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エンジェル・リライト  作者: 櫻樹翔歩
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こうして僕の「いつものように」は終わりを告げた

君は…………誰?

意識がもうろうとする中で僕は「それ」を見た。

僕が見た「それ」は物と言うにはあまりにも不完全で現象と推測するには証拠が無さすぎる……。僕は「それ」を探したい。いや探さなくちゃいけない。僕にしか解らない、僕にしか見えないはずの「それ」を…。


「……により大化の改新は成された、ここテスト出るからな」

退屈だ。

いつものように席に座り、いつものように本を読み、いつものように学業に励み、いつものように家に帰る。それが学生としての使命だと思う。強いていつものように…ではないことを挙げるとしたら、今日を含め、週に二回。生徒会がある…という事ぐらいだ。半ば強制で生徒会に入らされた…と言っても、担任(戸間日野 彩。我が宇治森高校随一の涙腺が弱い先生。ちなみに涙もろいというわけではなく単なる泣き虫先生)に泣きながら頼まれ、渋々了承したのだが、意外にも面白いものである。

さて、ここらで僕の通う宇治森高校。通称「宇治高」の説明をしよう。

学校の偏差値は76と高めで、制服もきちんと着こなすことが校則としてある。まあ一部の不良を除くが。

宇治高の絶対的な特徴といえば、もちろん宇治高限定のお茶「ずんだねぎ茶」だろう。ねぎの香りがするが、味はずんだもちという、一癖、いや二癖あるお茶である。ちなみに、宇治高の自販機でしか売ってない。お近くのコンビニや自動販売機では売っていないので注意が必要です。あとは、なんだろう?ボクシングで全国出場とか。

まあそんなわけで、宇治高の説明はこんな感じだ。…あれ、僕、誰に話してんだろ?

そんなこんなで生徒会室に足を運んだ。



「こんにちは」

誰も返事が無い、ということは僕が最初に来たのだろうか。もしくは無視を……。いや、違うな。うん、違うはず…。

「ういーす」

ガラガラと眠そうに生徒会室のドアを開けたのは、生徒会一年書記で、ミスターお調子者ランキング一位の大馬藤二だった。あと、ランキングは僕のクラスの成和さん調べ。

おっと、早速藤二の手にはずんだねぎ茶が握られていますね。流石です。

「ん?よっちゃん先輩も飲みますか?」

僕が藤二を見ていると、藤二はがしゃがしゃとペットボトルを振った。どうやら欲しそうに見えてしまったらしい。え?よっちゃん先輩って誰かって?そうか、まだ僕のことを紹介してなかったね。僕は糸嶺与一。宇治森高校生徒会、副会長の役職を務めている。与一だから「よっちゃん」会長が決めたから反論はしなかったが、気に入ってる訳ではない。

まあ、今更どうにもなんないので受け入れよう。

……………だから僕はいったい誰に話してるんだろう?

「の…飲まない」

僕の苦手なもの、それこそが、ずんだねぎ茶なんだ。

アレを飲める藤二は異常だ。

「そうですか、美味しいのに」

藤二はグイグイとずんだねぎ茶を飲み干すと、ふうと一息つき一番端の木製椅子に腰を掛けた。

「藤二君?それ、明らかに不味いと思うけど…?」

ふと後ろからトーンの高いふわっとした声が聞こえた。聞き覚えのあるその声は、僕だけじゃない、全校生徒から絶対的な信頼を得ている宇治高生徒会長……白城みさきのものだった。

「うわっ!……なんだ白城先輩居たんですか!影薄くって気付かなかったです!」

藤二。その発言は命知らず過ぎるよ…。ほら会長が今にも!!

「藤二君?今なんて言った?」

ゴキッゴキッと指をならす会長。彼女は柔道部に所属し、あの全国常連のボクシング部部員に利き手じゃない左手で勝ったという伝説がある。通称「宇治高の悪魔」。趣味は弓道、柔道、釣り、裁縫。なぜ僕がここまで知っているかというと、これまた成和さん情報である。ほんと謎。成和さん。

さらに会長は、強いだけでなく道行く男子を魅了する恐ろしい美貌の持ち主である。これは僕の個人的な主観かもしれないが、柔道=体のでかい大食いのイメージをぶち壊すスラッとした体形に身長も170と一般的な女子高校生だ。おまけに学年別テストではいつもトップである。…もう完璧超人だよ。まったく。

「え…えーと、つまり直視できないほど美しいってことですよ…ね?藤二?」

さすがに生徒会室で暴れられたら迷惑極まりない。仕方がないがフォローは入れた。後は頼んだ!藤二!!

