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aotohana  作者: aotohana
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高2*夏


彼のことを、ただただ、こわく感じて…



このドキドキがなんなのかよく分からなかった…



高2の夏…。





空が次第にグレー色に変わっていく。

ポツリポツリと降り始めた雨。


みんな足早に、家路を急ぐ。



帰り道、水溜まりがあちこちにでき始めた公園のベンチに、傘もささず座っている、男の子。


濡れた髪にかくれ、よく表情はみえない。


びしょぬれだ…。

彼の脇には無造作にカバンも置いてあって…。


平気なのかな…他人なのにふと心配になる。






「あれっ、うちの制服じゃない」


一緒にいたユミちゃんが気づく。

ほんとだ、うちの南校の制服。


私たちに気づいたのか、たまたまなのか、その子がポタポタ垂れる前髪をかきあげる。



「あれ、1組の田崎蒼叶だよね…」


私たちはこっちを向いた彼にバレないよう、さしていた傘を深めに動かすと、その場から離れた。




田崎蒼叶と、話したことはなかった。

切れ長でどこかクールな瞳の彼は、ひそかに女子に人気だったりする。



私はというと、…正直苦手だ。

ふわっとゆるい柔らかそうな黒髪の奥、強そうな瞳がなんだかこわい。


彼の左耳にはブルーのピアスが光っている。





夏に近づき、日差しも強くなってきた。

夕方になり、ようやく心地よい風が吹き始めている。



公園、また彼がいる。

制服の白いシャツは暑いのか、だらしなく首もとのボタンがはずれ、よれっていた。


彼の隣には女の子。


西女の制服を着てる。お嬢様学校だ。後ろ姿だけで、顔は見えない。



歩きながら、なんとなく興味本意でつい見てしまっていると



彼はふと彼女の肩を抱き寄せそのまま…


…キスした。






…びっくりした。



大胆な彼の行動に、こっちがドキドキしてしまう。


彼が目を開けた瞬間…彼女越しに目があってしまった気がする。


こわい…。私は走って逃げた。






もう、あの公園通らないようにしようかな。

田崎蒼叶がいるかも知れないし。




ほんとは、公園を通って奥の細い道を入ると、私のアパートがみえてくる。かなりの近道で…。あの公園の小さな噴水が好きで、通学路にしてたのに…。



迷ったけど、暑さに負けて、いつもの帰り道を行く。


公園、彼の姿はなく、正直ほっとする。

よかった…



キラキラ…きれい。

心地よい、水音に癒される。


見てるだけでは物足りなくて、つい触りたくなって、子供みたいに噴水に近づく。


あっ


右袖にみるみる水が染み込んでいき、濡れてしまった。ぎゅって軽くしぼり、ハンカチでふいてごまかす。



公園をでようと歩き出した私の横を、イヤホンをつけ、1人歩いてきた田崎とすれちがう。


一瞬、こっちをみたような…気がした。




「ユミちゃん、今日うち来る?」


仲良しのユミちゃんと一緒に苦手な数学の宿題をすることにした。



「うん、行く。私んちより、花んちの方が近いもんね」



あの、雨の日以来久しぶりに、ユミちゃんがウチにくる。


公園が近づくとなんだかドキドキしてしまう。


公園には子どもが数人遊んでいるだけで、彼の姿はなかった。


どこかほっとする。


「そういやさ…田崎蒼叶、他校に彼女いるらしいよ」


雨の日の出来事を思い出したのか

ユミちゃんが話し始める。



他校…私はピンときた。

この間の…西女の子…、彼女なんだ。



「学校だと、あんま女子と話さないけど、他校の子とはけっこう遊んでるらしいよ…まぁ、あの顔だもんね」



ユミちゃんがそんなこと言うから、

あの時見ちゃったキス…思い出して、余裕で慣れてる感じがして…



「私、あの人…あんま好きじゃない」





教科書とにらめっこして、かれこれ1時間…。

はぁ…この最後の問題解ける気しない。


「ユミちゃん、限界…ちょっと休もう」


同じくむずかしい顔して、考え込んでいたユミちゃんに私は提案する。


「…うん、そうしよ」




お菓子休憩してたら、もう宿題そっちのけで、恋愛話に盛り上がる。ユミちゃんは最近1組に気になる子がいるみたいで…。


「委員会の集まりで一緒になったんだけど、優しいんだよ、ハセくん」


長谷部くんというらしい。


私はユミちゃんの話を、うんうんと聞いて楽しむ。


話が止まったと思ったら突然…


「でも、花は誰か気になる人いないの?」




私、いつも聞くばっかりで、あんま話したことない。だって、恥ずかしいし…。

ん…でも、誰も言わないのもな…。


「…気になるって、わけじゃないけど…同じクラスの鈴木くんは、いい人だなって思うよ」


鈴木友也くん。同じ2組の男子。

男子と話すのは、あまり得意じゃない。

なんて返していいか分からないやりとりがあったり、ノリがよくないとなんか暗い奴って思われそうだし。


