第18話 「水遊び」
翌日、真上から日が照らす中、ルツ達は大海原を目の前にしていた。
波が岸にぶつかる音と潮の香り、日に照らされキラキラと輝く水平線。あとたくさんの漁船。
「わぁっはぁ!!海だ!!海!!海!!!」
潮風に髪をたなびかせたハルがコンクリートの壁の上で叫んでいる。腕にアズを抱えたルツはそんなハルをボーッと後ろから眺めている。
聞く話によるとハルは今まで海に来たことがないらしい。私も最後に来たのは5年くらい前だ。
「ねぇセヴァ、泳ご!!泳ご!!!」
「なぁに言ってんの。港で泳ぐ馬鹿がどこにいるの」
海に興奮しているハルは今にも飛び込みそうで恐い。あの無邪気な笑顔を見るとやっぱり普通の女の子なんだなと思う。女の子じゃないか。
「あのハル、あんまり叫ばないほうが……」
そう言った瞬間すごい目つきで睨まれた。やっぱり裏切ったことはまだ許されてないみたい。
「はいはい二人とも行くよ。大海原へ出航だ!!」
そう言ったセヴァは港に止めてある船に乗り込んで行った。
それを見たハルもコンクリートの壁からおり、船に向かって走っていった。
船に向かっていくハルの後ろ姿を見ながらルツは立ちつくしていた。いつになったら許してもらえるんだろう。もうこのまま一生口聞いてもらえないんじゃ…
「ルツ、早くしてよ、おいてくよ」
ハルにそう呼ばれてハッとした。
多少荒っぽい口調ではあったが声をかけてくれた。
「あ、ごめん、待って」
ルツは笑顔でハルにそう返すとアズを抱えたまま船の方へ走っていった。
船の中の一室に入るとハルがポカァンとどこか一点を見つめている。
ハルが見てる方を見てみると見たことのない文字が書いてある見たことのない地図が机の上に置いてある。
「これ、どこの地図?」
そういえばこの文字、どこかで見たことがある。確か、一昨日セヴァから借りたTシャツに書いてあった文字と同じ。
「あぁ、その地図は君たちにはまだ早いよ」
どこからか出てきたセヴァがそう言うとその地図を折り畳んでポケットに入れた。
「それじゃ、長い航海だけどここでカードゲームでもして気長にねぇ」
そう言ってセヴァはプラスチックのケースに入ったカードを机に置くと部屋を出ていった。
ルツはアズを床に下ろし椅子に座るとそれを手に取ってケースを開けた。
そのカードは裏面が全て同じで白と黒のひし形が交互に並んでいる。
表は全て微妙に違ってて、王冠被った男の人らしき絵やら赤色のひし形やら黒い変なマークやら見たことない文字などが描いてある。
これ、なんのカード?
「ねぇハル、これって何のカード?」
ルツが訪ねるとハルはしばらく無言でそのカードを見つめた。そしてルツと机を挟んで向かいの椅子に座った。
「それ、トランプだね」
ハルの声はいつもより少し荒っぽい。その声を聞くたびに許されてないことを痛感する。
「トラ……?なにそれ」
「昔セヴァに教えてもらってよくレイダとセヴァと3人でやってた。レイダはあんまり乗り気じゃなかったけど」
「ふーん、で、具体的にどうやって遊ぶの?」
「遊び方はいろいろあるけど、二人でやるとなるとスピードとかかな」
ハルは机の上に散らばったカードを集めてまとめるとカードをシャッフルしだした。
「あー!また負けた!!」
ルツはそう叫ぶとバタリと机に突っ伏した。
こういう時、ハルはいつも勝ち誇ったような顔をするかニヤニヤしてるかなのに今はそんな表情は見せていない。だけど表情が強ばっている。我慢してるのかな。
「ねぇ、私と一緒に遊んでて楽しくないの?」
ルツがそう言うと散らばったカードをかき集めてるハルの動きがピタッと止まった。
「え、いやそんなことは!!あれ違う楽しくない!!全っ然楽しくない!!」
ハルは顔を赤くしてかなり動揺してるみたいだ。
ルツはフフッと笑うと腕を伸ばしてハルの頭の上にポンと手を置いた。
「ハルは素直じゃないんだから」
ルツがハルの頭を撫でるとハルは更に顔を赤くした。
「ルツなんて嫌い!嫌い!!大っ嫌い!!!」
ハルはいきなりそう叫ぶと走って部屋を出ていった。
