高3*秋*冬
☆
あの日の夜…思いきり泣いた
しばらく会わないって…いつまで?
別れたいってことなのかな。
泣きすぎて…心がぐちゃぐちゃになった
自分が悪いのに…。
今さら気づいても遅いよ。
☆
秋が深まる…もう涙はでない。
公園のベンチ…先生がくるまでの時間、私はここでぼんやりする。
1人…あの日みたいに隣に彼はいないけど。
☆
私の回答を採点中の先生。
「花ちゃん、彼となんかあった?」
「何もない…です。ただ…お互い勉強に集中した方がいいって…」
一瞬私を見て、また答案に視線を戻した。
「まぁ、確かに試験もうすぐだけどね。けど…これ簡単なミスばっかしてる」
答案を返された。ほんとだ…計算ミス多い。
初めてみる先生の厳しい表情。
「ごめんなさい…」
先生はため息をついた。呆れられたかも…。
自分がみっともなくて泣きそうになる。
「花ちゃん、別に俺怒ってないよ、心配してるだけ」
いつもの笑顔だ。
「たださ、別に受験だからって離れることがいいとは限らないからね、一緒に頑張れることだってあると俺は思うよ」
……。
けど、蒼叶は離れたがってた。
私は頷くしかできなかった。
★
模試の結果は、相変わらずC判定のまま…。
さすがにこの時期でヤバくないか?
あれから…花とは学校以外で会ってはいない。
俺…あのままだと感情ぶつけて、花をまた傷つけてしまいそうだった。
だから、花から逃げた。
試験が終わるまで…お互い離れた方がいいって思ったんだ。
花は小さくうなずいただけだった。
1番前の席…花のふわふわ揺れる結んだ先には、光るビーズがついている。
俺があげたやつ…今でも毎日してきてる。
胸が苦しくなる。
ビーズをつけてる花を見て、俺は毎日どこか安心してる。自分から離れたクセに、最低だな。
片瀬と笑い合う、花をみて、せつなくなる。
笑ってるのに…なんでなんだ…。
離れたこと、間違いじゃないって思えるのに。
☆
C判定…この時期にヤバイ…。こないだやっとB判定まであがったのに。
隣町のS女ではなくて、K大に行くことをはっきり決めた。蒼叶とこうなったからではない。
その前から…やっぱり自分の意志で決めなきゃなって思ってたから。
蒼叶に甘えないで、私もちゃんとしたいって。
頑張らなくちゃ…。
☆
あの日から、3ヵ月…もうすぐ冬…。
日があっという間に落ちて、夕方はもう薄暗い。
放課後の教室…
「ねぇ、花…田崎となんかあった?」
心配そうにユミちゃんが聞いてくる。
「ごめん、ユミちゃん…うまく言えないや」
さすがに蒼叶の話題が、私から出てないからユミちゃんが不思議に思うの、当たり前だよね。
それとも…ハセくんから聞いたのかな…。
「そっか…ハセくんも田崎が変だって心配してたんだけど、何にも言わないんだって」
…蒼叶。
「でも、田崎、志望大こないだD判定とったらしい、ヤバイってハセくんが心配してた」
なんで…?あんなに頑張ってたのに…。
離れてから、ひそかに彼を見ちゃってた。
気づかれないように…ただ見るだけ。
休み時間も、蒼叶はずっと勉強してた。
平気?だよね。
☆
「花ちゃん、こないだ模試A判定だったって?頑張ったな。あ…でも油断はするなよ」
……。
「先生…離れてるのが辛くなったら…どうしたらいい?」
先生はメガネを外す。
休憩って合図だ。
「何?つらくなったの?」
優しい瞳で私をみる。お兄ちゃんいたらこんな感じなんだろうな。
「わからないけど…蒼叶に…会いたい」
「花ちゃん…分からないって言うけど、それつらいってことだから…」
涙がポタポタとスカートにおちる。
なんかとまんない…。
「つらいのよく我慢したよね、花ちゃん。その気持ちさ、正直に彼に言ってみれば?」
「でも…彼の迷惑になるから…」
「迷惑?彼がそう言ったの?」
私は首を横に振る。
「そう…言ってないでしょ、蒼叶くんは優しい子だから、きっと受けとめてくれるよ」
そう…彼はいつも優しい。
たくさん傷つけているのに…
「優しいから…だから私甘えて…」
頭ぐちゃぐちゃにされた。
「先生?」
「そう、甘えてたんだ?だったら、今度は花ちゃんが頑張る番なんじゃないの?」
頑張る?私が…?
あ…
「やっと笑ったね、涙ふいたら、続き始めるよ」
ありがとう、先生。
背中を押された気がした。
★
花のことを考えなくてすむように
ひたすら勉強した。
けど、なかなか結果はついてこなくてD判定。
正直だな…。結局忘れようとしても、心の奥にはいつも花がいる。
★
雪がしんしんと降り積もる。
月日はあっという間に流れた。
来週末が試験…
最後の模試はやっとB判定がもらえた。
推薦が決まったハセのスパルタ指導のおかげか…。
でも、やっとB判定って…正直焦る。自信ねぇ。
「蒼叶…やったな、俺のおかげだ、感謝しろ」
いいよな…決まった奴は…ノー天気で。
「合格できたら感謝してやってもいいけど…」
「マジ冗談…ふざけんなよ、お前」
ハセと俺はふざけ合う。
★
俺はハセとふざけてて…そんで…
何が起こったんだ?