僕が逃げるように生徒会室のドアを開けると、そこにはもう一人の「災悪」が立っていた。

「おい……糸嶺?お前、なにしてんだ?」

あー、はい、あれだ、詰んだ。このタイミングで今西先輩ってどんな詰みゲーだよ。

僕がぶつかったもう一人の「災悪」………今西隼人は不機嫌そうに濃い赤に染めた短髪を掻いた。

「い、いえ別にな、何も…」

「そうか、だったら早く会議を始めるぞ」

今西先輩のプロフィール

外見Sランク(成和さん情報)コメント「かっこいいの一言に尽きる!」との事

学力Aランク(成和さん情報)コメント「学年順位は家の兄(三年)とあまり変わりませんね」との事

性格Sランク(成和さん情報)コメント「冷たくされたい!そしてそのまま押し倒して!」との事

………成和さんすごいな。もう情報屋に転職しようよ。

「…?どうした糸嶺?」

「なんでもないです。始めましょう。」

今回の議題は「各部の部費について」だそうだ。部活に所属していない僕からしたら、死ぬほどどうでもいい事なのだが、藤二は剣道部、会長は柔道部、今西先輩はボクシング部と、生徒会の大半も入っているので適当に決められないというのが現状だ。そもそも生徒会はあと二人いるのだが、勝手に始めていいものなのだろうか?

余談だが、今西先輩はボクシング部のキャプテンだそうだ。なんでも学生ボクシングの界隈では「必殺の右腕」で通っているらしい。……なんでこう生徒会には悪魔だの、必殺だのがいるのか。なんとなくだが、成和さんあたりが関わっていそうだな。心配だ、成和さんの将来が…。

「えーと、誰か意見はありますか?」

しばらくの間、沈黙が流れた。………………………………!

やばい会長の顔に怒りマークが!

僕はこの沈黙が苦手だ。とくにこれといった理由は無いのだが、なにか引っかかる。…まあ、このまま会長がキレるのを待つのもアレなので、僕は手を挙げ………

「おっくれましター!」

ようとしたのだが、威勢のいい声に押しつぶされた。

その声の正体は生徒会一年書記の「ボクっ娘ハーフ美少女」こと、結城シスタ葵生だった。……まじで、この二つ名なんなの?たしかに言ってることは全てあてはまるが!おかしいだろ!?あれか、また成和さん情報か!?

「いやー、射撃部の助っ人が予想以上に長くてびびっちゃいましたヨー」

シスタは右手でくるくると銃のミニチュアを回した。なお、中に入っているのは弾丸ではなく、特殊なBB弾なので万が一人に当たってもあまり痛くないらしい。

「シスタちゃん。これで遅刻何回目かな?」

会長はこの手の追い詰め方が得意である。表面の言葉は優しいのに、どこか威厳がこもっている。普通の人ならこの言葉だけでメンタルを破壊できる。ただし問題がある、それはシスタが「普通の人」ではないのだ。

「えーと、ざっと数えて40回以上?」

週に二回、生徒会があると言ったが、体育祭や、宇治高祭などで生徒会は積極的に行動するため、日によっては毎週、活動があることもあるのだ。40回もの遅刻はエリート校の宇治高の生徒会としてはクビレベルなのだが、シスタは会長の家で居候をさせてもらっている条件として生徒会に入っているので、そう簡単にはやめられないらしい。なぜ居候をしているかは、さすがの成和さんも解らないらしい。僕も一度本人に聞いたのだが「かいちょーは、僕の命の恩人です」とだけ言われて後はうやむやにされてしまった。

「私、前に言わなかったかな?生徒会憲法第25条を言ってみなさい」

生徒会憲法、簡単に言うと会長が決めた生徒会内のルールのようなものだ。

ちなみに25条は『生徒会活動において他の模範になるべし、よって生徒会活動に欠席、遅刻をする場合はその日の最高責任者に必ず申し出をする事』である。

「25条…………。あっ!!わかった!も…」

「不正解」

即答だった。おそらく音速並みだろう。

「さて、お遊びはここら辺にして…本題に移りましょう」

会長は手元の資料に目を移した。

「改めて、今回の議題「各部の部費について」だけど……………」


ふとバサッと何かが落ちる音がした。

その音は重く、それでいて何かを告げるような孤高の音。

音の正体……会長の資料は、まるであるはずのない「何か」から逃げるように無残に散らばった。

「な……なによ、これ」

席から立ち、一歩後ずさる会長。

「おい……」

あまりの出来事に動揺を隠しきれない今西先輩。

「ひっ…………」

バタッ……と恐怖に失神する藤二。

「WAO!」

思わず素に戻るほど驚いている……というか、なにかのアトラクションか何かと勘違いしているシスタ。


さっきまでは無かった……だが、確かに実在している。信じたくはないけど、その圧倒的な存在には誰もが認めざるを得なかった。

「嘘だろ……」

嘘ではない、それは自分が一番よく解っていた。もしかしたら、これは僕が望んだものかもしれない。

どこか懐かしく、そして……………………。


異空間。

それは、この「いつものように」を抜け出す、天の贈り物だと、僕は思う。



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