表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイコヘイトの能力者  作者:
序章
21/42

第20話 「地球へ」

それから一年と半年後の月日が流れた。


カーテン越しに降り注ぐ眩しい日射しに照されルツは目を覚ました。

いつもなら夜明け前から訓練を始めるのだが今日は休みだ。でもそれにしても遅く起きすぎた。

ルツが両腕を上げ体を伸ばすとその時寝室の扉がガチャンと開いた。



「あ、ルツさん、起きてたんですね」



扉の奥から現れた青紫色の髪のその女の子はホカホカ湯気をたててるマグカップを手にルツの隣まで歩いてきた。



「あの、これハルさんに教えてもらって煎れたコーヒーです。ルツさんにも飲んでもらいたくて…」


「うん、ありがとう」



ハルはマグカップを両手で受け取るとゆっくりと口元まで運んだ。


この女の子の名前はタヴィデ、12歳。一年ほど前、つまり入隊してから半年ほど経った頃例の研究所で被験体になってたのを助け出してきた。つまりこの子も能力者。

助け出した当時は辛い実際の恐怖から口も聞けないくらいだったが、今は普通に喋れるまで回復した。優しくて素直で気も回るしとても良い子だ。


ルツは口元に傾けたマグカップを膝元に下ろした。



「あのぉ、どうですか?」


「よくわかんないや」



ルツはそう言うとカップを持ったまま立ち上がった。



「ハルは?何してる?」


「ハルさんは昼食の準備をしてます」



ダヴィデがそう言った瞬間、部屋の扉がガチャンと開き、エプロン姿で長い青髪を後頭部に一つ結びいわゆるポニーテールのハルが部屋に入ってきた。噂をすれば…

ハルはマグカップ片手に立っているルツを見ると少し怒ったように頬を膨らませた。



「ルツ、休みだからって起きるの遅すぎ。もうお昼の時間よ早く下りてきて」


「わかった、わかったからそんな怒らないで」


「っ………別に怒ってないし……」



ハルはルツ達に聞こえないようにそう呟くと振り返って扉を開いたまま部屋を出ていった。

ハルが部屋を出ていくとルツはそういえばと言うようにダヴィデの方を見た。



「セヴァは?いつもなら飛び込んで起こしに来るのに」


「それが今日の朝、秘密の用事があると言って家を出ていきました」









今ルツ達がいる建物から西側に少し離れたところにある白く四角い建物の天井がゆっくりと開き、上空から現れた円盤状の飛行物体がゆっくりとその中に入っていくと建物の天井はゆっくりと閉じた。


建物の中、倉庫のような広い空間、円盤状の飛行物体のハッチが開き数秒後中から出てきた金髪の癖毛頭の男を茶髪の長身の女が出迎えた。



「お帰りぃレイダぁ、どうだった?エサウは?」


「あぁ、年寄りは早く故郷に帰りたいと言ってたがもう一度だけ待ってもらった」



ハルとルツが入隊してから数日後、レイダは王の命でもう一度調査現地に出向いていた。そして今回の帰省も一時的なものでまた調査現地に出向く予定だ。


その後、二人はその広い空間から別の部屋に移動した。その移動の最中の会話。



「ハルとルツはどうだ?」


「うーん評価だけ言うと、ルツは頭脳10、射撃11、体力9、筋力9、格闘術10、能力10、精神力11、適応力11、判断力9、忍耐力11。ハルはオール12」



ちなみにこの評価は12段階評価である。この国の文化では12進数で数を数える。12がいくつもの約数を持っているからだ。

その評価を聞いたレイダは少し黙って考え込んだ。



「次の調査には同行できそうか?」


「問題ないね」



螺旋状の階段を下り、下りた所にある扉のロックを開き、中の部屋に入った。

レイダは着ていた上着をハンガーに掛け黒いソファに腰かけると突然セヴァに鋭い目線を突き刺した。



「お前、例の研究所の被験体勝手に助け出して匿ってるらしいな」


「え、あ、うん、ダヴィデのこと?」



レイダはハァとため息をついて頭を押さえると頭を横に振った。



「そいつは有能か?」


「へ?うーん…物覚えは良いけど頭脳は普通くらいだしそんなに動けるわけでもないし能力も集中力も並以下。有能ではないかな」


「お前なぁ、ここは能力者保護施設じゃないんだぞ?俺が必用としてるのは有能な能力者だ」


「でも私達が助け出さなかったらあの子は一生モルモットのままだったんだよ?」



少しの間レイダは黙りこむとチッと舌打ちをして立ち上がると隣に立つセヴァの横すれ違い際に立ち止まった。



「エデン・イヴの世話をしたいと王に言ったのもお前だったな。弥生千夏とか言う奴のこともダヴィデのことも、それでルトサとルリアに罪滅ぼししてるつもりか?」



レイダのその言葉を聞き、セヴァは今まで自分でも気付かなかった何かに気づき暗い表情で黙りこみ虚ろな目線をどことなく向けている。そんなセヴァをおいてレイダが部屋を出ようと扉を開いたとたん黙っていたセヴァが唐突に口を開いた。



