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サイコヘイトの能力者  作者:
序章
15/42

第14話 「セヴァ」

その時、ポケットの中から震動が伝わった。

そうだ、通信用に携帯電話渡されてたんだっけ。

ルツはポケットから携帯電話を取り出し、画面の表示を見た。

画面にはセヴァ御姉様と表示されている。

あれ、そういえば携帯電話なんて使ったことがない。電話の出かたがわからない。どうすれば。

わからないからダメ元だとルツはてきとうに画面に触れた。



「あぁ、もしもしルツぅ?」



あ、よかった。ちゃんと電話に出れたみたい。

ルツは携帯電話を耳に当てた。



「あのねぇ、予定外だけどレイダは引き剥がせたからもう作戦終了ね。だからもう帰っていいよ。場所は教えたでしょ?」


「あの…本当にイヴは一人で逃げ出せるの?」


「ん?」


「やっぱり、私一人でも助けに行ったほうが…」


「なにイキったこと言ってんの?」



いつもふわふわしてるセヴァの声がいきなり突き刺すような低い声に変わった。

はじめて聞くそんなセヴァの声に背筋が凍った。この人は怒らせてはいけない人だと一瞬で悟った。



「あんたみたいな人が助けに行ったとこでなにも変わらない。自分の力を過信しすぎ。そこは能力者を研究する研究所だよ?一人で行ったとこで被験体が増えるだけ。あんたが一生被験体でいたいのはわかったけど、それじゃむしろイヴの脱出の邪魔になる。被験体志望はまた後日」


「………」



何も言い返せなかった。

確かに、イヴでさえどうにもならないなら私一人が行ったところでどうにかなる訳がない。

ルツは携帯電話を耳に当てたまま、旧王城の門に背を向けた。



「それじゃぁ、寄り道せずに帰るんだよ。ご飯に遅れたらぁ、今日の夕飯は抜きだよ」



セヴァがいつものふわふわした芯のない声に戻ると、そのまま通話は終了した。


プープーと通話終了の音が鳴る中、ルツはハァとため息をつくとそのまま旧王城とは逆向きにトボトボ歩いていった。







さっきレイダの携帯電話の着信音が鳴って、そのままレイダは何も言わずにどこかへ行った。

急用でもできたのかな?それなら逃げ出すチャンスなんだけどなぁ。

でもまたすぐに戻ってくる可能性もあるし、とりあえずしばらく様子を見ようか。


そんなこと考えていたのが何時間前のことだろうか。

気付いたら睡魔に襲われててそのまま落ちた。それで起きたのがついさっきだ。

何時間寝てたのかはわからないけど大分時間がたったのはわかる。服が地面に触れてた部分以外ほぼ完全に乾いている。

やってしまった、せっかくのチャンスだったのに。そう思ったけどまだレイダは帰ってきてないみたい。レイダの代わりに監視が3人。

これなら脱出も難しくない。



「よし、やろっか」



監視に聞こえない程度の声量で囁くと、イヴは右手の人さし指と中指の爪を思い切り右足首に切りつけた。



「痛っ…」



大丈夫、監視にはバレてない。バレたところで大した問題でもないけど。

すると今度は左手の人さし指と中指の爪で左足首を切りつけた。



「いっ……」



別に足を切断しようとかそんなことは考えていない。さすがにそれは無理がある。

イヴは両足首についた傷を広げ、そこに足枷を食い込ませた。

ここまでくればあと一息。



「フゥゥ……」



イヴは心を落ち着かせ、決心するように深く息を吐くいた。

イヴはベロっと舌を出すと思い切り舌を噛み千切った。



「くっ…あぁ……!!」



思ったより痛い。

激しい痛みに絶えながらイヴは両手に掛かっている手鎖の鎖に噛み付き、そのままバタリと地面に倒れた。







現王城の無駄に広い王の間、レイダは王であるバベル・イエフの前に膝間付いていた。

王様は相変わらず頬杖をついて顎髭をいじりながら偉そうな顔でこちらを見下ろしている。実際は偉そうな顔でもないのかもしれないが、今の心情がそのような幻覚的なものを見せているのかもしれない。


さっき、旧王城で王様から電話があった。用件があるから王城まで来いと。

まぁそこまではいい。むしろ合法的にイヴが逃げ出せるチャンスを作れた。

それでその後、旧王城の前にいたセヴァを車に連れ込んだ時聞いた。電話の向こうのルツに向かってセヴァが吐いた声。

確か前に一度、初めて聞いた時はリームの時。セヴァは本気でルツを…



「スキアドラム・レイダよ、面を上げよ」



いや、お前に頭下げてたわけじゃねぇよ。

考え中に頭が下がることなんてよくあることだろ。察しろ禿げ。

本気に察されたらヤバいんだが。



「お前を呼んだのは他でもない。エデン・イヴの件だ。ご苦労だったな。だがやはり、捕らえるだけでお前を信用するとなると無理がある」


「は、はぁ…」



言ってることが違うぞこのおっさん。

命令変更してもそれで忠義を示すことには代わりないだろ。



「実はな、エデン・イヴ以外に新たな能力者が見つかった。聞く話によるとエデン・イヴは子供にしてかなりの手練らしいではないか。それでいて前王家の継承者ときた。そのようなリスクの高い被験体より別の能力者を被験体にした方がよかろう。どうせその能力者も家族からも回りからも嫌われていることだろう。手に入れることは容易だ」


「………」



あぁ、結局そうなるのか。どうせまたエデン・イヴを殺してこいとか言われるのか。

殺さなくてすんだと思ったんだが。まぁ覚悟はしてた。



「そこでスキアドラム・レイダよ、お前に使命だ。エデン・イヴの首を切り落としてこい」



このおっさん、今失言した。

俺は聞き逃さない。

レイダは顔を伏せてバレないようにニヤリと笑った。



「王の御言葉のままに」









現王城から少し離れた場所に止めてある車の中でセヴァは一人助手席で寝ていた。



「ルトサ…ルリア……よかった……生きて…」



夢の中、そこにいる二つの人影に手を伸ばしたが届かない。

なんで、なんで二人とも私を置いていくの?なんで私を一人にするの?

二人がいないこの世界で私はなんのために生きてるの?約束を守れなかった私に生きる権利はあるの?

そんなセヴァの思いをよそに二つの影は光の中へと消えていく。

待ってよ、一人にしないでよ。これ以上私を裏切り者にしないで。それに、約束したでしょ?まだ最後の教え……



「セヴァ、起きろ」



聞き慣れた声で目を覚ました。

ゆっくりと目を開いたセヴァは目の前の光景に目を疑った。



「ル…ルトサ…?」



それは会いたい思いが見せたら幻だったのだろう。

よく目を凝らすとそれはレイダだった。



「は?お前、なんで泣いてる?」


「え?あっ、はは」



セヴァは無理に笑顔を作ると腕で涙を拭いた。



「なんでもない。それで、どうだったの?」


「はっ、あの王様失言しやがった」


「失言?」



レイダはなんだか上機嫌に見える。



「王の命令だ。エデン・イヴの首を切り落としに行く」


「あぁ、そーゆーことね」



セヴァは納得したように頷くと座席の背もたれを這って後部座席に移動した。



「なにしてる?」


「私もうちょっと寝るからおやすみ」



セヴァはバタリと倒れ、毛布を被るとそのまま目を閉じた。

レイダはチラリとセヴァを見るとハァとため息をついた。

右手に持ってる鍵をエンジンの鍵穴に刺してエンジンをかけた。

車が小さな音を立てて小さく震動し始めた。

レイダがアクセルを踏むと車は静かに前へ進みだした。

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