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始まりのサバトの夜  作者: いとむぎあむ
10/12

彼ら2人の後日談

 これは、ボクとレイバンさんの後日談。

 ボクのことをまた最初から説明します。ボクは、金嶺大附属高校2年生の遠藤瑞樹えんどうみずき。付け加えれば、“東洋の魔女”の中でも希少中の希少の存在、“はなの魔女”でもある。そう。これは、最初から、魔女たちだけ(・・)の物語であったのだ。


「よく気づきましたね。どこで、ボクが魔女だと気づいたんですか? レイバンさん」


 あの事件の後、ボクとレイバンさんは昼の休み時間を、大学の外の小さな喫茶店で過ごしていた。積もる話もあるわけで、人が少なく、尚且つ落ち着いて話せる場所として、馴染み客であるボクが、このレトロで雰囲気の気に入っている喫茶店『イチョウの森』を提案した。この時間帯ならば、学生客も少なく、今ボクたちの座っている一番隅の席以外に客はいない。だから、ボクは席に着いて早々、この店のマスターが運んできてくれた紅茶に口をつけながら、単刀直入に訊いた。


「ボク、貴方に魔女だって、言ってませんよ」

「いや。そのことなんだが、実は出会った時から気づいてはいたんだ」

「え」


 予想外の発言を彼はさらり、と口にした。そんなに早くバレていたとは。そんな素振り、まったく見せなかったくせに。


「なんでですか?」

「だって君、基本身体がウィッチの次元に干渉している状態だから、次元の波ですぐにわかるんだよ。そんな状態の魔女は、あまり見たことがない」

「あぁ。これは、ボクが“母さん”から創られた存在(・・・・・・)だからですよ」


 順を追って、ボクは彼に事の顛末を包み隠さず、すべて説明した。


 事の発端は、やはり6年前の事故である。あの時、車の中にいた親友の吉澤拓哉よしざわたくやは既に打ちどころが悪く即死。運転席の母親も虫の息だった。あの状況でまともに意識があったのは、後部座席にいた、少女の(・・・)遠藤瑞樹えんどうみずきだけだった。彼女は実はいうと、事故に合う以前から、自分が普通の人間ではなく、“魔女”と呼ばれる異端の存在であることを知っていた。それは、彼女が元々保有していた、“数多の記憶”からもたらされた情報だった。自分ももう間もなく死ぬ。それがわかっていた彼女は、いつも持ち歩いていた、“赤いお守り袋”の中に密かにしまっていた“赤い実”を取り出して、車の外に投げた。

 それが、ボク(・・)。ボクは“母さん”である、本物の遠藤瑞樹によって生み出された、代わりの“遠藤瑞樹”である。


「そう、それこそが、花の魔女の特性です」

「特性?」

「はい。花の魔女が、今までどの文献にも明確な事が記されなかったのは、その代の花の魔女が死の間際に、“次の代の後継者を分身として生んでいたから”なんですよ」

「で、では、君は…!?」

「ボクは、性別以外はほぼ完璧な、遠藤瑞樹のコピー(・・・・・・・・)です」


 花の魔女の特性の一つ。それは、自らの死を悟られないため、もしくは自分たちの存在を認知させないための能力。母さんである遠藤瑞樹は、それを無意識に行った。そして、最期にボクに遺言を残した。


『平穏無事で、魔女だと悟られないように、すべてにおいて“無関心”を装え』と。


 ボクは生み出された者として、母さんの遺言を忠実に守って来た。しかし、そんな時、ボクは拓哉の存在を知ってしまった。

 あの事故の時に覚醒してしまった拓哉の魔女の能力は、彼自身を“オオカミ”の影の存在に変えることで彼を数年生き永らえさせた。そして、彼は影を伝いながら、ボクをずっと追いかけてきた。ボクへの復讐心だけで、拓哉はずっと今まで生きていた。だからボクは、その残りの時間を、たっぷり付き合ってやろうと思った。


「けど、貴方がかの有名な(・・・・・)魔女団カヴンから派遣されてきてしまったわけで、仕方なく対処するルートに移行したわけです」

「つまり、私のせいだと…?」

「別に含みはない。拓哉はボクの方で始末をつけようとは思っていたんだ。それが早まっただけ」


 きっと彼があそこまで復讐心に捕らわれたのは、“母さん”のことが本気で好きだったからだろう。しかし、それだけではなく、彷徨う内に彼は自らの家族のその後(・・・)も知ってしまったからだろう。

 吉澤拓哉の家はウチと同じく普通の家庭だった。故に、一人息子を事故で早くに亡くす、という突然の出来事に、平常でいられるはずはなかった。彼は彷徨いながら、拓哉は自分の家に戻ったのか、よくは知らないが、知ったのだ。自分の両親が(・・・・・・)既に自殺していたこと(・・・・・・・・・・)を。


「ボクが知ったのは、事故のすぐ後でした。拓哉の両親は、“母さん”から見ても、かなり溺愛しているようでしたから。故に、その一人息子が不慮の事故で死んだわけだから、両親はもう懸命に生きる意味がなくったんだろう。そのことを何かのきっかけで知った拓哉はついに、壊れたんだと思うよ」

