第3話 「ルツ」
世の中には能力者と呼ばれる存在がいる。私もその一人。
能力者とはその名の通り特別な能力を持った人間のこと。
私の名前はルツ。
家名はない。もともとこの国では位の高い家柄しか家名を持たない。
能力者は社会的にあらゆる面で差別を受けている。
私は今まで生きてきた14年間、友達がいたことがない。
能力者だから当然といえばそれまでだけど、この赤い髪のせいで虐められる。悪魔だって。
髪の色が違うのは能力者の特性のひとつらしい。
でも私には友達なんて必要じゃなかった。
友達なんていなくても、私にはお父さんがいる。
周りがどんなに私のことを悪く言っても、お父さんだけはいつも私の味方。
私が失敗したときや、虐められて泣いてるとき、いつも優しく慰めてくれる。
私はお父さんが大好き。結婚したいほどではないけど、お父さんが大好き。
お父さんがいれば友達なんていらない、そう思ってた。
でも、最近それは違うと気づいた。
もちろんお父さんは大好きだ。でも、だから友達がいらないなんてのは嘘だった。
自分でも気付かないうちに自分の心に嘘をついていた。
本当は友達が欲しかった。友達と一緒に遊んだり、買い物したり、男の子と付き合ったり…してみたかった。
でもこんな能力があるからそれら全部叶わない。
人が能力者を嫌うのは人がゴキブリを嫌うのと同じだ。
だからその寂しさを紛らすために、自分にはお父さんがいればそれでいいって心に嘘をついていた。
だから、お父さんに頼んでみた。学校に通いたいって。
学校に行けばなにか変わると思ってた。友達もできるかと思ってた。
でも今この社会、能力者が学校に通うこと自体難しい。
それは虐められるからとかそういう問題ではなく、そもそも学校から入学の許可が降りない。
お父さんにそう言って一ヶ月くらいして、学校から許可が降りた。
お父さんは笑いながら、いやぁ大変だったよ、と言っていたが、この一ヶ月間、学校側に毎日頭を下げていたに違いない。
お父さんがそこまでしてくれたんだ。絶対最後までやり通す、そう心の中で誓った。
でも学校に通い始めた初日から、私は虐められた。
でも私は挫けずに頑張った。友達も作ろうと頑張った。
でもやっぱりだめだった。
学校に行けばなにか変わると思ってたけど、実際そんなことはあり得なかった。
それでも私は学校に通い続けた。
お父さんは、辛くなったら相談してくれ、いつでもやめていいんだぞ、と言ってくれていたが、絶対最後までやり通す、そう心に誓ったし、何よりお父さんに心配かけたくなかった。
虐めは日に日にエスカレートしていった。
暴言や誹謗中傷から殴る蹴るは当たり前。刃物で傷付けられたり服を脱がされて裸にされたり。
それでも収まらず、仕舞いには耳や鼻を切り落とされたり、眼球をえぐられたり、変な薬を投与されたりするようになった。
もう耐えられなかった。でも、お父さんには心配かけたくなかった。
その日私は学校に行かなかった。
学校に行くふりをして家を出て、学校とは違う道を歩いた。
お父さんを裏切った。辛くなったら相談してくれって、いつでもやめていいんだって言ってくれてたのに、相談もせず、嘘をついて学校に行かなかった。
罪悪感でいっぱいになった。お父さんを裏切った罪悪感で。
このまま消えてしまいたい。そんな思いで特に目的もなく、川沿いを上流に向かって歩いていった。
歩いてるうちにいつの間にか森の中に入っていた。
川沿いに歩いてきたから迷ったわけではないが、何故か不安になってきた。
「お父さんになんて言えば…」
ふと目に入ってきた。
誰かいる。
とっさに木の影に隠れた。
その姿を見て、そうせざる得なかった。
その人は白い服と顔が返り血だろうか、真っ赤にそまっている。
左手に銃、右手にナイフを持って、腰に1つ、左右の肩に1つずつ、そして右腕に1つ武器を収納するベルトをつけている。
明らかに危ない人だ。普通ならその姿を見た瞬間逃げている。
だけど、その人は明らかに自分より年下の可愛らしい少女だ。とてもそんな危ない人だとは思えない。
なにより、その少女の髪の色。
大分血に染まってるが、多分青色の髪。間違いない、私と同じ能力者。
その少女はさっきまで眠っていたのか、横になっていたが身体を起こして、自分の身体を見回し始め、悲しげな表情でハァとため息をついた。
血まみれな身体を洗うためだろうか、武器を外して服を脱ぎ始めた。
「ひゃっ………」
何あれ、股の間に何かついてる。
あれ、もしかして…男の子?
