第34話「ルツのお友達」
ルツがイギリスに来て一月ほど経った頃。
ルツは家に帰宅し、玄関の扉に触れた途端感じた。誰かいる。
セヴァは同居してるから当然として、それ以外に二人いる。
「もしかして…」
重い動きで扉を開く。扉の音に反応してか、すぐに声が聞こえてきた。
「あ、ルツ帰ってきたみたい」
「やっと? おっそいなぁ」
別に彼らのことが嫌いなわけではやいが、何というか、気恥ずかしい。
彼らがいるのはルツの部屋。ルツは自分の部屋には入らずに、通りすぎようとした。
「ルツ帰ってきたの?部屋来るの遅くない?」
「多分トイレにでも行ってるんだろ。長いし多分━━━━」
そんな会話が聞こえてきたので、とっさに部屋の扉をバタンと開いた。
部屋にはセヴァと、その向かいに座ってる男女が二人。ルツの学校の同学年の友達で、二人とも能力者だ。
「おかえり、ルツ。ちょっとお邪魔してるよ」
そう言ったのは女の方。金髪の肩にかかる程度の長さの軽いくせ毛が特徴的。名前はエレン・アップルカーゼ。
「あ、うん、いらっしゃい。来るなら事前に言ってほしいんだけど」
「エレンが内緒で来たいって言ったんだ。家の場所は俺の能力で追跡した」
そう言ったのは男の方。黒い乱れた髪、睨むようなつり目が特徴的。名前はエリ・ヒル。
彼が言った能力とは、ハルと同じ能力視。どうやらこの能力は、能力者の能力を判別する以外にも、暗い所でも見えたり、残留した見えないものを見たりすることができるみたいだ。
「というかルツ、お姉さんいたんだね。ひとりっ子っぽいのに」
「え…?」
セヴァの方を見ると、相変わらずニヤニヤしている。ルツはセヴァのところに寄って耳元で囁く。
「セヴァ、なんで姉なの…!?」
「いやぁ、昔から妹が欲しかったんだぁ」
「そんなテキトウな設定で…」
ルツは小さくため息を吐くと、もう一度二人の方を見て話を建て直す。
「エレン違うよ、これは姉じゃなくて親戚の人」
「え?そうなの?でもルツの姉だって」
「セヴァは馬鹿だから。本物の姉だって勘違いしてる」
「なにそれ、おもしろ」
その会話を聞いて、セヴァは不満そうにルツを見ている。それに対してルツも、早く部屋から出ていけと言わんばかりに視線を返す。
「わかったわかった、出ていくよ。それじゃ、お邪魔しましたぁ」
セヴァが出ていくのを冷たい目で見送る。と言うより、それ以外に目を向けにくい。今まで友達なんてできたことなかったし、どう接すればいいのかわからない。ハルとは友達と言うより家族みたいなものだったし。
「家族みたいって…アハハァ照れるなぁ…」
今変な独り言を言ってしまったのも余計に気不味い。
とりあえず、お菓子でも出そうか。いや既にセヴァが出してるみたいだ。
とりあえず、何か話題をぉ…
「エレンって、門限厳しいんじゃなかったっけ?大丈夫なの?」
「……!!」
エレンの表情が一変して凍った。何か言ってはいけないことを言ってしまった気がする。
「アハハ、別に1日くらい大丈夫だって。後でしこたま怒られるくらいだし」
「そ、そう…?」
確かに怒られるのは嫌だろうが、さっきの表情はそんな程度のものではなかったような気がする。
とは言え詮索するのは良くない。話題を切り替えよう。
「あの、エリは家で妹達が待ってるんじゃ?」
「大丈夫。妹達の面倒はルナが見てくれる」
ルナと言うのはエリの家族の長女で妹だ。
そんなことよりさっきから私、早く帰って欲しそうな話題ばかりしてるじゃないか。こんなんじゃダメだ。
「あの、今度のテストのために勉強でもする? エリももう受験でしょ?」
「……」
二人とも無反応だ。
ダメだせっかく遊びに来てくれたのに勉強って。ハルは、智識と充実感は比例するって言ってたけど。
「じょ、冗談だって。それじゃぁ…何かして遊ぶ…?えぇとその…」
地球のメジャーな遊びがパッと思い浮かばない。やっぱり研究不足みたいだった。こういう時、ハルならぱぱっと何か思い付くんだろうなぁ…
「ふふふ、お困りのようだね」
また鬱陶しい声が扉の向こうから聞こえてきた。さっき追い返したばかりなのに。
「こういう時は、あの有名な“配管工で爬虫類を踏み潰すゲーム”でもしないかい?」
そう言ったセヴァの腕にはテレビゲームのハードが抱えられている。
「いいね、配管工で爬虫類を踏み潰すゲーム。私得意だよ」
「配管工で爬虫類を踏み潰すゲームか。まぁ、やったことはあるな。やるか」
エレンもエリも乗り気だ。
ちなみにルツは配管工で爬虫類を踏み潰すゲームをやったことがない。ゲームが下手なのを晒す未来が見える。
「え…配管工で爬虫類を踏み潰すゲームはちょっと…」
「え?なに?」
「いや…何でもない。配管工で爬虫類を踏み潰すゲームやろうか、はは…」
流石にこの楽しい雰囲気を壊すわけにもいかない。
まあ、配管工で爬虫類を踏み潰すゲームなんてやれば慣れるだろう。
とか思ったけど全然できなかった。二時間ほど4人で遊んだが、ルツはいっこうに皆の足を引っ張るばかりだった。
結局ルツは配管工で爬虫類を踏み潰すゲームで何もできないまま、二人は家に帰った。
二人が帰った後、ルツはベッドの上に横たわって呻いている。
「ルツ、どうしたの?」
「なんか…疲れた…お風呂入って寝る…」
ルツはゆっくりと起き上がり、ベッドから降りると、ふらふらと部屋から出ていった。
エレンは自らの家の玄関の前に立っている。
虚ろな目で鉄の扉を見つめ、震える両手を胸に当てている。大きなため息をつくと、ゆっくりと扉に手を伸ばす。
開かれた扉から漂う異臭、埃だらけの空気、生暖かい風、それらを掻き分けながら入っていく。
「エレン!! 遅いぞ!! 殺されてぇのか!!?」
奥から聞こえてきた怒号に足が止まる。足が震えて動かない。それでも無理矢理足を動かし、奥へと歩んで行った。




