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サイコヘイトの能力者  作者:
新生活
27/42

第26話 「裏方」

 「え?でも待って本当に…! … ハル?」

 

 

 通話終了の音声がしばらく耳を揺さぶる。

 ルツはため息をつくとスマホをベッドに投げ捨てる。

 

 

 「どうだった?ハルはなんて?」

 

 

 ベッドに横たわって枕を抱き締めるセヴァは、飛んできたスマホを手にして画面を立ち上げる。

 

 

 「なんか、何が起ころうと知ったこっちゃないって」

 

 「ふーん、でも決意の表明や真っ向な否定をしなかったってことは、まだやらないと決めたわけじゃないってことだね。多分」

 

 

 エラーの表示を連発させるスマホの画面にセヴァの顔はだんだんと地に、ベッドに伏せていく。

 ベッドに顔をうずくめたころには意味もなく「あ~~~~」と呻いている。

 

 

 「ルツゥ、誕生日いつ?」

 

 「え?えぇっと…… こっちの暦で言うと7月23日だったかな…? って何やってんの!?」

 

 

 誕生日からスマホの暗証番号を割り出そうとしてたのがバレたのか、ルツはとっさに立ち上がってセヴァからスマホを奪った。というのはセヴァの反射的な勘違いで、ルツが奪ったのはスマホではなくセヴァが抱き締めてた枕の方だ。

 

 

 「こ、これはお父さんが4歳の誕生日に買ってくれた枕なんだから!!雑に扱わないでよ…」

 

 

 ルツが言う割には10年以上使ってるとは思えないくらい綺麗だ。

 セヴァは取られなかったスマホにルツの誕生日を入力してみたがエラーの画面は変わらない。

 

 

 「ルツってホントお父さんっ子な。ハルにするかお父さんにするかどっちかにしなさいよ」

 

 

 するとルツは和やかな笑みをセヴァに向けた。しかしセヴァはその笑顔に返すことができなかった。それの意味を知っていたからである。

 

 

 「どっちもとらないよ。だから、今度は、ハルだけはあなた達に奪わせない」

 

 

 やはり、この言葉にも返すことができない。ただ、この言葉に応じることならできる。

 

 

 「そっか、復讐…まだだったもんね。それなら今、ここで殺してみる?」

 

 

 セヴァはベッドから降りて、ルツの前で両手を広げてみせた。

 予想外の反応にルツは少し困惑していたが、近くに落ちてるハサミを拾ってセヴァに向ける。

 

 

 「いいの?ほんとに?2年前とは違うよ?私は確実に、自分の力でセヴァを殺す」

 

 「いいよ、来て」

 

 

 セヴァがそう言った瞬間、瞬く間もなくルツは右手に持ってるハサミをセヴァに投げる。

 セヴァがそれをかわした瞬間、ルツがセヴァの胸に飛び込んで二人はベッドに倒れこむ。

 攻撃ではない。ルツはセヴァに抱きついたまま動こうとしない。

 

 

 「そんなことするわけないじゃん。引っ越したばかりで部屋が汚れるのやだもん。それに、私とセヴァはもう家族みたいなものでしょ?」

 

 「んもう! ルツったら可愛いんだから。こんな可愛い娘に殺されるなら本望だよ」

 

 

 セヴァがほざいてる間、ルツはセヴァの胸の中で不敵に笑う。

 

 

 「確実に…ね…」

 

 

 その声はセヴァには聞こえないほど小さな声で。

 

 

 

 

 

 

  さっきから弥生の歩く方向が、自分の家の方向と一緒だ。

 もしかして、もう一度自分の家に来るつもりなのかとおもったが、普通に家が近かっただけみたいだ。ハルのアパートのすぐ門をまがったところにあるアパート。そこの2階、202号室が弥生の家らしい。

 弥生がその扉を開いたとたん、ガシャンと音と共に扉が止まった。扉のチェーンがついてるようだ。にも関わらず弥生はさっきからガシャガシャと扉を開こうとしている。

 

 

 「千夏…ちょっと待って」

 

 

 扉の奥からの声に千夏は手の動きを止めた。

 しばらくして、ガシャガシャとチェーンを外す音がすると扉が開いて中から女の人が顔を出した。

 女はハルを見て少し驚いたように目を凝らしてみせた。一方のハルも同じような表情を見せる。

 

 

 「えと…千夏のお友達かな?」

 

 

 驚いた理由は、その女がなんの恥じらいもなく下着姿で出てきたから、だけではない。その女がどこかで見たことある顔だから、だけでもない。

 

 

 「まぁそんなとこかな。本日転入してきた安土春です。見ての通り能力者」

 

 「そう、私は弥生(やよい)真秋(まあや)。千夏の姉よ」

 

 「え…?」

 

 

 やはり驚きが少しばかりか出てしまう。それは姉妹のわりにはスタイルのよさが違いすぎるから、ではない。彼女の名前がどこかで聞いた有名人の名前だから、でもない。

 こんな偶然、見たことも聞いたこともない。

 

 

 「本当に血の繋がった姉妹ですか?」

 

 「え?うん、そうよ。正真正銘、千夏の実の姉です。なんで?」

 

 「いえ、別に… もしかして、双子ですか?」

 

 「え、なんで?見ての通り年は離れてるよ。3つ」

 

 

 さっきから変な質問に真秋も不信感を隠せない。

 言ってる間に千夏は真っ先に家の中に入り込んでいた。

 弥生が入り込んでいった跡を追うように家の中を覗いてみると予想通り、散らかり放題。

 覗いていると意外な言葉が女の口から飛び出た。

 

 

 「上がってく?」

 

 

 よくもまぁ、こんな散らかった部屋に、なんの恥じらいもなく人を上がらせようと思ったものだ。

 せっかくなので掃除でもしていくかとハルの中の主婦魂が言ってる。

 

