第35話「復讐伝染」
「結局、エレン学校来なかったね」
それはエレンとエリがルツの家に押しかけてきた翌日のこと。
放課後の学校の教室でルツは机に肘を着きながらぼやく。
ルツの前の席に座ってるエリはルツに体を向けながら小さく首を傾げる。
「さぁ? 何か病気とか…は、考えづらいな」
「ならサボりとか? エレンならやりそうだけど」
「いや、あいつはああ見えて真面目だからな。学校に何の連絡も無しに休んだりしないだろう。小学生から一緒だからわかる」
「そうなの? だったら…」
ルツは黒く染めた自分の前髪を指に巻き付けながら考える。
「まぁ、帰りに家に寄ってみる?家知ってるよね?」
「まあな。入ったことはないけど」
するとルツは立ち上がって荷物を肩に掛ける。そして一瞬だけスマホの画面を確認してからエリに声をかける。
「行こうか、エリ」
「あ、ああ。でもちょっと遠いぞ」
ルツ達はその鉄の扉の前に立った。人通りの少ない通りに面したアパートの2階、階段の2つ隣だ。
「ここがエレンの家?」
「ああ、1回だけ来たことがある。俺が中に入るのは嫌がってたが」
「なるほど…」
ルツは扉の横のインターホンを押す。しかし何秒経っても何の反応もない。
「…いないのかな」
もう一度押してみるが、変わらず反応はない。
家族と旅行にでも出掛けたのだろうか。
そう言えば、昨日は私の家にいて門限を守らなかったんだっけ。もしかしたら…
「ルツ、開いてるぞ」
「…え?」
ルツが考えてる間に、エリが扉が開いてることに気付いた。
「ルツ、入るか?」
「そうだね、あんまり良いことではないけど」
そうして二人は扉の向こうへと進む。
入って真っ先に二人を出迎えたのは、漂う異臭、埃だらけの空気、生暖かい風と二人の捜索意欲を削いでいく。
「何なんだここ?アイツ、こんなとこに住んでたのか?」
「確かに、そこら中にゴミは落ちてるし、誰かさんが見たら激情しそうな」
「誰かさんって?」
「…掃除好きな友達がいるの。いいから進むよ」
二人は更に廊下を進んで行く。
そして、突き当りの扉を開けると二人はその光景に目を疑った。
そこには、椅子に座り心臓に刃物を突き立てられた中年男性の死体と、左腕と左目に酷い傷と多量の血を負ったエレンの姿。
エレンは二人に気付くと、真っ先に言う。
「ち、違う! 私じゃない!! 私はやってない…!!」
エリは状況を飲み込めずだいぶ混乱してるようだが、ルツはすぐにエレンの元に駆け寄る。
「エレン!? 大丈夫なの!? その怪我、それにこの男の人… 一体何があったの!?」
「違う私はやってない… 私じゃない…」
「エレン!!」
「違う…違う…」
エレンの解答は全く要領を得ない。
しかしルツは気付いた。エレンの左腕と左目の傷。腕はナイフか何かでズタズタに突き刺されたようで骨まで見える。目の傷は目蓋の上からナイフで貫通しており、目蓋の穴から眼球が一部見える。
かなりの重傷だがそれより、傷口の血はだいぶ固まっている。つまり傷を負ってからかなり時間が経っている。にも関わらず再生していない。能力核を損傷しているのだろうか。
「エリ、エレンの能力核を視て」
「は、何で…?」
「いいから視て。いつもと変わった感じはある?」
ハルが言ってたが、損傷した能力核は平常時とは明らかに違う。色にしろ形にしろ見えない何かにしろ。エリもハルと同じ能力視を持っているから、損傷しているなら気付くはずだけど。
「いや、多分いつもと変わらない」
「…そう」
能力核は損傷していない。なのに身体は再生しない。考えられる可能性はある。
基本的に能力者は能力核を損傷しないと死なないが、例外は幾つもある。無酸素、栄養失調、能力者の特殊な病気、生後間もなくの死亡、寿命そして…
「妊娠中…」
妊娠中は再生能力がほとんど機能しない。従って妊娠中に死ぬと再生することなく絶命する。
だとすると一体誰の? エリか、もしかしてそこで死んでる男か。いやそもそも、この星では妄りに性交することが不思議ではない可能性もある。
いくら私が一人で考えたところで真相は掴めない。まず、エレンから話を聞かないと。
「エレン、落ち着いて」
「違う…違う…私じゃない…」
「エレン、大丈夫だから。落ち着いて」
「私は…やってない…」
しかし相変わらずエレンの解答は要領を得ない。
すると、後で見ていたエリがエレンの元に歩み寄ると、肩を叩いて叫ぶ。
「おいエレン!! いつまでもいじけてるな!! お前らしくない!!」
「…あっ…、ご、ごめん…エリ…ルツ…」
エリのその言葉でエレンは正気に戻ったようだ。
「エレン、何があったの?」
「わ、私もよくわからない。でも、夜寝てたら、知らない人が私を襲って、それで… お、お父さんも殺されて…」
「お父さん…?」
そこで椅子に座って死んでる男がそうなのだろうか。あまりエレンと似てないが。
いや、そんなことはどうでもいい。
「エレン、その気持ちわかると思う。お父さんを殺されたなんて、絶対許せないよね…?」
「え…?」
「だから必ずその犯人見つけ出して、殺してやろうね…!?」
ルツは両腕でエレンを包み込みながら、その狂気じみた笑みを浮かべた。




