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サイコヘイトの能力者  作者:
新生活
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第39話 「殺人者」

 もう日は沈み、夜の闇が街を抱き締める頃、ルツは街灯の光を避けながら自らの足取りを眺める。

 自分の足は滞りなく、闇の中をかき分け進んでいる。

 闇の中にもうひとつ見えた。自らと同じく、闇をかき分ける足取り。

 

 

 「ルツ…」

 

 

 エリは足取りを止めるが、ルツはその足を止めずに進む。すれ違い際に言葉を交わす。

 

 

 「エレンは?」

 

 「……」

 

 

 何も言わずにただ目線だけで示す方向にたどり、その目を向ける。

 そしてもう一言。

 

 

 「もう帰れ、エリ」

 

 

 そうして足取りは、その音の間隔を狭めていく。

 暗闇に響く共鳴を背中に感じながら、エリは一人歯を食い縛る。

 

 

 「クソ…!!」

 

 

 その音は暗闇に溶け消える。音と共に自分以外の、自分の世界の全てが闇に溶けるとを感じる。

 

 

 「お兄ちゃん!!」

 

 

 残った光はその声だけ。暗闇に同じく立つその人影は、乱れぬ様で闇を踏みしめている。

 

 

 「ルナ…?」

 

 「お兄ちゃん!! こんな時間に、こんなところで、何してるの!?」

 

 

 妹は、俺の心情など知るよしもなく、ただ俺の手を取って光の方へと引っ張る。

 

 

 「ちょっと…ルナ…!!」

 

 「テトもラナも心配してるんだから!!家で待ってるんだから!!」

 

 「でも…」

 

 「危ないんだからね!!近所で殺人事件があったって言うし。しかも犯人は能力者だとかさ」

 

 

 その言葉を聞いて再び立ち止まった。

 そこまで割れているとは。

 その様子を見てルナは首を傾げる。

 

 

 「どうしたのお兄ちゃん?やっぱり能力者って怖いよね。見たことないけど、人間じゃないって言うし、狂暴な性格だって言うし。死なないって言うのは嘘くさいけど」

 

 「ルナ…」

 

 「そんなこわーい能力者の殺人鬼がこの辺にいるんだよ?出くわしたらお兄ちゃん守ってよ?」

 

 「ルナ」

 

 「何?」

 

 

 何と言おうとしてたっけ。

 今までこんな事を思ったのは何度もあった。それこそ数えられないほど。でも実際に口に出せたことは今まで無いままだ。

 

 

 「そうだな。危ないし、帰ろうか。もし殺人鬼に出会ったら、兄ちゃんお前を置いて全力で逃げるから」

 

 「あっはは、殺す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何年前も殺人鬼に出くわした。よく覚えてる。

 青髪で、小さくて、可愛くて、綺麗で、男だか女だかよくわからない殺人鬼。

 彼は意味不明な理由で私を殺そうとしてきた。だから、私は、どうしたんだっけ…

 多分頭がおかしかったんだろう。彼も、私も。

 例え殺人鬼でも、私にとっては理解者になりえる存在だった。だから私は彼を家に招いた。意味不明な言葉を並べて。

 具体的に何て言ったかはよく覚えてないけど、これだけは覚えてる。

 

 

 「恥ずかしいこと言ったよなぁ」

 

 

 そんなことを思いながら、闇の中歩いて、たどり着いたのは港にある古い倉庫。多分しばらく使われていない。

 

 

 「さぁ、今日も恥ずかしいこと言うよ」

 

 

 頭のおかしい人、生まれつきか、環境のせいかは知らないけど。そんな人の相手をするのは、無意識にも得意分野なのかな。

 倉庫の扉は開いている。中は暗くてよく見えない。おもむろに足を踏み入れる。一歩、二歩、そして飛んできた金属を念動力で受け止める。

 

 

 「エレン?」

 

 

 呼び掛けても返事はない。ただ、鉄の塊が飛んでくることもない。

 再び歩みを進める。足元に白い塊の突き刺さった警官の死体が2体ほど転がっていたりするが、今はそんなことあまり重要じゃない。

 

 

 「エレン、私だよ。ルツ、あなたの友達の」

 

 

 ようやく見えてきた。壁に背をもたれ座り込むエレンの姿。

 昼間よりも身体に付着した血痕が多くなっている。この闇の中でもわかるほどに。

 泣いている。怯えている。怒っている。震えている。

 

 

 「エレ━━━」

 

 「違う!!私じゃない!!私は違う!!」

 

 

 そう叫んで泣いている。こちらを睨んで怯えている。

 

 

 「信じないよ」

 

 「なんでよ!!」

 

 

 エレンの前にしゃがんで、血に濡れた頬を指先で拭き取る。凝固した血が崩れ落ちる。そこから覗く肌は、紅潮して怒っている。透いて濡れて震えている。

 

 

 「あなたのお父さんを殺したのはエレン。そこの死体をつくったのもエレン。そ━━━」

 

 「違う!!違うんだって!!」

 

 「…」

 

 

 そっとエレンの背に手を回し、抱き締めた。彼女の胸から伝わる鼓動は、次第に小さくなり、海の波の音が聞こえてくる。

 

 

 「殺して…何が悪い…」

 

 

 囁くように言ったエレンの腕に力が籠る。

 

 

 「さぁ。私にもわからない」

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