もしかして私、男の子の着替え覗いちゃった?
「いや、でも……」
男の子にしては異様に胸が膨らんでる。本当に男の子?
男の子でもあんな感じなのかな?
「ってゆうか、なんで私、人の裸まじまじとみつめてるのよ………」
その少女?少年?見ため的に少女は川に入って体を洗い始めた。
さっきまで血まみれだった少女の血はほとんど落ちたようだ。
血まみれでも可愛いかったのに、血が落ちると余計に可愛さが引き立つ。
その艶やかで長い青髪、凛としているがどこか幼い顔立ち、太過ぎず細過ぎない綺麗で長い脚、女の私でも惚れてしまいそうなくらいだ。
そんなことを思いながら見ていると、少女はおもむろに川岸に手を伸ばして銃を手に取った。
「う、ウサギ…?」
少女の向けた銃口の先には白いウサギがいる。
もしかして、撃つの?
少女が引金を引いた瞬間、パァンと銃声が森の中に響き渡った。
「きゃっ!!!」
「誰!!?」
銃声に驚いてつい大きな声がでてしまった。
少女はこちらに気付いてこっちの方向を見ている。
どうしよ、出ていった方がいいのかな。
でも、本当に危ない人だったらどうしよう。
そんなルツの心情を悟ったのか、少女は銃を反対側の川岸に投げ捨てた。
「誰?出てきて」
それでもまだ他の武器は少女の近くにある。
どうしたものか迷ったが、深呼吸をして決心し、木の影から出た。
「あの…えぇと…その…」
どうしよ。出たのはいいものの、今までお父さんとしか話したことないから何を話せば…。
少女はこちらを驚いたような表情で見つめている。
それもそうか。能力者なんて一千万人に一人もいないのに、こんなところで鉢合わせしたんだ。
「貴方、名前は…?」
「私?ルツ」
外見だけでなく声も女の子だ。
透き通ってて可愛らしい声。
さっきまで血まみれでいたのが嘘みたいだ。
ってゆうか、なんで血まみれだったの?
そこに落ちてる武器も含め、今一番気になるのはそこ。
「あの…えぇと……あ、あなたは一体…?」
「僕はね、イヴ、エデン・イヴだよ。」
少女はにこやかな笑みを浮かべた。
エデン・イヴ?エデンと言えば王家の家柄。それにエデン王家の分家はすべてエデンド家に改められる。
つまりこの子は王様の娘…?
「あの…エデンってことは…つまり…」
「うん、そうだよ。僕は王様の息子、真の王位の継承者」
息子?やっぱり男の子だったの?
なら私、さっき男の子の裸を…ってそうじゃないか。
王の息子で王位の継承者?
でもエデン王家の長男はエデン・アダムで、王位の継承者も彼だったはず。
そのエデン・アダムには兄弟はいなかったはず。
「でも…王家の長男はエデン・アダムで…継承者も…」
「あ、アダムは僕の弟。本当の長男は僕で、原則的に本当の王位継承者は僕。」
だめ、全然頭がついていかない。
でも嘘をついてるようには見えない。
「あの…よくわからないん……だけど……」
「まぁ、簡単に言えば、僕は長男として産まれたけど、見てのとおり能力者だから王様にさせないために女として育られて、さらに存在自体を隠蔽した。そーゆーこと。」
まさかとは思ったけど、次期王様になるはずの子にまで能力者差別が進んでいたなんて。
そりゃ能力者の王様になんて誰もついていかないだろうし。
「で、でも王様の息子がなんでこんなところに…それにその武器と血まみれの服…」
川岸に置いてある武器と血まみれの服を指差して聞いた。
「あぁ、これ?実はね、昨日王城が地方貴族のバベル家に襲撃を受けてね。お父様もアダムも簡単に沈んじゃったんだ。だから住む場所もなくなってこまってるんだ。」
沈んだ?死んだってこと?
