第19話 「革命の序章」
ドタドタと階段を登る音と共にバタンと勢いよく扉が開いた。
赤い鞄を右腕に掛ながら扉から出てきたセヴァに赤い視線をレイダは向けている。
「ごめんごめん遅れちゃって」
セヴァがそう言うとレイダはハァとため息をついた。
「ったく…なんで俺が買い出しに付き合わないといけないんだよ…」
「いいじゃんいいじゃん向こうではずっと別行動だったんだしさ」
セヴァはレイダの腕を掴むと急ぎ足で玄関に向かい外に出た。
縦に重ねられた十数個の段ボールを両手に抱えながらセヴァは業務用スーパーの自動ドアから出てきた。
段ボールで視界が塞がって少しよろめきながらも駐車場に止めてある黒い車までたどり着くと段ボールの山を一旦地面におろした。
「いやぁ、やっぱレイダがいると運ぶの楽だねぇ」
「やっぱりこれが目的か」
セヴァの後ろについて歩いていたレイダは車の扉の鍵を解除するとバックドアを開いた。
「いやぁ、でもちょっと集中力使うだけでしょ?能力で集中力使ってぇ、荷物軽くしてぇ」
「わかったからさっさと積め」
そしてセヴァとレイダが荷物を車に積み終わり、バックドアを閉めた時だった。二人の後ろから歩み寄る足音が聞こえた。
「レイダ様…?スキアドラム・レイダ様…?それにセヴァ様…?」
その声を聞き振り返るとそこには黒髪で背の低いあどけない顔立の男と金髪で背の高い狐のような鋭い顔立の男、そして肩につくくらいの長さの黒髪で眼鏡をかけた女が立っている。
「アベル…カイン…セト…」
レイダはいきなり目線を鋭くさせると金髪の男の胸ぐらを掴んみ地面に押し倒した。
「カイン!!どういうことだ!!?お前らがいながらなぜ王家を奪われた!!?答えろ!!」
「まぁまぁレイダ落ち着いて、場所を考えて」
スーパーの駐車場で男を押し倒して叫ぶレイダに買い物に来た主婦の方々の視線が降り注いでいる。
レイダはまわりを見回し、チッと舌打ちをするとたちあがって車の運転席の扉を開けた。
「悪いが俺は今バベル王家の家来だ。お前らみたいなのに構うわけにはいかない」
レイダはそう言って運転席に乗り込み扉を閉めるとセヴァをおいてそのまま車を発進させた。
だんだんと小さくなっていく車に呑気に手を振っていたセヴァは車が見えなくなると振り返って後ろの3人に一人一人目をやった。
「ここじゃアレだし、別の所行こっか」
セヴァはニコッと笑いながらそう言うと3人を先導するように道を歩いていった。
黒髪で背の低い童顔の男エデンド・アベル。エデン王家の分家である貴族エデンド家の者でありエデン王家直属の家来であった。性格は外見どおり内気だが戦闘能力に関しては群を抜いている。
金髪の狐顔の男エデンド・カイン。アベルと同じくエデン王家直属の家来。アベルの兄。性格は外見どおり荒っぽいが顔に似合わず頭脳派。
黒髪の眼鏡の女エデンド・セト。これも同じくエデン王家直属の家来。同じ家名ではあるがアベルとカインときょうだいと言うわけではない。
「さっきのレイダの質問だけど、なんであなた達がいたのに王家を奪われたの?」
ちょうど町の外れあたりにある誰もいない公園のぶらんこに座ってるセヴァが向かいのベンチに座ってる3人に質問した。
カインとアベルは一瞬お互いの顔をチラリと見ると真中に座ってるアベルが口を開いた。
「襲撃を受けた日、我々エデンド家の者達とカナン家の者達は遠征のため王城にはいませんでした。王城に残ったのはソドム家の者達とハラン家の者達だけでした」
「ふーん、それでソドム家とバベル家が裏切って王城を襲撃、ハラン家だけで襲撃に対応できるわけないか」