「あ…蒼叶…試験頑張って欲しくて…」
目の前に花がいる。
学校なのに…みんな見てんのに…。
「わ、わたしも…負けないように頑張る…から、それで…あのこれ…ごめんなさい…」
最後の「ごめんなさい」はもうよく聞こえない。
声震えてる。
スカートを両手でくしゃくしゃになるまでつかんでる。手ふるえてっし…
あれ?前にもこんな花…
そうだ…初めてちゃんと話した時…
恥ずかしがりのくせに…ほんとな…
「花…ちょっと来て」
☆
言いたいことたくさんあるのに…声が震えて言葉にならない。
うまく伝わらない…
「花…ちょっと来て」
蒼叶は私の腕を引っ張り教室から連れ出す。
遠くの方で、ハセくんと遊びにきていたユミちゃんが意味深に目を合わせ、笑った…ことを私たちは知らない。
☆
屋上近くの階段…息が苦しい。
蒼叶にキスされてる。
「なんで…あんな…」
彼の瞳は揺れている…そして抱きしめられた。
やっぱり…離れたくないよ。
私も蒼叶を抱きしめる。
「花…」
またキスされた。キスの嵐だ…とまんない。
ドキドキ…心臓爆発しそうだけど…
すごく嬉しい。ずっとさみしかった…。
さみしかった?
そうだずっと私…蒼叶に触れて欲しくて…さみしかったんだ。
涙があふれて…こぼれ落ちる。
★
ひたすら…キスしまくって…そんで…
すっげ今恥ずかしい…
花も俺も…気持ち落ち着いたら…顔見れなくなった。
「あのさ…ごめんな…俺勝手すぎて」
「違うよ…私が甘えてたんだよ…」
「いや…だって俺あいつに勝手に妬いて…ガキすぎて」
「あいつ?」
「…先生、なんか大人だろ…あいつ。また離れてくんじゃないかって…」
蒼叶の本音…聞けた気がした。
「先生は先生だよ」
「うん…ごめん…俺…」
蒼叶の瞳が揺れる。
★
「私も…アヤって…」
アヤ…久しぶりに聞く名前に驚く。
「え?…俺、名前言ったっけ?」
「やっぱり…元カノだよね」
花の声、また震えてる…。また不安にさせてたのか…俺。
「噂またなんかあった?」
「違う…前に…教室で寝言で言ってた」
え?…寝言って…俺、ほんとアヤのこと考えたりなんて…
……。
「あ…いや、俺、アヤに大学生と浮気されたから、それで…花もって不安になって…だから…アヤに気持ちとかないから」
花が驚いて俺を見る。
あん時、好きな奴にフラれたことは言ったけど、大学生と浮気したからっては、そういや言ってなかったっけ…。
「私たち…なんかやっぱ同じだね」
花が今度は吹き出す。
同じ?
「だって、お互い、言えずにもやもやして…どうしていいか分からなくて…」
あぁ、そう言うことか…
「けど、やっぱ離れらんないんだよな」
俺がそう言って笑いかけると…
「うん」
花も笑い返す。
もう1回だけ…花にキスした。
☆
教室に2人で戻ると…ひやかしが待っていた。
勢いで行動したけど…
恥ずかしくて…顔が赤くなる。
「蒼叶…なになに?長谷部からコクられたの?長谷部おとなしそうなのに、意外と大胆」
1人の男子がからかうと、まわりも笑い出す。
もうヤダ…
かけよってきてくれたユミちゃんが…怒ってる。
「あのね~」
ユミちゃんが発したその時だった…
「うるせぇよ、俺が花に告ったんだよ。隠してたけど、俺ら付き合ってっから」
クールな瞳で彼は言う。
周りがその発言にどよめく…。
恥ずかしい…けど…
「田崎、マジかっこいいね」
ユミちゃんが小声で私に言ってくる。
どよめきの中、彼と目が合う。
彼はいたずらな瞳で無邪気に笑った…。
恥ずかしい…
私の中…気づかないうちに彼に染まってしまう。
好きすぎてこわいぐらい…。
☆
蒼叶の部屋…
久しぶりだ…ここ来るの。色々話したくて…今日はすぐに2階へ上がってきた。
「今日、学校で俺…ばらしちゃったけど…平気?」
私はうなずく。
「蒼叶は…学校では話さないの…内緒にしてるの嫌だった?」
揺れる瞳で私を見る。
「嫌っつーか、花が恥ずかしがりなの知ってたし、いいかなって思ってた」
「ただ…少し…学校でも話したいってことはあったけどな」
「ごめん…私、蒼叶といるとドキドキして…私じゃないみたいで…恥ずかしくて」
優しい瞳の蒼叶が頭を撫でる。
「分かってっから、大丈夫だし。俺がガキなだけだから…」
違うよ…蒼叶は優しいんだよ…。
「それより、教室で渡されたの、中ピアスだったけど、どうして?」
あの時…教室で渡したのは…ブルーのピアス。
蒼叶に渡せなかった誕生日プレゼント。
似合っていた左耳のピアスは気づいた時には
外されていたんだけど…
「蒼叶って名前、私の好きな色…これはね、前のピアスみたいに深いブルーではないんだけど、なんかね…すごく優しい色で…蒼叶に似合いそうって思ったんだ」
気づいたら蒼叶に抱きしめられていた。
蒼叶…少し震えてる…。
「すっげ嬉しい…ありがと…花…」
☆
彼の左耳にはピアスが光っている
優しい彼とおんなじ色…空色のピアス。