 

 「それでは、お邪魔します」

 

 

 玄関を上がり、足の踏み場もないとまではいかないものの、ゴミや埃の散らかった廊下を爪先で抜き足差し足で歩いてく。

 開きっぱなしの扉をひとつくぐると、千夏が散乱した物の上に座りながらムシャムシャメロンパンをかじっている。口もとからパンかすがポロポロ落ちてるのも気にせずに。

 

 

 「この子ね、メロンパン大好きなのよ」

 

 

 真秋は慣れたように物の隙間に足を運ばせながら、唯一物の散乱してない布団の上にうつ伏せに倒れ込む。

 ハルも足もとのゴミを掻き分けて開いたスペースに座り込む。

 

 

 「そういえば、弥生真秋ってあの弥生真秋ですか?」

 

 「ん?どの弥生真秋かな?」

 

 

 真秋は野菜チップスの袋に手を突っ込みながら左手でスマホをいじっている。

 

 

 「ハリウッドに出演がかまったとたん、いきなり長期休業に入ったっていう」

 

 「ええ、たしかにその弥生真秋だね」

 

 

 真秋の女優とは思えないほどの自堕落さには驚きだが、それ以上にハルには気になることがある。

 

 

 「そんなことよりここ、この部屋汚なすぎない?」

 

 

 ハルがそう言うと真秋はごろんと仰向けに転がって首と顎を一直線にしながら部屋を見回す。

 

 

 「そうかな?確かに綺麗ではないけどこんなもんじゃない? …ってゆうかタメ口。別にいいけど」

 

 

 するとハルは立ち上がって、床に落ちてるおそらく使用済みで洗ってない下着をつまみ上げる。

 

 

 「それ私の。使ってしばらく放置してたから汚ないよ?」

 

 

 この女には本当に恥じらいがないのかとつくづく思った。

 

 

 「僕が掃除しようか?かわりに、聞きたいことがあるの」

 

 「別にいいよ掃除なんて、どうせすぐ散らかるから」

 

 「だめ、僕のプライドがゆるさない」

 

 「…? まぁなら勝手に。それで、聞きたいことってのはやっぱり…千夏のこと…?」

 

 

 真秋が急に真剣な感じになった。

 やはり2年半のうちに何かあったのだろう。

 

 

 「ええ、3年前、弥生さ…千夏が不登校になったとき、何があったのか」

 

 

 真秋は上半身を起こしてくるっと半回転してハルの方を見ながらあぐらをかく。

 

 

 「3年前、あんまり人に言うのもあれだけど… 簡単な話、誘拐…かな?」

 

 「誘拐…?なんで?誰に?」

 

 「詳しいことは聞いてない。聞かない方がいいだろうって刑事の人が」

 

 

 ほしい情報は揃った。

 学校での千夏の行動から、誘拐されてそこで何が行われてたのかはだいたい予想できる。

 恐らく臓器売買。能力者の臓器を摘出して、再生して新しく作られればそれをまた摘出する。つまり能力者は金のなる木のようなもの。さらに社会的な立ち位置からも扱いやすい。

 学校での千夏の行動、腹を自ら切開という行動も説明できなくもない。拘束され、麻酔も投与されないまま何度も何度も腹を引き裂かれ、臓器を取り除かれる痛みと恐怖が毎日毎日何度も何度も続き、次第に千夏の身体はそれらから逃れるため、恐怖という感覚ごと感情を消し、痛みを快感と捉えるようになった。かなり強引なように思えて実際に結構ありえる話だ。

 

 多分真秋は、話を聞きながら少し笑ってるハルが気にくわなかったのだろう。目でそう言ってる。

 それに気付いてハルは自粛した。

 

 

 「そうだ、言わなきゃいけないことが…」

 

 

 とは言ったものの、これを言うべきか今一度迷った。千夏がわざわざ授業中に、体育館の裏でそれをやっていたのに意図があるのかはわからないが、人が来ない時間帯に、人が来ない場所でやっていたのだとしたらそれを姉に言うべきではないのかもしれない。

 

 

 「千夏が今日、自分で自分のお腹を切開してた」

 

 

 やはり言わないわけにもいかない。

 こんなことを聞いても真秋は大して驚いてもいない。

 

 

 「……そう…なんだ…」

 

 

 反応から察するに、同じようなことが前にもあったのだろう。ただ、真秋の顔は憂いに満ちている。

 

 

 「前にも同じことが?」

 

 「ええ、一回だけ。病院でね… もしかして、一回だけじゃなくてもっとあったのかも。千夏が入院してたとき病室からいなくなったの、それで探してたら、調理場で自分の腹を包丁で裂いて、内臓を引摺り出してた。今までないくらい楽しそうに、嬉しそうに笑ってた…… うっ…」

 

 

 とたんに真秋は口元を押さえた。そのまましばらくして両手を膝におろす。

 一方、ハルの心中はそんなことお構い無しだ。欲しい情報は手に入ったと立ちあがり、辺りに散らかった物をかき集める。

 

 

 「何してるの?」

 

 「決まってるでしょ。おそーじのじかんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハルが帰った後のこと。

 さっきとは打って変わって綺麗になった部屋で、千夏が布団で寝てる側に寄り添いながら真秋は電話の向こうの声に返す。

 

 

 「ええ、あなたの言った通り安土春が来た。千夏のことを聞いて、掃除して帰ったけど」

 

 

 千夏が寝てるのであまり大きな声は出せない。離れればいい話ではあるが、ハルの話を聞いてからは心配でたまらない。

 電話の向こうでも、聞取りづらくてイライラしているようだ。

 

 

 「それで…本当に、安土春は……」

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