第10話 「友情破壊不協和音」
濁流の雨の中、茂みの影に隠れながらイヴとルツ、そしてレイダの3人の動向を見守る人影が1つ。
草の色に全く馴染んでない桃色のレインコートを着たセヴァは、少し心配そうな表情を浮かべている。
とっととけりをつけちゃえばいいものを、わざわざ手加減してイヴの成長を測るなんて。どうせすぐに殺すことになるのになにをやってるんだか。
でも、その気持ちは少し、いや、かなり解る。
たった1年程度とはいえ自分達が面倒見てきた子がどれだけ強くなったのか、殺す前に見てみたい。
私が見る限り戦闘能力は体の成長以上に伸びているが、判断力が著しく低下した。
少なくとも、3年前のイヴならレイダと戦おうなんて無謀すぎることはまず思わない。
その時点でもう驚きを隠せない。
それで、案の定イヴは負けちゃったわけだけど、今面白いことになりそうなんだよねぇ。
頬に滴る血の涙を腕で拭き、レイダは獲物を追い詰める獣のような目で、イヴの前に立ち塞がるルツを睨んだ。
追い詰められた獲物と化したルツだが、物怖じせずとは言えないが逃げようともその場を動こうともしない。
頭を押さえてハァとため息をついたレイダはさらに冷めた目線をルツに突き刺した。
「言わなくても分かってると思うが、俺は王の命でエデン・イヴを引き取りに来た。これに逆らえば王への反逆罪としてこの場で殺す。死にたくなければそこを退け。」
「っっ!!」
殺すという言葉を聞き、一瞬背筋を凍らせたルツだが、チラリとイヴの方を見ると、決心するように大きく息を吐いた。
「ど、退かない!友達を売るわけがない!!」
その言葉を聞いて、レイダはまた頭を押さえてハァとため息をついた。
「あのさぁ…売るとかじゃなくて…お前がここでどっちの選択をしようと結局俺がエデン・イヴを殺すことには変わりない。このままだとお前、無駄死にだけど」
「そ、それでも…イヴがいないなら死んだほうがマシ…」
いっそのことルツも殺した方が早いが、目的はエデン・イヴを殺すことと、ルツを生かして配下に置くこと。ここで殺すわけにはいかない。
「死んだほうがマシって…その友達がお前に何をした?」
「イヴは私の初めての友達!!それを守るのに理由が必用!!?」
「あぁ、必用だ。友達なんていくらでも作れる。それにいちいち命をかけてたら命がいくつあっても足りないぞ」
レイダは自分の右の手のひらをじっと見つめるとハァとため息をつき、手のひらをルツに向けた。
レイダの両目から血の涙が流れ出た瞬間、ドテッと膝をつく音が聞こえた。
膝をついたルツは、両手で頭を押えながら定まらない目線からドクドクと大量の涙を地面に落としている。
「う…ぁ……い…たい…」
今までに経験したことがない頭が割れるような痛みがする。
痛すぎて声も出ない。痛い痛いいたい…
「なぁ、そこを退け」
レイダが手を下ろした瞬間痛みは消えた。だけどまだ恐怖は残っている。
よろめく手足で体を支え、残った力で顔を上げるとレイダを睨み付けた。
「い…いやだ…」
ルツの声は雨音にかき消されほとんど聞こえない。
微量の音声を聞き取り、またレイダはハァとため息をついた。
「それじゃ、お前の父親と同じ運命を辿るわけで?」
「……!?…お父さんと…同…じ…?」
「あぁ、悪かったがお前の父親は最後まで抵抗し続けたから殺した。死んだのは誰でもないそこに転がってるガキのせいだ。」
レイダは蔑むような目線でルツの後ろに転がってるイヴを見た。
地面についた手足を震わせながらルツはまだ気持ちの整理がつかない。
「は…?お…父…さん…が…?」
震えた手足に力をこめ、ゆっくりと手を膝につきながら立ち上がるとレイダの冷めた目線を返すように憎悪の目線をレイダに突き刺した。
「なにが…イヴのせいよ…全部…あなたのせいでしょ!!」
「違う、そいつがいなかったら俺はここには来なかった。全部そいつのせいだ」
「ふざけないで!!誰のせいでもあなたが殺したことにはかわりないんだから!!」
そう叫びながらルツは拳を振りかざしレイダを殴り付けようとしたが、レイダの前にたどり着く前に派手に転んだ。
足に全く力が入らない。足の感覚もない。
目から血の涙を流しながら、倒れたルツをレイダは見下した。
「やめておけ、どうせ勝てない」
腕で頬に滴る血の涙を拭き、レイダは倒れたルツの前にしゃがみこんだ。
指先を広げ、手のひらをルツに向けた。
「や!!い!!痛い痛いいたい!!やめて!!壊れる!!おかしくなる!!」
レイダの目から血の涙が流れると、ルツはまた頭を押さえて苦しみだした。
さっきとは比べものにならないほどの痛み。
涙だけでなく、口や鼻や下から体液を垂れ流し、爪が剥がれるほどに地面に指を食い込ませ、痛みに耐えるために舌を噛み締め、舌を噛み千切った。
口からよだれと血を流しながら救済を求む信徒のような目線をレイダに向けた。
信徒の嘆願を読み取り、レイダは手のひらを下に下ろした。
痛みから解放された後もルツは地面に腕をつき、地面を虚ろな目で眺めながら目と鼻と口から体液を垂れ流し続けている。
「それで、どうなんだ?」
レイダの問いかけにも反応できない。というか舌を噛み千切ったので喋れない。
ハァハァ息を荒くしながら地面を眺めていたが、舌が再生し喋れるようになるともう一度レイダの方を見た。
「…だめ……イヴは……私の………」
「ならもう一度やるか?」
もう一度レイダは手のひらをルツに向けた。
「いや!!待って!!」
ルツは腕で体を支えながらゆっくりと振り向き、倒れてるイヴの方を見た。
なんで私はここまでしてイヴを守ってるんだっけ…
友達だから?友達ってなんだっけ…
この男の言う通りイヴがいなければこんなことにはならなかったし、お父さんも殺されなかった…
イヴと初めて会ったとき、イヴは私を殺して…
なんで私、こんな人のことを…
しばらくうつむいて黙りこんで黙りこんでたルツだが、顔を上げると重い口をゆっくりと開いた。
「わかったよ…」
雨音にかき消されほとんど聞こえないような声を聞き取り、レイダは倒れてるルツをよけ、倒れてるイヴの前に立った。
「おい、立て」
レイダがそう言うと今まで何故か再生しなかったイヴの喉と足の傷が再生した。
そのときルツは思い出した。
そうだ、イヴは私の初めての友達であって、家族であって、初恋の…
イヴが家に来て、お父さん以外にも心のよりどころができた。
イヴは元気で明るくてそんなイヴと一緒にいて私の心は救われてたんだ。それだけじゃ理由にはならないけど、だから守ろうとしてたんだ。
それに約束したんだった…初めて会ったとき、絶対に裏切らないって…
最悪の誕生日…




