第1話 「多分、千夏と出会うために」
世の中には能力者と呼ばれる存在がいる。僕もその一人。
能力者とはその名の通り特別な能力を持った人間のこと。
いやでも人間かどうかはいまいちよくわからない。国によっては人間と定義しない国もある。
因にここ、オスト国では一応人間とされている。
もちろん見ためや身体の構造は普通の人間とほとんど変わらない。
髪の色が一般人と違うのと能力核という能力者の能力を司る器官があるのを除けば。
気になってると思う特別な能力とはまず1つ目、異常に高い身体能力。
個人差も大きいが運動の苦手な方の能力者でも体力テストで余裕でオール10点が取れるくらい。
運動できる方の能力者だと助走無しで2階建ての建物の屋上に飛び乗ることができるくらい。
分かりにくい?
因に僕は3階くらいは余裕で跳べる。
2つ目、再生能力。
これは能力者によって個人差は少ない。
能力者の再生能力はかなり凄まじい。
だって死んでも生き返るくらいだし。
切傷なら数秒、刺し傷なら十数秒、骨折なら数十秒、切断なら数分で再生する。
たとえ死んだとしても死因の傷を治すと生き返る。
でも何故か浅い傷だと再生しない。肌荒れ、皸、失明などがそう。
それなら能力者は不死身なのかって言われたらそうでもない。
先にチラリと言ったが、能力者には能力核という能力を司る器官がある。
その器官がある場所は能力者によって異なる。たとえばある能力者は脳にあったり、ある能力者は足首にあったりする。
因に僕は喉にある。
話を戻して、この能力核を物理的に破壊されると再生能力は機能しばらく機能しなくなる。
その間に死ぬと2度と生き返らない。
でも能力者本体が生きていれば十数分で能力核は再生して、再生能力も元にもどる。
それ以外にも無酸素、栄養失調、特殊な病気、妊娠中の死亡、生後間もなくの死亡、寿命などでも死ぬ。
最後に3つ目、超自然的能力、いわゆる超能力みたいなもの。
これは能力者によって異なる。
そして一人二種類の能力を使える。
そのうち1つは自効力と呼ばれる自分に対して使う能力。
たとえば自分の感覚を鋭くしたり、言語の違う人間の言葉を聞き取ったり。
因に僕は相手が能力者かどうかがわかり、さらにその相手の能力核の場所がわかる能力。
そしてもう一種類は自効力以外の能力。具象力と呼ばれている。
物質を作りだしたり、触れずに物を動かしたり。
因に僕は風を操る能力。
自効力と具象力の区別は割りと曖昧なものが多い。
能力核が破壊されると能力核が再生するまでこれらも使えなくなる。
まぁ、能力者の能力といえばこれくらい。普段の生活ではあんまり役に立たない。
こんなチート能力普通ならウェルカムなんだけど、問題は能力者は社会的に差別されているということ。
そりゃ死んでも生き返るような連中を気味悪がるのは当然だけど、それにしてもひどい状況。
先にも言ったけど、能力者を人間と定義しない国もあるくらいだし。
人間じゃないわけだから、能力者を殺したとしてもなんのお咎めも無しだ。
この国ではそんなことはないが、能力者が被害者の犯罪は処罰が軽い場合が多い。
逆に能力者が加害者の場合は処罰が重い場合がほとんど。
そんな法的な部分でも差別されているくらいだから、そりゃ道歩いてたら石投げられたり、店に入れば入店拒否されたり。
店に入れないと買い物もできないわけで、そこに目をつけて能力者に対して不当に高い額で商品を買わせる輩もいるくらい。
能力者は1000万人に一人もいないのにそんなことやって儲かるのかは不明。
そんなわけで能力者にとっては厳しい世の中なわけ。
国の王の息子、しかも長男の僕でさえ庭の家畜小屋に収納されてるくらいだ。
能力者である僕がこの国の王家であるエデン王家の長男として産まれたときはそりゃ大騒ぎになったらしい。
原則では長男に王家を継がせることになっているのだけど、そんな差別の対象を王にするわけもなく、結果、長男ではなく長女として、女として扱われるようになった。
けどそれでも王家の子に能力者がいるだけで王家の家柄を汚すことになる。
なので最終的には趣味の悪い女装癖だけ植え付けて、奴隷として王城の庭の家畜小屋に住まわされることになった。
家畜小屋と言っても大分前から使われていないが。
奴隷と言うのも建前だけで、王城でこき使われるわけでもなくなにもしてない。