「戦艦13隻を一人で沈めた英雄サンがこんな辺境の星で王に媚びへつらって有能な能力者集めて、何がしたいの?」



部屋から出ようとしていたレイダはピクッと動きを止め、開いた扉に手をかけたまま後ろを振り向いた。



「半端な強さじゃ誰も守れない。誰も…」


「誰も?あなた守りたい人なんていたの?」


「はっ、馬鹿が。俺が守りたいのは自分だけだ」









セヴァに呼ばれたハルとルツはダヴィデと一緒に建物の中の一室、大学の抗議室のような階段状に椅子と机が並んだ部屋に入った。

部屋の中では一年半ぶりに見るレイダとセヴァがよくある険悪な雰囲気を漂わせている。正直、二人ともこの空気は苦手だが、だいたいこの空気になってもすぐにセヴァがヘラヘラ笑って自分で作った暗い空気をぶち壊す。はた迷惑な話だ。ということで二人は部屋に入り椅子に座って空気が壊れるのを待った。知らない人がいて人見知りが発動しておどおどしているダヴィデもルツの影に隠れながら部屋の中に入ってきた。

数秒もたたないうちに入ってきた3人に気付いたセヴァは途端に笑顔になって教卓に立った。



「はい3人とも、悪いんだけどこっからは機密情報も含むのでダヴィデは外してもらえないかな?」


「あ、はい。わかりました」



ダヴィデは返事をすると立ち上り少し早足で部屋を出ていった。



「機密情報?私達は聞いても大丈夫なの?」


「うん、あなた達なら教えても大丈夫。けどダヴィデはちょっとね…」



セヴァは教卓に置いてあるお茶を口に運ぶと天井からスクリーンを下ろした。



「えぇとですねぇ、皆さんご覧の通り今日レイダが帰ってきたんですねぇ。そんなレイダから二人へ正式な任務です。任務の内容はこちらジャジャン」



セヴァがそう言うと白いスクリーンに黒い背景と青と緑の球体が映し出された。



「地球の調査です」



暫時沈黙に包まれた。ハルもルツも喋るどころか反応すらしようとせずただボーッとスクリーンなのかセヴァなのかどちらでもないのか見つめている。暫時どころか既に20秒くらい沈黙している。その沈黙を破ったのはやはりセヴァだった。



「フフッ、二人とも意味不明って顔してるね。地球とはつまり、宇宙のどっかにある星のことです」



その大雑把な説明を聞いても二人はいまいちピンときていない。

暫くさらに黙りこんだ後、ハルが口を開いた。



「いやいや、おかしいでしょ宇宙って。宇宙開発なんて5年前、ノルデン国の衛星の調査船が行方不明になって以来どこの国も行ってないはず。それ以前に技術力の低いこの国が宇宙なんて…」


「うーん… 5年前かぁ… 実はその調査船、本当は帰ってきてるんだよねぇ」


「は?何言って━━━」



セヴァは手の平を前に差し出してハルの言葉を止めると更にスクリーンの画像を変えた。スクリーンには見たことのありそうだが見たことのない景色が何枚も貼り出されている。



「まぁ、ちょっと最後まで聞いてくれないかな。地球とは平均半径6371メートル、質量はえ~と… まぁ質量も密度も自転周期も公転周期も太陽からの平均距離も何もかもあなた達の住んでるこの星、ブイヴァルと殆ど変わらないかな。つまりこの星と殆ど同じ環境。勿論生き物はいるし文明もあってこの星より少し進んでる……………」



長いので省略するが、それからハルとルツは地球についてのことを延々とスライドショー込みで聞かされた。地球の状勢、環境、文化、国、流行り、テロ組織、セトラルト、そして能力者差別。地球にも変わらず能力者を差別する文化がある。結局、どこに行ってもそういう悪いとこは変わらないらしい。

