高3*春
☆
蒼叶は優しい…
最初は…あんなにこわいって思ってたのにな。
黒髪の奥にのぞく、するどい瞳も今は優しい瞳に変わる。
付き合ってからも、前とあんまり変わらない関係。
いろんなことに、ドキドキしっぱなしの私には…
ちょうどいい関係だったはずなのに…。
彼の恋愛と私の恋愛…違うのかな…。
★
高3、春。
俺とハセ、花は1組、同じクラスになった。
片瀬は2組になり、残念がっていたけど。
ちなみに友也は3組…俺は心底ほっとしている。
ホームルーム。
1番前の席に座る、花の後ろ姿を俺は眺めていた。
ひとつにまとめられたふわふわな髪。
あいつと一緒の教室にいるって、変なかんじだ…。
花と俺は付き合っている。
けど…
学校ではほとんど話すことはない。
付き合う前とたいして変わらない関係。
俺は別に知られても気にしねぇけど…
花のやつが、うるさい。
恥ずかしいらしい。
ったく…まぁ、らしいっちゃ…らしいけど。
★
公園、花を待つ。
俺をみつけると、急いでかけてきて…第一声
「一緒のクラスになれたね」
そして無邪気に笑う。
……。
俺のタイプってこんなだったんかな…。
こいつのこういうとこ…すげぇ可愛い…。
俺は平静を装う。
「あぁ、でも学校では話せねぇし、前とたいして変わんなくね?」
「ん…そうだけど、でもなんか嬉しいよ」
自覚あんのか…。
☆
蒼叶と同じクラスになれた。すごく嬉しい。
ユミちゃんと離れたから、それはすっごく悲しいんだけど…でも、ユミちゃん、ハセくんいるから、毎日遊びにきてくれるって。
私じゃないんだってつっこんだら、笑ってた。
やっと名前で呼べるようになった…蒼叶との関係が少しは近くなるんじゃないかって…思うんだ。
だってまだ彼のこと、全然知らないから…。
★
「よかったな…一緒のクラスで」
ハセがちらっと花を見た後、意味ありげに言う。
「お前とか?高校3年間一緒って、ある意味すげぇよな」
ハセは俺たちのことを知っている。あと…片瀬も。
なんつーか、付き合うきっかけをくれたやつらだ。
分かってて、こいつは言ってくるんだ。
「でもさ…長谷部、笑うと可愛いよな、これ結構まわりのやつ、言ってる。野球部のやつらも。」
知ってる…前はほとんど男と喋ってるとこなんか見たことなかったのに…。
最近は俺で慣れたのか、男とも自然に話せるようになっていた。まぁ、自分から話しかけることは、ほとんどねぇんだけど…。
「でも、お前もな」
「は?意味わかんねぇし…」
「いや…な、西女の1年夏帆ちゃんと野球部で噂になってっぞ」
夏帆…?
あぁ、あいつか…マジかよ。
「俺、別に夏帆には、手だしてねぇよ」
★
あいつと別れてからの帰り道で、夏帆が声をかけてきた。
「蒼叶、久しぶりだね、元気だった?」
俺は一瞬みただけで、そのまま無視して歩く。
「ちょっ、蒼叶…ひどくない?」
「うるせぇ…お前と噂になってんだよ」
「あ…怒るってことは、新しい彼女できたとか?」
…めんどくせぇ。
俺が答えないでいると、夏帆はさらに話続ける。
「ねぇ、彼女とはもうHしたの?」
は?お嬢様学校が何いってんだか…。
「お前には関係ねぇじゃん」
俺は夏帆をにらみつけた。
俺の苛立ちを感じとったのか、
「まぁ、あれだよ、心変わりされないようにね」
…夏帆の意味を含んだ発言に、ピリッと俺の周りの空気が変わる。
言うことだけ言って、あいつは去っていった。
☆
土曜日…初めてのデート。
電車で1時間…。
進学校…北校の近くにある、大きな公園。
桜が咲いててすごくキレイだった。
いつもの公園とは違って…造られた小さな滝の中を通れたり、子どもが水遊びできるような小川もあった。
ひと通り園内をまわって、ご飯を食べる頃…ポツリポツリと降りだした雨。
☆
「けっこう降ってきたな」
隣接するファーストフード店で昼を済ませているうちに…やむかなって思ったけど、
期待ははずれてしまった。
電車のホーム…ベンチに座って待つ。
さっきまであったかかったのに…風が吹くと肌寒さを感じた。
「花…寒い?これ着てれば…」
グレーのパーカーをかけてくれた。
蒼叶の方を向くと目が合い…
優しい瞳に変わる。
この瞳をみると、私はすごくドキドキしてしまう。
そして、やっぱり彼が好きだなって思う。
「ありがと…蒼叶、あの…すきだよ」
今度は蒼叶が私の方を見て…そのまま…キスされた。
初めてのキス…。
!?