「吉澤クンは何故、自分が死んでることを知らなかったんだ?」

「たぶん、それは復讐するには不必要・・・な記憶だから、自分で消したんだと思う。自分のこと、家族のこと、すべて」


 ボクが知っていることはこれがすべて。次は、レイバンさんに語ってもらう番だ。


「さて、ボクにこんなに喋らせたんです。次は、レイバンさんの番ですよ」

「私は、君に何を語ればいい?」


 まずは、魔女団カヴンについての事である。


「アナタたちが、何故拓哉のことを知り得、尚且つ追っていたのか。ボクは、魔女団カヴンの存在自体は耳にしたことはありましたが、この行動理念や活動目的については何一つ知らないので」

「あぁ、そうでしたね」


 彼は何となく納得すると、チョコレートパフェを摘まむスプーンを紙ナプキンの上に置くと、長く話す態勢になる。良い体格した男の前にパフェって、何か変。


魔女団カヴンでは、所属していない魔女の情報をあらゆる国の情報網を使って、密かに収集しています。その過程で、日本に潜入している“構成員”によって、“狼の魔女”と呼称される魔女の存在を知りました。その時、強い殺意と憎悪を感じ、“狼の魔女は誰かを殺そうとしている”のだろうという疑いが浮上し、魔女団カヴンの上層部の、私の上司が私をこの日本に派遣しました。本当は、別の本題(・・・・)があったんですけど、そのついでに、解決しようと思いまして」


 彼はもう一度パフェを一口摘まむと、その続きを語りだす。あ、左頬にクリームついてる。


「我々魔女団カヴンは、世界中の魔女たちの身柄を保護し、社会に溶け込むように助力することが目的であり、表社会で犯罪、ましてや殺人を犯そうとする者は、迅速に捕縛して本部に拘束するのを絶対としています。その大勢の魔女たちの中には、君も含まれていますよ、瑞樹クン」

「ボクはいいですよ。今まで通り、平凡で当たり障りのない日常を過ごしますから。寿命が縮む思いは、もうこりごりです」


 ボクはそう言って、薄い笑みを浮かべて肩を竦めた。

 しかし、彼はその答えを予想していたのか、まだ微笑みを浮かべたまま、パフェを噛みしめながら、彼は続けた。


「あと、実は相談なんですが。私はこの件が片付いたので、もう一つの任務(・・・・・・・)の方に向かおうと思うんですが、瑞樹クンに手伝ってもらえると助かるんですが」

「もう一つの任務?」

「瑞樹クンは、都内で現在進行されている“新都市計画”のことはご存知ですか?」


 “新都市計画”。都内に増えすぎた人口を散らすことと、人工島を建設する計画を同時に行うために立てられた計画のこと。現在、都内の湾内に人工島を埋め立て中であるという。でも、ボクはあまり詳しくない。


「それがどうしたんですか?」

「今造られている新都市は、“三羽みはね市”といって、裏では魔女団カヴンと合同で建設される予定で、本部はその三羽市に、魔女団カヴンの支部を創るつもりです。その手伝いを頼みたい」

「… 面白そうではありますが、ボクには無理ですよ?」

「いや。君が必要だ。何故なら、彼女・・の尻尾を捕まえるのに、君なら顔見知りだからね」

彼女・・?」


東城とうじょう魚々子(ななこ)です」


 驚いた。危うく手に持ったコーヒーカップを手から取りこぼしそうになった。先輩とレイバンさんは、何かしら関係があるとは予想していたが、先輩がどうしたというのか。


「魚々子先輩がどうかしたんですか?」

「昨日、夕方に会って以降、あの大学から忽然と姿を消した(・・・)のだよ。魔女団カヴンの方でもまったく行方がわからなくなっている」

「なるほど。それで、何か企んでいるのではないか、ということですか。まぁ、あの人はそういう人ですからね、無理もない」


 東城魚々子という人物は、ボクより“黒幕”のニオイがする人だ。裏で何を仕出かすか、ボクではまったく理解も出来ない。

 そして、その理由であるならば、話しは別だ。


「… いいでしょう。協力しますよ、レイバンさん」

「ありがとう助かるよ。三羽市の一般住居解放は2年後になる。君には、三羽市に創設される予定の、魔術学部のある、“三羽大学みはねだいがく”の方に推薦で入れるようにしておくよ」

「ありがとうございます。なら、ボクは今のうちに、短い平穏な生活を満喫しますよ」


 話は終わって、ボクたちはその店を出ようと準備を始めた。でも、その時にボクはあることを思い出した。


「あ」

「ん? どうしたんだ」

「忘れてました。レイバンさん、最初にボクが名乗った時、少し驚いてましたよね? なんでですか?」


 あの最初の出会い。ボクは大学の門の前で名前を名乗った。その時のあの驚いた顔はなんだったのか、今になって気になった。それだけだ。


「あぁ。あれは、魔女なのに、随分と正直に本名を明かすのだな、と思っただけだよ。基本、魔女は“偽名”しか名乗らないからね。それだけさ」


 あぁ、なるほど。ならば、アナタのレイバン・キャメロンも偽名なんですか? と聞きそうになって、やめた。愚問だからだ。


 これが、ボクたちの後日談。

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