第24話 「ハートをあげる」
午前中の授業が終わった後、給食の時間での出来事。
ハルは配膳中、ウキウキしながら待っている。日本の給食の評価はどうなのかよくわからないが、セヴァはおいしいと言っていた。なので一応待ちわびている。正直、真面目な案件以外でのセヴァの情報は信用できないが、自分調べでは標準以上と出てる。
それで待っていて、配膳が全席ちょうど終わるであろう頃のこと、突然ハルの机の上の給食がトレイごとひっくり返された。汁ものが飛び散り、慌ててハルは立ち上がる。
「ヒャッ、熱っ」
「あらぁ、ごめんなさいねぇ」
ハルの机の隣に立つのはクラスメイトの東野香渦、トレイをひっくり返した犯人。左手の薬指を口元に当てながらハルを見下ろしてる。
「もぉ、ぬれちゃったじゃん。どーするのぉ?」
ハルは笑顔で冗談混じりにそう言いながらハンカチでズボンを拭く。
すると東野はニカッと笑い隣の席に座ってる弥生の髪の毛を掴み、汁ものの入ってる器に顔面を叩き付ける。
「ほら、これで能力者どうしお揃い、いや、お似合いだね」
汁ものを顔面に浴びてもなお顔色ひとつ変えずに黙ってる弥生に対して東野は薬指を口元に当てて笑ってる。
「それ、楽しい?」
いつの間にかハルは東野のすぐ隣で首根っこにシャーペンを当てている。そのあまりの威圧感と狂気に東野は腰を抜かしてその場に倒れこむ。
「あれ?どうしたの?足でもつった?」
倒れてる東野にそう吐き捨てるとハルはすぐに弥生の方に向かう。
「弥生さん大丈夫?本当ひどいよね」
ハルはそう言うとハンカチで弥生の濡れた顔を優しく拭き取る。
そうしていると二人の周りに数人の女子が集まってきた。
「ねぇあなた、香渦に何したの?」
「ちょっと脅かしたらね。ごめんごめん」
ハルはそう言うとまた弥生の顔を拭き続ける。するとまた弥生の座ってる椅子が蹴り倒され、ハルは慌てて弥生を抱き抱える。
「アハハ、安土さん男なんでしょ?さっきからそれ、セクハラ行為だよ?」
「そう?ならあなた達はサイコヘイトだね」
ハルは倒れた椅子を立て直しそこにもう一度弥生を座らせる。
すると今度は数名の女子の中から一人がハルのもとに近づいてくる。
「あんたさぁ、男のくせに可愛子ぶって、調子乗ってんじゃないの?」
「そんなに可愛いかな?ありがと井元さん、心配しなくても皆可愛いよ?」
「は?馬鹿にしてんの?」
ハルは無視して掃除道具ロッカーから雑巾を何枚か取り出してきて1枚を東野に投げ渡す。
「東野さんが溢したんだから、手伝ってよね」
そして弥生にも1枚差し出す。
「悪いけど、弥生さんも手伝ってくれるかな?」
しかし相変わらず弥生は何の反応もないし動こうともしない。
ハルはハァとため息をついて腕を下ろす。
「ねぇ、なんで弥生さんがこんなんなのか誰か知らない?」
周りにいる女子達は何も答えない。するといきなり西村が割り込んできて喋り始める。
「弥生は小5の時までは普通だったんだ、むしろ五月蠅いくらいだったし。でも、今から3年くらい前から学校に来なくなって、それで半年前、登校し始めたと思ったらこれだ」
「へぇ、あなたがそんなこと喋ってくれるなんて。やっぱり僕達仲良くなれそうだね」
すると西村は何も言わずにその場を去って行った。
「へぇ2年半ねぇ、何があったのかな。あ、そんなことよりこれ拭くの手伝ってよね」
ハルが東野の手を引くと東野はそれを振り払う。
「誰が手伝うって?皆、行こ」
東野は雑巾を投げ捨てると他の女子達と共に去っていく。
「あら、ズルいもんね」
するとハルはその場にしゃがみこんでこぼれたものを拭き始める。
「あ、弥生さん、こぼれちゃったから代わりを…… ってあれ?」
気付くと弥生はいなくなってる。見回してみると配膳台の前で立ち尽くしてる弥生の姿。様子を見に行ってみると食缶の中が全て空なのに気付く。心なしか空の食缶を見つめる弥生の顔は少し曇ってるように見える。
「ありゃー、皆空じゃん、どうしよっか。皆から少しずつ分けて……もらえるわけないか」
するとハルは担任の森久保の元へ駆け寄る。
「先生、給食全部なくなったみたいで、どーせ誰も分けてくれないので一旦家帰って食べてきます。いいですよね?」
「転校初日からぁ何を言うぅかと思えばぁ、えぇでもぉ今日はぁいいでしょっ。ただしっ、昼休みぃ終了までにはっ帰ってぇ来ること」
「はい、ありがとうございます」
ハルは笑顔で返事すると弥生の手を引きながら走って教室を出ていく。
校門の前でハルは振り返って時間を確認する。
「あと35分かぁ、時間もないし弥生さん、跳ぶよ」
ハルが弥生の手をさらに強く握ると砂ぼこりが舞い、枯れ葉が巻き上がる。その風はだんだんと強くなり、二人の体はだんだんと浮き上がる。ハルが地面を力いっぱい蹴りあげると二人の体は空高く飛び上がる。
