高2*秋
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待ち合わせに使っていた噴水のある公園
俺は誰を待っているんだろうか…
自分でもよく分からない。
★
長谷部花…とは少しずつ、話すようになっていった。
学校では、たまに見かけるけど話すことはない。
この公園で見かけた時だけ、少し話をする。
そんな関係…。
今日は…こないんだな…。
俺はマンガをパラパラめくる。
帰っか…
もう俺には、この公園にくる必要はなくなっていた。
それでも、たまに…この公園に来たくなる。
それは…習慣からなのだろうか…。
☆
木々が色づき始める。
夏の爽快な雰囲気から一転どこか、切なさを感じる雰囲気…。
うん、ある意味大人な雰囲気なのかな…
夏の頃にはいなかった、カップルがあちこち…秋のデートを楽しんでる。
私は少し落ち着かないのだけど…
田崎くんは、ぼんやりそれを眺めていた。
「なぁ、長谷部…そういや彼氏とかいねぇの?」
こういう話、恥ずかしくてあんま得意じゃない…。
「…うん、いない…私モテないから」
自分で言ってて悲しくなる。
「田崎くんは?」
あ…普通に返しちゃったけど…そういや別れたって…
慌てる私に、たいして焦った様子もなく、
「今はいねーな、夏に別れたし…ちょっとめんどくさくなった、そういうの…」
めんどくさいって…
私の心を読まれたのかな…
「あ…長谷部、俺のこと最低な男って思ってる?」
……。
「思って…ない…けど…浮気は…よくないと…思う」
数秒の間。あれ?
「だよな…よくないよな、浮気は」
もう笑ってるし。…一瞬私の言葉が彼を傷つけたような気がした。
★
また合同か…
体育館。
ハセとストレッチをしながらいると…
バカ笑いが聞こえる。うるせぇ…ホント不快。
内容は…下ネタだ。
ここですんなよ…マジで。うぜぇから。
わ…ハセ、顔こわっ。
ハセはこういうの、好きじゃねぇもんな…。
硬派っつーの、さすがスポーツマン。
まぁ、男だけだし、別にいいとは思うけど、あいつ…そもそも、鈴木友也が俺は嫌いなわけで…。
バカ笑いが聞こえる度に、俺を不快にさせた。
「マジで?すげぇじゃん」
「で、で?どうなんの?…へぇ」
バカ笑い…。
「長谷部とすればいいじゃん」
長谷部?
「いやぁ…さすがにムリっしょ、あいつ胸ねぇし」
「友也…それねらってんのかと思った…あいつにけっこう話かけてんじゃん」
「まぁ、あいつ嫌って言わなそうだよな、言ったら…顔はまぁ、けっこう可愛いしな」
「友也、マジで言ってみたら?やっぱ経験必要じゃね?」
「マジで?」
バカ笑い…。
聞きたくねぇし。
「蒼叶…顔こえーぞ」
ハセが声をかけた。
……おまえに言われたくねぇよ。
☆
「バレーどうだった、体育祭勝てそう?」
男子は体育館でバスケ。私たち女子は旧体育館の方でバレーの練習だった。
教室に戻るところ…鈴木くんに声をかけられた。
「うん…全然だめ…レシーブうまく当たんない」
「あ~できるだけ、サーブ自分とこ飛んでくんなって思うよな」
「うん、そうそう」
お互い共感でき、笑えた。
鈴木くんの視線が一瞬遠くの方へ移動する。
「どうしたの?」
「いや…なんでもない。じゃ、俺行くわ」
ん?なんだったんだろう…。
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秋になっても、まだ体動かすと暑いな…
ハセと教室に戻ろうとしたら、
廊下で笑いあってる、友也と長谷部の姿。
ハセも気づく。
「なぁ、あの子のことだよな、友也が言ってたの」
……。
「知らなくて平気なんかな…」
ハセも心配してる様子だ…。
けど、こういうの言うってどうなんだ?
「あいつが自分で、なんとかすんじゃねぇの」
「おまえ…基本、女に優しいクセに、冷てぇな」
知るかよ…。
俺は偶然こっちを見た友也をにらみつける。
あいつは、逃げるように、長谷部の元を去っていった。
人によって態度変えすぎだろ、マジイラつく。
★
それから、数日後のことだった。
俺は友也のこと、長谷部にいうつもりはなかった。
あいつ、なんか傷つきそうだし…
余計なお世話だと思ってたから。
けど、友也が長谷部に告白したらしく…
心配したハセが委員会が一緒である、片瀬ゆみに相談したらしい。
片瀬は、あいつに言うことを選んだ。
俺はハセにそのことを聞いた。
聞いたあいつは、どんな反応をしたんだろうか…
☆
噴水みたら少しは元気でるかな…。
ユミちゃんから聞かされて…。
本当なのか信じられなかった。単なるうわさかなって。
でも、ユミちゃんから、そのことを聞かされなかったとしても答えは決まっていた。
鈴木くんへは、そういう気持ちじゃないから。
「ごめんなさい」
私が答えると、鈴木くんは…
「マジかよ、ってか別に俺、そんなに長谷部のこと好きってわけじゃないし…ノリみたいなもんだって」
……私ってバカだな…。
そう思ったら涙が止まらなくなって。
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今日も公園に向かって俺は歩いてる。
なんで俺は待ってるんだろう…。
でもなんか…ほっとけねぇし。
ベンチに座り、無邪気に走り回る、子どもたちをぼんやり眺めている俺。
風が少し肌寒く感じる頃…
俺の方へ向かって歩いてくる女の子。
あいつは、俺の顔を見ると、泣き出した。
「…アヤ、どうしたんだよ」
☆
ヤバイ…目が腫れてるかも…
今日はなんか田崎くんに会いたくないな。
そう願っていたのに…。
公園には田崎くんと、もう1人キレイな女の子。
西女の制服を着てるけど…こないだの子じゃ…ない。
泣いてる…。
私は気づかないふりして歩いた。
なんだか、心の奥がぎゅってなる。
なんか泣きそう…せっかく涙とまったのに…。
なんで?
★
アヤは突然泣き出した。
よく分からない…。
俺にどうしろっていうんだよ…。
心が苦しくなる。
戸惑っていると…長谷部が公園に入ってくるのが見えた。
やべぇ、なんか誤解されたかも…。
「アヤ…わりぃ、…ごめん」
俺はアヤを置いて、なんであいつを追いかけてんだろう。
「待てよ…長谷部」
☆
アパートの近くまできたのに…
なんで田崎くんは追いかけてきたんだろう。
「長谷部…さっきの違うから」
するどい瞳が私の瞳と重なる。
違うってなにが?
よくわかんないよ。
「それって…友也のせい?」
いつもよりさらに低い声…なんだかこわい…
逃げられない。
「ち、ちがうよ…」
私はあわてて否定する。
田崎くんは、大きくため息をつく。
「なぁ、長谷部…だったら俺と付き合わね?」
彼は何を言っているのだろう…
私の思考は停止した。
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振り返ったあいつは泣いてた。
友也のことよっぽどショックだったんだな…
あいつに傷つけられた長谷部の泣き顔をみたら、
ただ…なんか守りたくなったんだ…。
長谷部はそんな俺のこと、信じてくれるだろうか。




