第2話 「エデン・イヴ」
王城の入り口には無惨に見張りの死体が転がっている。
さっきの集団は既に王城に浸入したようだ。
たった50人程度の集団に浸入を許すなんてどれだけ薄い警備なの。
レイダがいたときとは違うんだよ。
「君ら、ちゃんと仕事しなよ。これなら僕が見張りやってた方がまだ良かったよ。」
見張りの死体に向かってそう吐き捨て、入り口から王城に入っていった。
その瞬間、パァンという発砲音と共に赤い弾丸が足元に飛んできた。
「銃━━━!!」
考えるよりも先に身体が動いた。
飛んできた弾丸を避けて回りを見回した。
日もないし照明も付いてないから暗くて見えづらいけど風の流れでわかる。敵は4人、正面と左右と後ろ。囲まれてる。
周辺視野で目も慣れてきた。
全員全身真っ黒な服の男達の胸にはバベル家の紋章。
王城の使用人じゃないから殺しても大丈夫。
「よし、殺ろっか」
健気で狂気じみた笑みを浮かべながらナイフを舐めて顔の前でナイフを縦に構えた。
一度弾丸をかわしたし、向こうもただのガキじゃないことには気付いているだろう。
男達は少しこちらの様子を伺っていたが、正面にいる男が痺れを切らして発砲した。
カーンと金属が弾ける音がしたと思えば右側にいる男が左胸から大量に出血して倒れた。
「ハハ、必殺!!弾丸弾き━━━」
とっさに身体を捻って、発砲音と共に後ろから飛んでくる弾丸をナイフで弾き返した。
弾き返した弾丸は後ろの男の頭を貫通した。
「セリフの邪魔しないでよ」
不満そうに頬っぺたを膨らまして男達を睨んだ。
流石に弾丸をナイフで弾き返す奴はヤバイと思ったのか、残った二人の男は後ろを向いて逃げ出した。
「え、逃げるの?逃がさないよ」
倒れてる男の死体の懐から銃を取り出して、逃げる男達に銃口を向けた。
「銃なんて使ったことないけど、いけるかな?」
2発の銃声と共に男達は血を流して地面に身を伏せた。
思ったより発砲の反動は大きくなかった。
フゥと息を吐いて左手に持ってる銃を見つめた。
「これ、けっこう使えるね。」
銃を自分の懐にしまい、倒れてる4つの死体から武器を収納するベルトごと使えそうな武器を剥ぎ取った。
そういえばこいつら、王家の座を剥奪するのが目的なら今の王様、つまり僕の父親と次期王位の継承者、表向きには僕の弟を狙ってるってことになる。
自分の息子を家畜小屋に収納するような父親とは言え、一応身内だから助けた方がいいのかもしれない。
「目的……お父様とアダムを…」
助ける。そう言ってもいいけど、やっぱり自分を家畜小屋に収納した父親を助ける気にはならない。
それに、今まで思ってた奴等を見返す機会、状況が混乱している今なのかもしれない。
考えはまとまらないが、右手の上でナイフを回しながらエントランスの2階へ続く階段を登っていった。
寝室と書かれた部屋の前で足を止めた。
ここに来るまで最初の6人を含めて13人殺した。
全員、赤子の手を捻るほどに簡単に殺せていまいち面白くない。
でも王様がいるこの部屋なら強い奴がいるかもしれないと思ったが、能力者の中でも最強レベルの僕より強い奴なんているわけがないか。
部屋の扉は開いている。もう既に誰かが浸入した後かもしれない。
部屋に入ったすぐ足元に女の死体と2才ほどの子供の死体が転がっている。両方銃で頭を撃ち抜かれているようだ。
「お母様………?アダム……?」
見たことある顔だと思ったら母親と弟。
僕の母親は僕が産まれて、それが能力者だとわかったとき真っ先に僕のことを始末しようと言い出したらしい。いろいろあってその案は凍結されたらしいが。
昔いた僕に構ってくれた人も、弟が産まれてから僕の前に現れなくなった。
「お母様、アダム、不様だね」
見下すように死体にそう言って、母親の死体の頭を踏みつけた。
表情を一定で変えない死体を踏みつけても大して面白くない。踏みつけるなら生きてる人間の屈辱感にまみれる表情がいいな。
「うぁぁ、や、やめろ」
部屋の奥から男が叫ぶ声が聞こえてくる。