生活費は定期的に小屋の前に置いてある。
こんな能力なければ王様になって贅沢し放題だったのになぁ。
そんなわけで僕は僕を蔑ろにした奴等を許さない。いつか見返すために身体を鍛え上げ、王城の書庫に忍び込んで智識を詰める毎日。
11歳にして腹筋バッキバキでジョンソン顔負けの知識量。
ジョンソンって誰だって?ジョンソンは世界で初めて電球を作りだした人です。
その日、夜明け前に起きた。
腐りかけの天井と腐りかけの壁が真っ先に目に入った。
窓にかかったボロボロのカーテンが風に揺れてヒラヒラしている。
カーテン買い換えたいけどお金が足りないんだよね。
普段から夜明け前の暗い時間から起きて体力付けに走っている。
日があるときに外に出たらいろいろめんどくさいし。
今日も走ろうと思って起きたわけだけど、なんか嫌な予感がするんだよね。
とりあえず藁を積んでシーツを被せただけのベッドから降りて、ベッドのすぐ横にある姿見鏡の前に立った。
鏡に映る少女のような姿。
腰まで伸びてる長い青髪。11歳にしては膨らんだ胸。
筋肉質だがスラーと細すぎず、太すぎない綺麗で長い脚。
これでも一応男だ。言うところの男の娘。
産まれたときに投与された過剰ホルモン注射によって身体つきは限りなく女に近付いている。根本的な作りは変わらないが。
鏡を見ながら指をくわえて顎を引いてみた。
両手で頬をペシペシと軽く叩きニコっと満面の笑みを浮かべた。
「よしっ!!今日も可愛い!!」
自分で言っておきながら気持ち悪い。
実際、可愛いのかもしれないが自分でそう言うのは気持ち悪い。
無駄に声のトーンを高くするのも気持ち悪い。
でも可愛くなりたいという欲求は湧いてくる。
もともとそっちの素質があったらしい。
それで、さっきの嫌な予感の正体だが、とりあえず外の空気を吸おうと小屋の外に出た。
大きく深呼吸してみたけどあんまり小屋の中とかわらない。
いつも綺麗に保ってる証拠かな。
そして何か大勢の気配が王城の方からした。
ここから王城はそんなに離れているわけではないが、地形の問題で王城の3階より上しか見えない。
とりあえず気になったことは追求!!というモットーのもと、王城の方に向かってはしりだした。
王城の一階部分が見えてきた。
王城の入り口付近に5、60人ほどの怪しい集団の影が見える。
こんな暗いうちから王城に集団でってことは━━━
「イタッ…」
なんか背中から左胸にかけて激しい痛みがする。
背中に触れてみるとなんとナイフが刺さっている。
あぁ、油断したな。
振り向くとそこには二人のフードを被った男がいる。
男の左胸には赤色の三角形を2つ重ねた形の紋章。
この紋章はあれか、あの闘いたがりの地方貴族のバベル家の紋章。
他国と戦争しない姿勢を取るエデン王家に痺れを切らして王家の座を奪いにきたのかな。
確かに戦争は技術力を向上させて国を発展させる。
うちの国は戦争しないから技術力が他の国より断然おとっている。
その点で見れば戦争したがりのバベル家に王家を譲ったほうがいいのかもしれない。
てゆうかそんな考察してる場合でもない。
背中に刺さったナイフを瞬時に抜いて目の前にいる男に飛びかかり、左胸にナイフを突き刺した。
真っ赤な鮮血が土砂降りの雨のように降り注ぐ。
ヤバイこれ━━━
男に刺したナイフを抜いて右手の上で一回転さしてもう一人の男を睨みつける。
ナイフに付いてる血を舌で舐めて拭き取った。もう一人の男はこっちを見たまま後ずさるだけで動かない。
そんなに恐い?こんなに可愛い男の娘が可憐に人を殺して。
フゥと息を吐き、男に向かって思い切りジャンプ。男の頭上からかかとを思い切り降り下ろした。
ヤバイこれ━━━
男は動かなくなった。
死んだかな?でも一応とどめは刺したほうがいいよね。
倒れた男の背中から左胸に向かってナイフをブスリと刺した。
ヤバイこれ━━━超楽しい!!
ナイフを刺すときの肉の柔らかい感触、噴き出す真っ赤な血の色、血の臭い、血の味、断末魔の声、全てが新鮮で新しい。
「あーあ、服…穴空いちゃったな。血まみれだし。もう着れないね。」
背中の傷ももう塞がった。
多分、王城の中にはもっとバベル家の人間がいる。
エデン王家への反乱分子の粛清という名目でもっと殺せる。
「アハハ、もっと殺しに行こっか」
手の上でナイフを回しながら王城の方へと歩きだした。