ハルは指先で風向きを操作しながら千夏が落ちないようにしっかりと千夏の手を握り締める。自分が空高く飛んでるというのにやはり弥生は何のリアクションもない。
ハルが自分のアパートを上空から見つけると、二人はだんだんと下降していく。
両足で綺麗に着地したハルに対して弥生は地面に着いた瞬間ドサッと地面に倒れ込んだ。
「プフッ、ダサ」
ハルは弥生の手を引いて立ち上がらせるとそのまま手を引いてアパートの階段をのぼってく。
203の部屋に入るとハルは靴を脱いで上がり込むが、弥生は玄関でずっと立ち尽くしている。
「弥生さん、あがってあがって。昨日の夜が残ってるから」
ハルがそう言うと弥生はおもむろに靴を脱いで上がり込む。
だんだんと弥生の性質がわかってきた。この子は食べ物に関することになると動く。もしそうなら餌付けして手懐けれる、とハルは思った。
ハルは弥生をリビングのテーブルの椅子に座らせると昨日の夕飯の残りであるカレーライスを弥生の前に出す。
「カレーおいしいよ、食べて食べて」
弥生はしばらくそれを見つめるとゆっくりと口に運ぶ。
すると弥生はそれを口に入れたとたんにスプーンを床に落とし吐き出した。
「ふへっ?甘口なのに」
ハルはスプーンが床に落ちる前にキャッチすると、赤い顔でよだれを垂らす弥生の方をチラ見する。
「なんだ、猫舌か」
するとハルはスプーンでカレーをすくうとフゥフゥと息を吹きかけ弥生の口元に運ぶ。
「はい、あ~ん」
弥生はそれをしばらく見つめるとゆっくりとそれを口に含み、飲み込んだ。
もう一度ハルがフゥフゥ息を吹きかけると今度は見つめる間もなく食らい付いてきた。
ハルはペットに餌をあげる感覚でなんどもそれを繰り返す。途中から、ただのクラスメイトをペット感覚で扱ってる自分がなんだか笑えてきた。
弥生が食べ終えた頃、ハルが時計を見るともう昼休みが終わりそうな時間だ。
食べさせるのに夢中になりすぎた。
ハルは栄養補助食品のブロックをくわえると弥生の手を引いてすぐに家を出た。
教室に戻ると全員の視線がハル達に集まる。特に東野の一味はヘラヘラ笑いながらこっちを見ている。
何事かと思い、東野達が集まってる自分の机の方に向かうと、ハルの机には弥生と同じく死ねだのブリッ子だの罵詈雑言が書き乱されてる。
「あーあ、まぁたこんな幼稚な… 誰がやったの?」
すると東野が近寄ってきてハルの眼前に立ちはだかる。
こうして二人並ぶと身長の差が目立つ。身長高めの東野に対して普通より少し低めのハル、それよりさらに低い弥生は小学校低学年と間違われそうなほどだ。
「誰がやったかなんて関係ないでしょ、ちょっと気迫があるからって調子乗ってさぁ。しかも、男のくせになんでこんなもんつけてるの」
すると東野はハルの前髪のヘアピンを奪い取り窓の外に投げ捨てる。
「あははっ、手が滑っちゃった」
東野がそう言ったとたん、いきなりハルが東野を押し倒しそのうえに股がる。ハルの表情から察するにだいぶ怒ってるいる。
「へ、へぇ… そ、そんなに大事なんだ」
東野は心底怯えながらも悪態を取る。
「……ぐぬ……お、落ち着け……」
ハルは怒りをグッと堪える。ここで手を出したらこっちの負けだ。今だけじゃない、例えどんな状況でも手を出したら能力者が一方的に悪くなる。
それは19年前に世界的に起こった能力者虐殺による影響、被害者は全員能力者だがそれを行った組織も能力者だ。だから能力者は凶暴で血の気が多いなどのイメージが染み付いている。
「あのさぁ、ここに死ねって書いたのだれ?」
ハルは立ち上がって自分の机の方を指さした。
周りの反応から察してそれが井元だとわかった。
するとハルは制服を脱ぎ捨て、下に着ている体操服姿になるとゆっくりと井元の前に近付く。
「死んでほしいんだってね」
「そうだけどぉ?それが?」
その瞬間、ハルは自分の服の中に右手を突っ込んだと思えばいきなり口から吐血する。左胸から血が滲み出て大量に床に滴り落ちる。ハルは息を荒くしながらもその顔は何故か笑ってる。
井元はいきなりのことに混乱している。そしてさっき服の中に突っ込んだハルの右手から何かを受け取った。その真っ赤でドロドロした何かは規則正しくドクドク動いている。
「僕の……心臓……受け取って…」
「へ……?」
その言葉を聞いてようやくそれが何なのか気付いた。
ハルが床に倒れるのと同時に井元は尻もちをつく。あまりのことに声も出ない。しかし周りからは何度か悲鳴があがる。
ハルが生き返って起き上がった時には周りは大混乱だったが、ハルはそんなこと気にも止めず辺りを見回す。
「あれ、弥生さんは?」
さっきまでいたはずの弥生がいない。
ハルは鞄からタオル(セヴァお手製。吸収性抜群!!体内の血液全部吸ってもお釣がくるよ(嘘)!! byセヴァ)を取り出し血の処理をすると、血のついたタオルをビニール袋に入れて鞄に突っこみ、制服と着替えの体操服を持って教室から出ていった。