部屋の奥を見てみたけど部屋が無駄に広いうえに暗くてよく見えない。
踏みつけていた足をどかして部屋の奥に入ると、豪華な身なりの男が黒い服の男に銃口を向けられている。
「お父様、何をしているのですか?」
「おぉ、お前、イヴか!頼む、助けてくれ!!」
その瞬間、パァンと銃声がなった。男が王様に発砲したようだが、イヴとっさに発砲して弾丸で弾丸を弾いた。
「このガキ、なんで銃なんか━━━」
「うるさいよ」
2発目の発砲が男の頭を貫いた。
男は大量の血を頭から流してその場に倒れこんだ。
父親は少し驚いたような表情でこちらをみている。
「おぉ、イヴ、よくやった。流石私の息子だ。」
偉そうにそう言いながらこっちに歩いてきた。
今まで家畜小屋に収納してたくせに何を言ってるんだ。
「はい、お父様。貴方の息子のエデン・イヴです。」
とりあえず今は助ける。
だけど、後で今までの報いをうけさしてやる。
そんな心情を隠した満面の笑みを父親に見せた。
父親を連れて部屋を出て、出口を目指さずに屋上に向かって階段を登っていった。
何度か敵に遭遇したがその度に全員殺した。
「イヴ、なぜ階段を上るのだ。出口は一階だぞ。」
「黙って付いてきてくださいよ。おとーさま」
返り血で血まみれになった顔で父親を睨みつけた。
この状況じゃイヴ以外に頼れる人がいないので父親も黙って付いていくしかない。
階段を上りきり、錆び付いた屋上の扉を開いて屋上に足を踏み入れた。
さっきまで暗かった空は少し明るくなり、西の山から朝の日差しが射し込んでいる。
それを見たイヴはまるで初めてそれを見たかのようにはしゃいで屋上の柵に身を乗り出した。
「わぁっは!!綺麗!!ここから見たらこんなに綺麗だったんだね‼朝日」
腕で身体を支えて足をぶらぶらさせながら朝日を見つめている。
「何故、屋上に?」
「日の出を拝むため」
足を床に下ろして父親の方を見てニコッと笑った。
「嘘です。お父様、聞きたいことがあります」
「なんだ?」
「何故あのとき僕を裏切ったのですか?」
父親は聞かれたくないことを聞かれたような暗い表情になった。
その時、後ろの扉が開き、黒い服の男達が屋上に浸入してきた。
「うわ、このタイミングで……でもちょうどいいかも。」
イヴは歩いて父親の前を横切り、男達の前に立って銃口を向けた。
「動かない方がいいよ。僕、すっごく強いから。」
そう言うと男達が耳打ちでなにか言っている。
もしかしたら僕のことが噂になってるのかも。そうだとしたらまずいな。
まぁいいや。
「お父様、僕は貴方が裏切ったことを今も恨んでいます。だから、今ここで死んでください。」
男達に銃口を向けながら後ろにいる父親に突き刺すような口調で言葉を吐いた。
父親は少しの間黙っていたが、何かを決心したように歩きだしてイヴの前に立った。
「お父様?」
「イヴ、私は父親失格だ。お前がこんな楽しんで人を殺すようになったのは私のせいだ。それだけじゃない。私の王としての威厳が足りなかったせいでこんな反乱が起きた。父親としても王としても失格だ。私はお前がこれ以上手を汚さないようにここで殺される。」
父親はそう言って男達の方に向かって歩きだした。
自分の罪を認めて死んでくれるなんて予想外だ。
もともと報いを受けさせるのが目的であったので願ったり叶ったりだが何故か心が騒ぐ。
自分が思っていた悪どい父親とは違っていたからだろうか。
思えば父親を恨むようになったのはいつ頃からだろう。
能力者の僕が王になれないのも、王家にいれないのも本当はわかっていたはずだ。
父親を恨むようになる前の記憶では、身内でさえ僕を嫌うなか、唯一僕に構ってくれる優しい父親だった。
今考えれば、恨みなんてどうでも良かったのかもしれない。ただ、もう一度構って欲しかっただけなのかもしれない。
「お父様、待っ━━━」
呼び止めた時にはもう遅かった。
父親は男達に囲まれ、床に倒れて左胸から血を流して動かなくなっていた。




