今年こそは良い出会いが沢山あります様に
ついさっき、年が明けた。
地元にも帰らず一人で、近所の小さな神社の境内で年を越した。
寒さに負けないように、防寒対策を確りしてきた。
この境内には、僕以外の人はいない。
神様に確り僕の願いを聞いてもらうべく、わざと人が居ない神社にきた。
僕の願いはただ一つ。
“今年も可もなく不可もなく、平凡に過ごせますように”
お賽銭は奮発して500円。
別に“5円”と“ご縁”をかけてみたとか、そんな話ではない。
ただ貢ぐ額を上げただけなのだ。
そして、礼を始めようとした時不思議な声が頭に響いた。
「本当はもっと欲深いでしょ?」
何の事を言っているのかは解らなかった。
けど、声は凄く近くから聴こえる。
「お兄さん、可もなく不可もなくとか平凡とか望んでないでしょ?」
そんな事はない。
何処かから聞こえてくる除夜の鐘も聴いた。
煩悩が払われた後だ。
「煩悩とかそんな問題じゃないよ。お兄さんの奥底にある欲だよ。てか、そろそろ後ろ見てよ。」
声につられて振り返れば、少年がいた。
「お兄さん、本当は“今年こそは良い沢山の出会いがあります様に”がお願い事でしょ?」
僕の目を確りとらえて、少年は言う。
少し悲しそうな笑顔を浮かべながら。
「違う。そんな事、考えてない。」
反射的に応えてしまう。
「僕はお兄さんの事、なんでも知ってるよ。昔は“今年こそは良い沢山の出会いがあります様に”ってお願いしてたのにね。」
少年にそう言われて、僕は呆気に取られた。
「だんだんお願いしなくなっていったけどね。」
僕は図星で何も言えなかった。
いや、声が出なかった。
確かに僕は中学生の頃までは、少年が言った様に願っていた。
でも、神様には願いが届かないと思って辞めていったんだ。
「僕、ずっと思ってたんだ。たぶん、神様は暗示してたんじゃないかなって。自分が少し変われば沢山の出会いがあるんじゃないかって。」
少年は悲しそうな笑顔を浮かべたまま、淡々と語る。
僕は相変わらず何も言えない。
「てか、お兄さん僕の事を知ってるのに気づいてないでしょ?」
少年にそう言われて、少年をまじまじと見る。
言われてみれば見た事がある気がする。
しかも、毎日の様に見てた気もする。
「僕の事が解ったらお兄さんは、少し前に進めたって事だと思うよ。」
そう言うと少年の姿は薄れていった。
「なんだったんだよ……。」
そう僕がつぶやいた時
「おーー!!今年は人が居る!!!」
凄い大声でそう叫ぶと男は近寄ってきた。
「ここの神社、毎年オレしか居ないから今年も一人だと思ったのに人が居るとは!」
新年早々、煩い男だが嫌だとは僕は思わなかった。
なんなら、少し好感すらもてる。
初めて会ったはずなのに不思議なものだ。
「ここで会ったのも何かの縁かもな!」
そう言うと男は、眩しいくらいの笑顔を僕に向けてくる。
僕もそう思う。
こんな人が居なさそうな神社、わざわざ初詣で来る場所ではない。
「てか、ここの神社だから縁だな!なんてったって縁結びの神様だからな。」
「そうなんですか?」
「知らなかったの?」
「誰も居なさそうな神社選んだだけなんで。」
「そうか!まあ、ここより大きい縁結びの神社に皆行くからなー。あ!せっかくだから一緒に初詣しようぜ!」
なんて突拍子もない男だろうか。
普段の僕ならこの誘いは断っていただろう。
しかし、少年の言葉が頭に引っかかっているのか男の誘いに僕はのった。
「お!マジか!絶対断られると思ったのに。」
男は優しい笑顔を浮かべ、ケタケタと笑いながら僕に言う。
「てか、初詣でお願いする予定がする前にちょっと叶ったわ。」
「え?」
「だって、オレ“今年こそは良い出会いが沢山あります様に”ってお願いするつもりだったから。」
昔の僕のお願いと男のお願いは、一言一句違う事なく同じだった。
「……僕もそう願ってた時がありました。」
「そうなのか?」
「はい。今年は久々にそのお願いに変えようかと先ほど思ったところでした。」
これは男と出会った事で変わった意見だ。
しかし、少年の言葉にも動かされていると思う。
自分が少し変われば出会いが……。
あ、あの少年ってもしかして……
「どうした?ボーとして。」
「いや、何でもないです。初詣をしましょう。」
「おう!」
男とは、初めて会った気がしない。
これが自分が少し変わればある出会いの一つなのだろうか。
それとも何年越しかで神様が良い出会いをくれたのだろうか。
いや、きっとどちらもだ。
少年に少し感謝しなければならない。
自分自身、薄々は変わらないと出会いがない事くらい気づいていた。
後押しをしてくれたのだ。
今年はいい年になる気しかしない。
根拠はどこにも無いが。
終わり