調査の目的は軍事的な目的。元々エデン王の時は技術的な目的だったが、バベル王に代わってからは目的も軍事的な目的に変わったららしい。

調査と言ってもハルとルツのやることは簡単で、ただ地球に住み、その生活を日記に記すだけ。それだけのことならダヴィデにもできるのではという意見も出たが、調査には何が起こるかわからないし、最悪、調査で来てることがバレればその人を殺さないといけないことになるかもしれない。ダヴィデにはその覚悟がない。


なんやかんやで地球と地球への調査の説明を長い時間聞かされていた二人はその話が終わる頃にはへとへとでぐったりしている。ハルに至っては話が終わった瞬間机に突っ伏してグースカ眠りだした。



「でも…宇宙人って本当にいたんだね」



背もたれにのし掛かり天井を見上げてるルツがそう言うとスクリーンを天井に戻していたセヴァがほくそ笑んだ。



「なぁに行ってんの。宇宙人なんてずっと近くにいたでしょ?」


「は?近くに……」



ルツは訳がわからないという顔と同時に好奇心をねじ込んだ眼差しをセヴァに向けた。

セヴァはニコッと笑うと更に口を開いた。



「そう、宇宙人から見ればこっちも宇宙人。宇宙の片隅の星で宇宙の一分である私は皆宇宙人。つまりあなたも宇宙じ…………」



セ熱弁してる内にルツが部屋からいなくなってるのに気付き慌てて部屋を出たセヴァを追いかけて廊下で捕まえた。



「ごめんごめん嘘うそ。ルツの思ってる通り、私とレイダ、宇宙人だよ」


「あ、そうなの」



セヴァの言ってることの割にルツの反応は薄い。さっきのやりとりがなければもっと驚いていたのだろうがさっきのやりとりで完全に熱が冷めた。



「えぇ、ルツ反応薄い。信じてないでしょ」


「いやいや信じてるから。前から気になってたけど、能力者でもないのにハルと同じくらい強いのはそのせいでしょ?」


「お、ルツも鋭いねぇ。私達の故郷の人間は重力だの環境だのの影響で身体能力が高いんだよね」



その後、セヴァの故郷の星について詳しく聞いた。

セヴァの故郷の星ファータは5年ほど前、ウィルス爆弾によって滅んだらしい。かなり進んだ文明を持っていて、地球に行く技術もその星の技術らしい。

いわくレイダはその星でそう言う知識に精通していて逆にセヴァは能力者の知識に精通していた。普通逆じゃない?とも思ったがそれは置いといて、5年前、ウィルス爆弾から生き残ったセヴァ達はたまたま迷ってその星に降りたノルデン国の調査船、さっきハルの言ってた行方不明になった調査船に乗ってこの星に来たらしい。

話が壮大すぎて信じがたいが、セヴァの顔と声を聞く限り嘘ではなさそうだ。

正直、この数時間の間で宇宙だの地球だのファータだの頭が大分混乱している。







それから半年間、ハルとルツは地球での生活のために地球について学んだ。

ハルは一月もしないうちに英語どころかドイツ語、フランス語、中国語、日本語の5か国語を完全に覚えた。恐ろしい子。

どうやらハルとルツはそれぞれ違う場所、違う国に住むらしい。そのことを知ったときルツは一日中部屋に引きこもった。一日だけ。ちなみにハルは日本、ルツはイギリスに住む。


そして時は出発当日まで流れた。

その日、ルツはまだ日も昇ってない暗い早朝に目を覚ました。なぜか隣でダヴィデが布団に潜り込んで寝ている。

地球への調査はルツとハル、レイダ、セヴァの全員が向かう。つまりダヴィデはこれから一人で、正確にはアズと一人一匹で留守番することになる。きっと寂しいのだろう。

ルツはダヴィデが起きないようにゆっくりとベッドから起き上がりそっと部屋から出た。


それから隣の部屋で寝てるハルを起こし、寝巻きから着替えると宇宙船の格納してある建物へ向かった。

着替えた後に気付いたがハルの着ている服。3年前、初めてハルと会ったときにハルに渡した青色の学校用のジャージ。そのことに触れるとハルは別に勝手でしょとツンデレみたいな反応を示した。


建物ではセヴァがまるで何年もの長い間待ち焦がれてたようにルツ達を出迎えた。

高い天井の切れかかってカチカチ点滅している黄色い照明に照らされてるその宇宙船は何度見ても円盤状で不自然な形をしている。



「さぁ、二人とも行くよ」



二人はセヴァに先導され、その宇宙船の開いたハッチから乗り込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