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マーディの導き  作者: ハヌア
第一章 終わりの始まり
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裏切り者は二人

 壁を登り切った先には松明があった。リーコンはそれを取り、逃げる暗殺者に向かって一直線に投げつける。しかし暗殺者はそれを上手く避け、振り向きざまに、こちらに何かを放ってきた。


「ぐっ……」


 リーコンの腕に矢が刺さる。鋭い痛みが走るがその程度で立ち止まるわけにはいかない。

 リーコンは走り出し、地を蹴って空中で剣を抜き、暗殺者に向けて振り下ろした。

 暗殺者は身を翻してそれを避ける。そしてリーコンのこめかみを狙った蹴りを放ってきた。リーコンは一瞬早く身を引く。その際にブーツの先に、何やら光るものを見つけた。


「仕込みナイフか。暗闇をこそこそと動き回る暗殺者らしい」


 リーコンは皮肉っぽく言う。暗殺者はそれを無視して次の一手を繰り出す。それは右手から繰り出される強烈な風の魔法。それをまともに喰らったリーコンは吹き飛ばされ、街の路地裏に落ちるが、どうにか受け身を取ることができた。


「魔法まで使えるのか。どうやらただの傭兵ではないらしいな」


 リーコンは立ち上がり、空を仰ぎ見る。するとそこには、今まさにこちらに向かって飛んだ暗殺者の姿があった。とどめを刺そうと考えたのか、その両手には、切っ先が下に向けられた剣が握られていた。

 リーコンは前に転がり、立ち上がるのと同時に腰の剣を抜く。リリィから受け取った、団長に任命された証である剣だ。

 一方、暗殺者も地面に刺さった剣を抜き、こちらに向かって構えていた。

 暫しの睨み合いの末、リーコンが先に飛び出す。その素早さに反応が遅れた暗殺者は、リーコンの重い一撃を何とか剣で受け止める。


「ふっ……」


 リーコンは息を吐き、腕に力を込め、暗殺者の防御を力で押し切った。そして、体勢を崩した暗殺者の脇腹に、容赦ない蹴りを入れる。暗殺者は呻き、這うようにしてリーコンから距離を取った。


「どうした? 正面からの戦闘は俺の方が上かな?」


 リーコンの挑発に、暗殺者の口元が怒りに歪む。それを見たリーコンは暗殺者からの攻撃を待つ。


 相手は如何にして俺の隙を突き、見せつけられた自信を打ち砕こうかと考えているはずだ。ならばあえてそれを待ち、一気に反撃に転じよう。リーコンはそう思い、暗殺者をじっと睨みつける。


「おおお!」


 声を張り上げて暗殺者が突撃してくる。右から左へ剣を振り抜くつもりらしい。リーコンはそれを防ごうと右手に持った剣を左へ振る。

 しかし暗殺者の本当の狙いは、左手に仕込んだナイフでリーコンの喉元を掻っ切ることだった。幸い、リーコンはこちらの狙いに気づいていない。少なくとも、暗殺者にはそう見えた。しかし、


「そう来ると思っていたぞ!」


 リーコンの空いた左手が暗殺者の顔に向けられる。その意味と、これから我が身に降りかかる苦痛に気づく前に、暗殺者の意識は消え失せていた。


「ふう……」


 リーコンは帯電する左手を握ったり、開いたりして落ち着かせる。暗殺者を襲ったその魔法は、命中した相手に落雷が落ちたかのような衝撃と激痛を与える雷属性の物だった。


 剣を腰の鞘に納め、暗殺者の傍らにしゃがみ込む。


「こいつは……」


 リーコンは暗殺者の首元で、何かが灯火を反射して光っているのを見つける。それはネックレスだった。


「このネックレス……」


 リーコンは我が目を疑った。そのネックレスには、エルンバルの紋章が刻まれていたからだ。

 念のため、暗殺者のフードを取り、顔を確認する。その顔には見覚えがあった。エルンバルの軍に所属している男だ。自分が騎士団長に任命されたその場にいたのを見たので、間違いない。


「なんてことだ……敵に寝返ったのか?」


 裏切りの可能性が頭によぎるが、現在のエルンバルと対立している国の数を考えてみると、どの国のスパイなのか分からない。

 身元が特定できそうなものがないかと、ローブの内を探す。しかし何もなかった。おまけに大通りから人々の喧騒が聞こえてくる。騒ぎを聞きつけたようだ。


「クソ……」


 リーコンは止む無くその場を後にする。壁をよじ登って、仲間のいたところにまで戻った。


「どうだった!?」


 ジェイミンが聞いてくる。リーコンはさっき起こったことを、ありのまま話した。


「おいおい嘘だろっ! それで? ネックレスはどうしたんだ?」


「持ってこれなかった。急いでたんだ」


「最悪の展開だな……」


 二人は暫しの間、考え込む。不意にジェイミンが顔を上げる。


「ここもやばい。早く脱出しよう」


「そうだな」


 リーコンとジェイミンは走り出すが、リーコンがあることに気づく。


「あいつらは?」


 一緒にハイデンに来た仲間たちがいないのだ。それにジェイミンはこう答える。


「気が付いたら……いなくなってたんだ。もう逃げたのかもしれない」


「そんなことがあるのか?」


 ジェイミンの曖昧な返答にリーコンは疑問を持つが、段々と近づいてくる鎧の音に焦燥感を煽られ、その場を後にした。




 ―




 リーコンとジェイミンの二人はハイデンを出て、夜の闇の中、エルンバルに向けて馬を走らせていた。

 途中、ハイデンの方を振り向くと、次々と灯される松明の光が目に入る。国の首脳を殺されたのだから、さぞかし大騒ぎだろう。それよりも気にかかるのが、暗殺者の首のネックレス。あれは間違いなくエルンバルの物だった。最近のエルンバルとハイデンの関係悪化は著しく、今回の件による報復は免れないだろう。一刻も早く戻り、王にこの事を伝えなければ。

 これからどう動くべきかを相談するためにジェイミンの方を見る。しかしリーコンの目に飛び込んできたのは、月の光を反射して輝く刃だった。

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