第9話 「連携共争」
「スキアドラム・レイダ…バベル・イエフ…エデン・イヴを引き取りに…」
台所で目を閉じて耳を澄ますイヴが呟いた。
「ねぇイヴ、なんて言ってるの?」
「静かにして」
少し怒ったような口調でイヴはルツに吐くと、もう一度目を閉じた。
「ご、ごめん」
イヴに叱られ、ルツはショボンと
顔を伏せた。
目を開いたイヴは、静かにルツのもとに寄り、耳元で静かに囁いた。
「バベル王が僕を引き取りにきた。」
「えっ?それって」
驚きながらもルツは小声だ。
少し周りを見回したイヴはもう一度囁いた。
「僕を殺しに来たってこと」
「やっぱり…それなら逃げなきゃ」
ルツはイヴの手を掴み、小走りで裏口の戸に向かった。
「いや待って、でも…」
イヴは立ち止まると、顎に手を当てて少し考えた。
有り得ないと思った。レイダが自分を殺しにくるなんて。一瞬そう思ったが実際そうでもない。王家がかわったなら多分レイダは自分の地位を守るためにバベル王家に従順に従うだろう。所詮以前の王の命で世話をしてただけの僕なんてどうにも思わずに命令に従って殺すだろう。
「イヴ?どうしたの?」
「いや、なんでもない。行こう」
ルツよりも先にイヴが裏口の戸を開き、轟音の雨の中に二人は裸足のまま駆け出して行った。
裏口から逃げて土砂降りの雨の中大分走って、イヴの足が止まった。
足を止めたイヴは後ろを振り返ると大きく深呼吸をした。
「イヴ?」
「やっぱり…逃げても無駄だよ…戦わないと…」
イヴが手を前に向けると、風が起こり、穴が抜けるように濁流の雨が開いた。
雨の開いたすぐそこに黒いレインコートを着た走る人影が見えた。
人影はイヴ達を見た瞬間立ち止まり、ゆっくりと歩いて近付いてくる。
呼吸を整え、イヴはいつ持って来たのか腰からナイフと銃を取り出した。
ナイフを右手、銃を左手に構え、チラリとルツを見た。
「イヴ…?」
何も言わずにイヴはもう一度前を前を向き、手足を少し震わせながらもう一度深呼吸をした。
人影の男はイヴから距離をおいて立ち止まり、フードを外すと無表情な視線をイヴに突き刺した。
「エデン・イヴ…正気か?本気で勝てると?お前をそんな非合理的に育てた覚えはない」
「……」
何も言わずにイヴは銃口をレイダに向けた。
引き金に指を当て、集中力を研ぎ澄ますが、引き金は引かずただ無言の時間が流れた。
「レイダ…どうして動かないの?」
「あ?お前がどういう風に戦うのか気になるし━━━」
突然カッと空が光った瞬間、銃声と共に銃弾がレイダの目の前に飛んできた。
「雷━━━」
銃弾を右手で掴んで止めるとイヴの姿がない。
レイダのすぐ後ろでナイフを振りかざすイヴを振り返り際に肘打ちを顔面に叩き込んだ瞬間、脊髄にナイフが刺さり、イヴに倒れ際に足でナイフを顔面に叩き付けられた。
イヴは両手を地面に付いてアクロバティックに起き上がると、足に持ってるナイフを右手に持ち変える間に左手の銃で銃弾を2発レイダに撃ち込み、右手のナイフをレイダの心臓めがけて刺そうとしたが、腕を掴まれてそのまま投げつけられた。
「よくやるよ…」
レイダは右手に握ってる銃弾3発を地面に落とし、首の後ろからナイフの柄が地面に落ちた。
「雷と銃声と銃弾で気を引いてナイフを投げ、更に気を引くために俺の後ろに回り込み、俺がお前に対応して後ろを向いたときに俺の能力核である脊髄に風でナイフを刺して破壊する…か…」
投げられて倒れてるイヴにレイダは近付き、イヴの前にしゃがみこむとイヴの髪を掴んで顔を上げさせた。
「もう終わりか…?」
レイダが左の手の平を広げると、そこに銅の短剣が現れた。
左手の短剣をレイダが振りかざした瞬間、イヴはニヤリと笑みを浮かべた。
その瞬間、イヴは自分の顔面を地面に思いきり叩き付けた。
鼻血を地面に垂れ流し、唇や頬に血を滲ませながら先ほどと変わらない笑みでレイダを見た。
「まだあるよ。とっておきのが」
そう言った瞬間、イヴは口から何かを吐いた。
それらはレイダの両目を貫通し、光を奪った。
その隙を見てイヴは立ち上り、レイダから距離を取ると口から血反吐を吐き捨てた。
「あぁ…自分で歯を折ってそれを風と共に口から吐いて攻撃…か…よく考えるな…」
そう言うレイダの両目は既に再生している。
「うん、痛いけど僕、頑張ったよ。でぇも、とっておきはこれじゃないんだなぁ」
子供じみた笑顔を浮かべながら、イヴは何も持ってない左手を銃の形にしてレイダに向けた。
「ばーん。」
その瞬間、銃声と共にレイダの後頭部に銃弾が入った。
後ろを振り返ると、緊張で息を荒くしたルツが両手で銃を構えている。
レイダは口から大量に血を吐きながらそのまま地面にバタリと倒れた。
「イヴ…わ…私…」
銃を地面に落としたルツは倒れこむように地面に座り込んだ。
「ルツ、よくやったよ」
地面に落ちてるナイフを拾い上げ、地面に倒れてるレイダの首の後ろにナイフを向けた。
少しの躊躇いはあったが、すぐにナイフをそこに突き刺した。
レイダの能力核は脊髄。
能力核を破壊した状態で死ぬと生き返らない。
逆に死んだ状態で能力核を破壊しても同じく。
つまりこれで完全に殺したことになる。だが、2つ気掛かりなことがある。
1つ目、傷の再生の早さ。
さっきナイフで脊髄の能力核を破壊したのに一瞬で再生した。
普通なら能力核を再生するのには十数分かかるはずなのに。
さらに、顔につけた傷と両目の再生が早すぎる。
傷の再生を早くする能力も存在するが、能力核を破壊されればその能力も使えないし、なによりレイダの能力は銅を造り出す造銅力と身体能力を向上させる向力化だと認識している。
2つ目、レイダが弱すぎる。
僕の認識だとレイダは僕とは比べ物にならないくらいに強かったはず。僕達ごときが勝てるわけがない。
手加減してたとしても殺されることはないだろう。
だけどそんなこと考えてても仕方がない。
「とりあえず移動しよっか。こいつの仲間がまだいるかもしれないし」
「う、うん…」
二人が歩き出した瞬間、突然イヴが地面に倒れた。
「え…イヴ?どうしたの?」
返事の変わりにイヴは口から大量に血を流した。
見ると、イヴの喉と両足首に金属の塊のようなものが刺さっている。
「エデン・イヴ…本っ当に…俺を殺せたと思ってたか?」
後ろで死んだはずのレイダがゆっくりと立ち上がった。
イヴは喉が潰れて喋れずに、ヒューヒュー息の音を漏らしながらレイダを睨んでいる。
「喉の能力核も潰したし、足も潰した。もう逃げられないだろ」
右手に銅の短剣を造り出したレイダは倒れているイヴにゆっくりと近付いていった。
「えっ…あの…ま、待ってください!!」
声を震わせながらルツが二人の間に割って入った。
間に入るルツを見て、レイダは歩みを止め、無表情な目線をルツに突き刺した。