学生の笑い声。北校の集団が階段をのぼってきた。
私は慌てて、蒼叶から離れる。今になって恥ずかしい…顔が赤くなる。
「俺…飲み物買ってくっから…」
蒼叶は自販機に行っちゃった。
★
あいつ顔まっかだし…
すげぇことした気分になる。俺までなんか恥ずかしい気持ちになってきた…
マジか…
「心変わりされないようにね」
ふと、夏帆の言葉を思い出す
花はあいつと違って、そんなん求めてねぇんだよ
☆
眠ろうと思うのに…
はぁ…
なんかドキドキがとまらない
☆
昨日まで、あんなに幸せな気分だったのになぁ…
また、蒼叶の噂を聞いちゃった。
私の他に、遊んでる子いないかな…
私と付き合うの嫌になったりしないかな…
不安になる。
公園…
「蒼叶…あの…」
「…なに?」
…やっぱり怖い…。
「ううん、何でもない」
★
「なぁ、蒼叶…余計なお世話かもしんねぇけど…
長谷部、不安になってるみたいだぞ」
ハセからの思いがけない言葉
「は!?何が不安?俺なんかしたっけ?」
あきれた様子でため息をつくハセ。
「お前の、女遊びだろ、原因どう考えても」
最初にこみ上げたのは、怒り…
なんでだよ…
不安なら直接俺に言えばいいのに…。
「あ…お前、キツくあたんなよ、長谷部が悪いわけじゃないだろ」
俺が不機嫌になったことで、あわててフォローするハセ。
★
花は笑ってる。クラスの男と…
俺だって不安にならない訳じゃない。
同じはずなのに…
無邪気に笑う花を見ると…
☆
今日は、公園じゃなくて駅で待ち合わせ。
彼のうちでテスト勉強するから。
前々からの約束だった。私は数学が苦手、彼は国語と英語が苦手だ。得意科目と苦手科目がお互い反対で、教えあう。
彼の家に向かって歩いている。
……。
蒼叶黙ったままだ。
「ここ、俺んち…」
シンプルな外観のおうちだった。
ヤバイ…なんか緊張してきた。
玄関の鍵をあけると、リビングから、お母さんがでてきた。優しそうな、笑顔の素敵なお母さんでほっとした。
「はじめまして…あの…これよかったら…」
クッキーを渡した時だった…
タタタタタッと走ってくる音
「にいに~お帰り」
え?にいにって?
「あ~健叶、兄ちゃん今日は遊べないから、後でな」
蒼叶が目の前にいるちっちゃな男の子に話かけてる。
「健叶、お姉ちゃんから、お菓子もらったから、食べようか」
蒼叶と遊べないことに、ぐずる健叶くんを、お母さんはなだめていた。
お菓子と聞いて、目を輝かせた、ちっちゃな男の子
。
お姉ちゃんにありがと言ってねとママに促されて
「ありがと」
可愛い!!
「じゃ、カナさん、俺たち上で勉強するから」
カナさん…?
蒼叶に呼ばれ、私も階段をのぼった。
☆
「蒼叶、弟いたんだね」
「あぁ、言ってなかったっけ、親父が再婚して、今あいつ3才…なんか俺になついてんだよな…」
笑顔で言う蒼叶。
そうだったんだ…再婚か…知らなかった。
「健叶くん、可愛いね」
「いや、大変だぞ。毎日あれしろ、これしろっ…ってさ。共働きだから、夕方は俺が子守りだし。」
……なんか意外。だって、優しい顔してる。
お兄ちゃんの顔だ。
☆
蒼叶の部屋は、きれいに片付いていた。
余計なものがまったくない…。
勉強も一通り終わり、ちょっと休憩。
弟くんの話をした時は、普通だったのに。また黙ってしまった蒼叶。
「なぁ、お前不安になってるって?」
「え?」
突然の質問にビックリした。
「なんで、俺ハセから聞かなきゃなんねぇの」
低い声…怒ってる…するどい瞳がこわい。
「ん…ごめん。ユミちゃんにちょっと相談して。
あの、噂聞いて…」
「噂って、夏帆との?」
夏帆って彼が呼んだことにドキッとする。だって、私が聞いたのは、西女の1年の子ってしか…。
黙っていると…
「俺、夏帆に手だしてねぇよ、花にも俺ってそういう奴にみえるんだな…」
するどい瞳がこっちを見る。
「だって…」
元カノとのキスとか見ちゃってて…信じてるけど…
なんか不安で…
蒼叶は、私とはなんか違って…
……。
☆
蒼叶の顔が近づく…
キスされた…
苦しくなって息がもれる…
変?だって蒼叶のキスとまらない…から。
もうムリ…心臓爆発する。
少しずつ、長くて深いキスになる。
蒼叶の手がいつのまにか、制服から中に入ってきて…私の肌に触れる。
こわい…やめて…
「やめて、蒼叶…お願い…」
泣き出した私に、彼の怒った表情はもうなくて…
彼の瞳が傷ついたように揺れていた。




