━」
「あなた、寂しいの?」
「はぁ?」
イヴのすぐ前に立ったルツは、腰を低くしてイヴに目線を合わせた。
「私はね、寂しいよ。私には私を愛してくれるお父さんがいるの。でもね、それでも寂しい。やっぱり、友達が欲しいんだ。」
「だから…なに?」
「あなたは今、一人。お父さんがいる私でさえ寂しいのに、一人のあなたが寂しくないわけがない。」
「だから、五月蠅いって!!」
腰に巻いたベルトから一番最初に手についたナイフを取り出してルツに向けた。
「これ以上言うなら、本当に殺すよ!!?」
「いいよ、殺しても」
こちらに向けられたナイフをものともせずにイヴを優しく包み込むように抱き込んだ。
イヴが手に持ってるナイフはルツの右胸に突き刺さり、胸から体を伝って足にかけて血が流れている。
「辛かったんでしょ?寂しかったんでしょ?私にはわかるよ。この右胸の痛みも、あなたの痛みに比べればわけないよ。」
腕が千切れんばかりに強く抱き締めるほどに右胸から血が流れた。
「だから…違うって…寂しくなんか…」
イヴはそう言うものの、抱き締められることには抵抗しない。
少し涙ぐんだ声はだんだん小さくなっていく。
「ねぇ、イヴ。あなた、もう身寄りもないんでしょ?私と一緒に生活しない?」
「は…?」
ルツの右胸からナイフの柄が落ちた。
イヴはルツを突き放して少し身を引いた。
「なに言ってるの?」
「だから、私のところに住まない?」
「いや…でも…」
自分を殺した人に向かって何を言ってるんだ。
でも、行くあてもなかったしちょうどいいのかもしれない。
「わかった。僕も行くあてないし。でも、1つ約束して。僕を裏切らないって。」
「裏切らない?なにを?」
「友達として、僕を裏切らないって。」
「友達……?」
友達という言葉を聞いて、ルツは今までで生きてきて一番の笑顔を見せた。
「うん、約束する」