それから7日後の夕暮れ時、木造の桟橋の上にルツ達3人と一匹は降り立った。
目的地の島についた。
ハルは殺されたことになってるので人目についたらまずいらしい。だから今日から人のいないこの島で生活する。
この島はオスト国の領域外、どこの国にも属してない航海にある島をセヴァ達が買い取ったらしい。
どこの国でもないこの島は1つの国みたいなものだ。
「わっはーい!!海だ砂浜だ!!セヴァ、今度こそ泳いでもいいよね!!?」
ハルは桟橋の上をドタドタ走りながら騒いでいる。
「もぉ、仕方ないなぁ。今日だけだよ?明日からは訓練でビシバシ鍛えるからね」
「やったあぁ!!」
ハルは叫びながら青い砂浜へ向かって走りだしていった。
「え!?ハル!?服のまま泳ぐの!?」
そんなルツの言葉も無視してハルは疾走していった。
「ルツも泳ぐ?水着もあるよ?」
「え?本当!?」
「うん、ただし、あそこまで行かないとね」
そう言ってセヴァが指さした先、高い崖の上に四角いくて白い建物がある。
「え?あそこまで登るの?」
「大丈夫。下にエレヴェラァがあるから」
セヴァはそう言って桟橋の上をテクテク歩いていった。
「おぉルツ、すっごい似合ってるよ」
ロッカールームから出てきたルツにセヴァがニヤニヤしながら言った。
「そ、そうかな…」
赤い水玉模様の水着を着たルツは頬に手を当てて少し顔を赤くしている。
「セヴァは泳がないの?」
「私はまだすることがあるから。本当は水着で女の子達がキャッキャウフフしてるの見てたいんだけどねぇ」
「あ、あはは…そうなんだ…」
ルツは苦笑いをすると逃げるようにその場を去っていった。エレベーターに乗り、下の砂浜にある建物まで降りていった。
砂浜に建つエレベーターで崖の上の建物と繋がってる建物から出ると衝撃的な光景がに目に入った。
青い海の一部が真っ赤に血に染まっている。
「もしかしてハルが…」
急いで海に向かって走っていくとだんだんはっきり見えてきた。そこにはサメの背ヒレが動いている。ハルの姿はない。
もしかして、食べられたんじゃ…
「ハルー!!ハルー!!どこいるのー!!」
叫んでみたもののどこからも反応がないしハルの姿も現れない。
「ハルー!!出てきてよ!!」
もう一度ルツが叫ぶとサメの背ヒレがごそごそと動き、ルツは少し後ずさった。
「うはっ!!やったー!!サメ捕ったー!!」
そう叫ぶながらハルが真っ赤な水面から顔を出した。
ハルは全然ピンピンしてるし怪我を負ってる様子もない。
「は、ハル…?何やってるの?」
「あ、ルツ!!見てこれ!!サメ!!サメ捕った!!」
サメの背中をバンバン叩きながらはしゃいでるハルにルツは若干引いている。
ハルはサメの尾ヒレを持って引摺りながら砂浜まで上がってきた。
「前から食べたかったんだよね。どう料理してやろうか」
「え?食べるの?」
4メートルくらいあるサメを殺すなんてどんな神経してるの。こんなのどうやって…
「こんなのどうやって捕ったの?」
「ふふぅん、これだよこれ」
ハルが見せつけた右手には手に握れるくらいの大きさの石が握ってある。
「サメと戦うときはまず目を狙う。それでその後は………」
ハルがサメとの戦い方を説明する中、ハルはハァと息をもらしてガクリと膝を地面についた。
本当に食べられたのかと思った。て言うかサメが出るなんて聞いてない。
ルツは立ち上がるとハルをおいて建物の方までトボトボ歩いていった。
その頃セヴァは地下へ続く螺旋の階段を降りていた。
さっきハルとルツにサメ避けの網が張ってる所で泳げって言い忘れてたけどハルがいればだいたい大丈夫かな。
そんなことを思いながら階段を降りた先の扉のロックを解除して中に入ると、壁に掛けてある幾つかの鍵のうち1つを手に取るとさらに奥の扉に入っていった。
階段で更に下の階層まで下り、厳重な扉のロックを開き柱の並んだ部屋に入ると柱の鍵穴に鍵を挿し暗証番号を入力し鍵を抜いた。
そしてセヴァは柱の間に現れた眩い光のカーテンの中に飛び込んでいった。