セヴァは腕を組んでそう言いながらうんうんと頷いた。
そして少しの間無言の時間が流れた。すると突然カインが立ち上った。
「セヴァサン、俺達はバベル王家をぶっ潰してもう一度エデン王家を建て直そうと思ってます」
「ふーん、そりゃまたいきなり凄いこと言うね。なんでそんなこと思ったの?」
セヴァがそう聞いてカインが答えようとした瞬間、今後はアベルが立ち上がって口を開いた。
「バベル家は自分達の利益のことしか考えてない。税の量は増え、国民のための支出は減り、その分を自分達や自分を支持する貴族の飲代として使っている。更に戦争のための徴兵で働き手は減り、国民の生活は厳しくなり、餓死する人は王家交代まえの1728倍近くに膨れ上がりました。こんなことが許されるはずがありません。何より我々はエデン王家の家来です。主のために働くのは当然です」
「ふーん、そっか」
セヴァはおもむろに立ち上がるとゆっくりとアベルの目の前に立ち、アベルの両肩に手を置き額と鼻が着くほど顔を近付けた。
「か~んたんに言うよねぇ」
セヴァは耳もとで囁くといきなりアベルの足を掛け転ばし地面に叩き付けた。
突然のことに隣のカインが動揺しているとセヴァは今度は飛びあがりカインの首を足で挟んみ、地面に伏せさせると地面に落ちてる木の枝を拾いカインの喉に当てた。
「セヴァサン…?何すん…ですか…?」
「君達さぁ、簡単に言うけどさぁ、エデン王家の後継者のアダムちゃんは死んじゃったんだよ?それなのにどうやって王家を再建しようとしてたの?」
セヴァのその言葉で再び沈黙が蘇った。どうやら本当に何も考えてなかったみたいだ。
セヴァはハァとため息をついて立ち上がった。
「やっぱりレイダの癖、移った…」
セヴァは独り言を呟きながら仰向けに倒れているカインの手を引いて起こした。
「まぁいい、私もバベル王家よりエデン王家の方が好きだし、協力してあげる」
セヴァが協力的な発言をしても3人の表情は晴れない。さっきの言葉で相当現実を直視してしまったみたいだ。
「ですがセヴァ様、やはり後継者がいないのでは━━━」
「いるよ」
セヴァのその一言で空気ががらりと変わった。相変わらず沈黙だが3人の視線はセヴァに寄せ集められている。
「セヴァサン、あんた一体……」
「これがいるんだよなぁ、いちゃうんだよねぇ。あなた達も知ってるでしょ?エデン・イヴ」
その言葉を聞いて更に空気が変わった。カインが呆れ顔でまた口を開いた。
「セヴァサン、確かにイヴサンは長子だが、女に王をやらすなんて馬鹿げた話━━━」
「男だよ」
「は?」
セヴァはドシンとベンチに座り、足を組むと更に話を続けた。
「知ってのとおりイヴは能力者。簡単に言うと能力者を王にさせないために本当は男だけど女として育てられたわけ。わかる?」
「いや、セヴァサン、そういう問題じゃなくてだな、能力者なんかに王をやらせるつもりか?」
セヴァはその言葉を聞くと目つきを豹変させ立ち上がるとカインの胸ぐらを掴んだ。
「能力者の何が問題なの?」
セヴァの鋭い目線と刺すような声に思わずカインは身震いした。
二人の空気を見かねたアベルが二人の間に入り引き剥がした。
セヴァは大きく息を吸って冷静になるとフフっとわらってカインの方を見た。
「ごめんね、むきになっちゃって」
「別に…」
「でも、王家を建て直すにはそれしかない。あの子にはなんとしても王になってもらわないと」
東に傾いた日の赤い光が射し込む夕暮れ時、白い砂浜でハルは焚き火を炊いていた。
「サメ~♪サメサメ~♪美味しくいただいちゃうよ~♪」