現在の王と王位の継承者が殺されれば王位の座はこの場合、バベル家のものになる。
つまり、王家交代ってこと?
服についてる血は、イヴが巻き込まれたときに怪我をして?
いや、でもそうだとしても服は背中の部分しか破れていない。それだけで全身真っ赤に染まるとは思えない。
「じゃぁ、この服に付いてる血は?」
「殺されそうになったから、殺しちゃった。」
そう言ったイヴの表情は何故か笑っている。
やっぱりこの子、危ない子かも。
「武器は…?」
「殺した奴から剥ぎ取った。武器がないと戦えないしね。」
なんでこの子こんなに楽しそうなの?
この子もいろいろ辛い思いをしてきたんだろうし、それで性格も歪んだのかな。
イヴは表情を緩めると、川岸に手を着いて川から上がった。
川岸に立って体を大の字にして何か言ってる。
「風よ!!僕を癒してくれ!!」
「は?」
とたんにイヴの周りにだけ風が巻き起こり、イヴの長い青髪が激しくたなびいた。
これがイヴの能力?
「アハハ!!あぁ気持ちいい!!」
てゆうか、なにやってるの?この子。
そう思ってたが、イヴの体の水滴が風で飛んでる。
あぁ、体を乾かしてるのか。
「あの、さっきの台詞必要?風がなんとかっての……」
「あ、いらないよ。いらない。気分だよ。」
風が止み、イヴは体を震えさして川岸にに座りこんだ。
「ねぇ、服持ってない?僕の服、あの血ぃ付いたのしかないんだ。」
「服…あ、学校用のジャージがあるけどそれなら。」
右腕にかけてるカバンから学校用の青色のジャージを取り出すと、風でイヴの手元までジャージが飛んだ。
「ありがと。そう言えばこれ、学校用ってことは学校通ってるってこと?」
イヴは服を着ながら、物珍しそうな口調で聞いてきた。
「あ、うん…まぁ…」
「学校、楽しい?」
正直、聞かれたくなかった。
楽しいわけがない。そんなことわかってるはずなのになんでこの人は…
「そんなの…楽しいわけないよ…言わなくてもわかるでしょ」
「いじめられる?」
「う、うん…」
本当なんでこの子はそんなことを聞くの。嫌がらせにしか聞こえない。
「どんな風に?」
「いい加減にしてよ!!なんなのあなたさっきから!!」
思わず怒鳴ってしまった。
でも本当にこの子はさっきから…
「どんな風に?」
だがイヴは怒鳴られても顔色一つ変えずに、四つん這いで下から顔を覗きながら同じことを聞いてくる。
「…………」
「ならさ、貴方は虐められた時、どうしたの?」
「どうしたって…?」
イヴは呆れたようにハァとため息をついた。
「貴方は虐められて、蔑まれて、それでもなにもしなかった。」
「………っ」
「図星?」
確かに、私は虐められてもやり返したりはしなかった。
でも、もしそんなことしなら、さらに虐めがエスカレートする。
それに、やり返したことが問題にでもなれば能力者の私が一方的に悪くなるのは目に見えてる。
結局、私にできることなんて何も…
「そう…私は虐められても、蔑まれても何もしなかった…」
「イヒッ、やっぱり?」
とたんに笑顔になったイヴは立ち上がって、川岸に置いてある武器の方へ歩きだした。
「イヴ…?」
イヴはなにか武器の中から探しているようだ。
何かを探す動きが止まったと思えば、いきなり振り替えってこっちを見た。
手に持ってる銃の銃口はこちらに向けられている。
「ちょっ!!イヴ!!?」
もう訳がわからない。
銃口を向けてるイヴはフゥと息を吐いて、ニコッと笑みを浮かべた。
「死んで」
パァンと銃声が森の中に響き渡った。