その後ろでルツは丸太に座ってリードにつないだアズと一緒にハルの歌に聞き入っていた。こんなふざけた歌ですら聞き入ってしまうほどハルは歌が上手い。本当にハルは弱点が見当たらない。頭は良いし運動神経も凄いし家事もできる。歌は上手い絵も上手い字も綺麗。あと可愛い。
雄一弱点らしいものと言えばお酒を飲むとテンションが高くなること。でもこれも本人がそれはそれで楽しいと言ってるので弱点と数えるかは微妙だ。
「君達何をしてるのかな?」
いきなり声をかけられて少しびっくりした。
後ろを振り返ると相変わらずニヤニヤしてるセヴァが立っている。
「ねぇセヴァ見てみて!!サメ捕った!!今日の夜はサメだよ!!」
焚き火の横で手を振りながら叫んでるハルは今まさにサメを解体してる最中だ。血まみれのハルの手を見てると初めて会ったときのことを思い出す。血で思い出すなんて今思えばろくな出会い方じゃない。
その後、3人と1匹で焚き火を囲んでハルの料理したサメを食べた。
サメなんて食べたことなかったけど思ったよりおいしい。ハルが料理したからかもしれないけど。
「そうだ、超スキアドラム隊に入隊したからには明日から厳しい訓練でビシバシ鍛えていくからねぇ」
早々に料理を食べ終えたセヴァがニヤニヤしながら焚き火を挟んで向かいの二人に言った。
「はーい」
こちらも早々に料理を食べ終えたイヴが地面に枝で落書きをしながら返事をした。ルツは無言でまだムシャムシャ食べてる。
「でもねぇ、タダで教えて貰えるほど世の中は甘くないの。だからね、一日教える毎に一晩ね」
ハルの手に持ってる枝がポキッと折れ動きが止まった。覗いてみるとハルはこの世の終わりのような顔で地面を視線でえぐっている。
あ、ハルの弱点見つけたかも。
「ルツ!!!」
「あぁ、はい!」
いきなり指名されたので思わず背すじがピンと伸びた。セヴァはこちらを見ながら相変わらずニヤニヤしてる。
「ルツ、一日毎に一晩ルツを私の好きなようにする。ハルの分もルツに払ってもらうから」
「え、え……?」
なんだかすっごく嫌な予感しかしない。でもハルは少し安心してるように見えるし、少しでもハルの役に立てるなら我慢がまん。
翌日昼時、ルツ達3人は潮風の香る白い砂浜にいた。砂浜には昨日までなかった赤い旗が立っている。
今日から厳しい訓練をするとか言っていたから何をするのか少し不安だけど、日の光を浴びて煌めく水面を背景にハルを見てるとなんだか落ち着く。可愛い。
「えぇ、それじゃまずはあなた達の現段階での能力の強さを見てみたいと思いまぁす」
セヴァは二人の前に出ると砂浜に立っている赤い旗を指指した。
「能力強さの基準はアンチができるかどうかかな」
「アンチ?」
また聞いたことのない単語が。セヴァはよくハルでさえ知らない単語を使う。
「まぁアンチとはつまり逆ってこと。逆のことができるかどうか」
セヴァはそう言うとハルをビシッと指さした。
「ハル、昔教えたよね。やってみて」
「あいさぁ!!」
ハルは元気に返事をすると空に向かって手を翳した。
するとさっきまで潮風にたなびいていたハルの青髪と赤い旗がピタリと動きを止めた。さっきまで吹いていた潮風が止んだ。
「はい、ハルさんよくできました。ハルの能力、風を起こす能力の場合、風を鎮めることができれば能力は強いということですね」
「そういうこと…」
ということは私の場合、物体に触れずに物体を動かす念動力と身体能力を部分的かつ一時的に向上させる向力化だから、動いてる物体を止める、身体能力を低下させれば逆ってことなのかな。
「それじゃ、ルツもやってみよっか。とりあえず、そこにある石を浮かしてみて」
「あ、うん」
ルツはセヴァの指さした顔くらいの大きさの石に目を向けるとそれに気を送り込むように集中力を研ぎ澄ました。まもなくその石は地面からゆっくり離れ、腰くらいの高さで宙に止まった。
「はいよくできました。ルツも余裕でできるみたいだねぇ、上出来」
「え?」
言われた通りただ宙に浮かしただけだけどこれで逆ができてるらしい。よくわからない。
「今浮かしただけじゃんとか思ったでしょ?重要なのは空中で止めたってこと。まぁ簡単に言うと重力によって下に向かって動く物体を止めたってこと。アンチができない人は宙に止めることができない、動かし続けないと」
「そうなの」
今まで思ったこともなかったけど、私は能力者の中でもかなり優秀な方らしい。それは能力の強さでも身体能力の高さでも。もちろんハルほどではないけど。
「それじゃ次は自効力でやってみよっか。ルツの自効力は向力化だったね。やってみて」
「あ、うん」
ルツは気を集中させるとだんだんと腕の力がスゥと抜けていった。そう、抜けるだけ。
「あの、これって使い道あるの?」
「あ、うん…まぁ肩の力抜く時とかに役に立つんじゃない?」
明らかにてきとーなのは言うまでもない。と思ったけど実際そうでもないらしい。
「まぁ、本当はあるんだけど。ルツ、あなたレイダと戦った時体に力が入らなかったことない?」
「あ、確か…」
そう言えばあった。そのレイダとか言う人に殴りかかろうとした時、なぜか足に力が入らなくなった。
「向力化のアンチ単体では殆ど意味はないけど生操力と合わせれば効果を発揮する」
生操力、確か昔ハルに聞いたことある。相手の生気を一瞬だけ消すことによって相手に直接能力をかけることができる能力。
「レイダもあなたと同じ向力化の能力を持ってる。言いたいことはわかるよね?」
「え、うん」
セヴァの言いたいことはつまり、向力化の逆、身体能力を低下させる能力を生操力を使って相手にかけることで相手の動きを止めることができる、か。
「更に言うとハル、あなたの能力、能力者の能力核の位置を見ることができる能力視、アンチだと“能力を見ることができない能力”。これも単体だと意味ないけど、生操力と合わせれば同じ能力を持ってる能力者の能力を打ち消すことができる。実際、レイダもそれを使って自分の能力核をハルに隠してた。ハルはレイダの能力核は脊髄にあると認識してたらしいけど実際には脊髄、右手首、左足の三ヶ所にある」
今さらっと衝撃的な発言があった。能力核が3つある?そんなのありえない。普通は能力核は1つしかない。
「そう、それ気になってたんだよね。なんで3つもあるの?」
裸足で海に足を浸けて遊んでいたハルがセヴァにそう聞くとセヴァはハルの方を見てニコッとわらった。
「それは聞かない方がいいんじゃないかなぁ?でも、能力核が3つあるってことは普通の3倍能力を持ってるってことだね」
セヴァはそう言うと砂浜に立っている赤い旗を抜き建物の方へ向かって歩いていった。
「それじゃ、続きはお昼の後ねぇ。早く行くよダブルファザコン」
「…っ!!誰がファザコンだぁ!!」
ハルは一瞬顔を赤くしてそう言うと走ってルツを追いかけていった。
セヴァから聞いた話、ハルは元々の素質も然ることながら自分を裏切った父親に復讐するためにかなりの努力をしてきたらしい。それがハルの生きる意味だった。でも、その父親が死んで生きる意味がなくなってからハルはその辺が散漫になってきたらしい。
だから私がハルの生きる意味になる、と言うよりなりたい。だってハルは私の生きる意味だから。