男子はいきなり笑いだしたりするし…反応がわからなくて…苦手だ。


けど、鈴木くんはなんかおだやかなオーラがある。

癒し系オーラ。私にも時々話かけてくれたりする。



「あ~、鈴木かぁ、確かにいい奴だよね」


よかった納得してくれた。うん、確かにいい人だよね。



「じゃあ、絶対イヤだなってタイプは?」


私の頭に浮かんだのは、田崎蒼叶の顔。



「…ん…軽いかんじな人。浮気とかする人かな」

私は答えた。





休み時間、ユミちゃんに付き合い、隣の1組の教室をのぞいていると…


「ほら、あそこ、窓際の後ろ、ハセくんだよ」


気になるハセくんを教えてくれた。


ハセくんは短髪で、日焼けしていて、たくましいかんじの人だった。野球部らしい、スポーツマン。


あ…


ハセくんに何か用事があったのか、声をかけている田崎の姿があった。

何か面白かったのだろうか…ハセくんも田崎も笑いあってる。


…あんな風に笑ったりするんだ。



……。


「花?…戻ろっ、次移動だよ」




公園が近づくと、ドキドキする。

いませんように…心の中で願うと同時に、


ふと、今日みた、彼の笑顔を思い出してしまう。



彼がまたベンチにいた。なんかジュース飲んでる。


彼と一瞬目が合う。さっき1組で見た笑顔とは違い、クールな瞳はやっぱり、こわい。


私はうつむきながら、足早に歩く。





「ねぇ、キスしてよ、蒼叶」

甘えるような声でサキは俺につぶやく。


ここ公園…なんだけど…な。

一瞬ためらったが、俺はサキを抱き寄せキスをした。



閉じていた、目を開けると、同じ南校の制服の女が視界に入り驚いた。


やべぇ…見られた!?


その子は、すぐに行ってしまった。


なんか見たことあるような…。





あ…マジかよ。ハセと購買に行こうとしたら、廊下ですれ違った女の子。



この間、公園で会ったやつだった。隣のクラスか。どうりで見たことある顔だと思った。


話したことはない。

あんま男と喋っているとこすら、みたことない。

ベラベラしゃべるタイプでもなさそうだし、まっ、平気か。




遠くから、あいつがまた公園にいるのが見えた。

ぼけっとして何してるんだろうって思ってみていると、噴水に近づき、何か袖濡らしてる。


触りたかったのか?

変なやつ…ガキみてぇ。






休み時間。

教室の入り口のとこに、また隣のクラスの奴がきてのぞいてる。確か片瀬ゆみっていったっけ。



「ハセ、また片瀬きてるぞ」


「あ、うん、委員会一緒だから」


「ふーん、で、隣にいる奴って誰?」


「隣?あぁ、長谷部花…だよ。同じ名字だから覚えた」



長谷部花か…。

小動物系だよな。目がくりくりしてて、ふわふわな髪、ちっこいし。





今日も俺は公園で暇をつぶす。

歩いてくる長谷部と一瞬目があったが、すぐにうつむき、逃げるように去っていった。


いつもびくびくしてんのな…





「ねぇ、あおと、こないだ一緒に帰ってたの誰?」


サキが感情的になって問いつめる。


「こないだって?」


俺の返しに、さらに感情が高ぶる。


「月曜日、帰れないっていってたのに、友達がみたって…」


「あ…アヤのこと?うん、一緒に帰ったけど」



「お願い、アヤともう帰ったりしないで」


泣き出しそうな声でサキは言う。



「…わかったよ」


俺の答えを聞いて少し安心したらしい。



「蒼叶、キスしよ」


俺は、顔を近づけてきたサキの唇をふさいだ。





げた箱に靴をしまっていると…


「長谷部、数学の宿題やってきた?」

登校してきた、同じクラスの鈴木友也が声をかけてくる。


「うん、一応。でも、最後の問題難しかったから」


「だよなぁ、あれ、俺も分かんなかったよ」

笑顔で答えてくれる鈴木くん。


やっぱいい人だな、緊張しないで話せる。


「ユミちゃんと一緒にやったんだけど、あきらめてお菓子パーティーになっちゃった」


「マジで?」


笑い合う。まわりを緊張させないこの空気、好きだなぁ。





げた箱に、長谷部花がいた。

最近は、公園でも見かけてはいなかった。


なんかいつもと違う…


あ…、あいつ笑ってる。だからか。

隣には鈴木友也がいた。


友也とは中学が一緒だった。

友也と仲良いんだな。




正直、友也は中学の時からあまり評判はよくなかった。


なんつーか、女の前ではいい顔をする奴。

男でも、強そうな奴には逆らわないくせに、自分より弱そうな奴には、見下した態度をとったりする。


男からは嫌われていた。

俺も…興味はねぇけど、仲良くできるタイプではない。



あいつ…長谷部花はいかにも友也が好きそうな奴だよな。


逆らわなそうだし…。


別に関係ねぇんだけど…、あいつの無防備に笑った顔をみたら、


なんか…。





2組と合同の体育。


この暑い日に、サッカーって…。


俺たちは後からのチームになり、日陰でぼけっと試合を眺めていた。


2組の友也たちの集団がくる。


「さっさとボールとってこいよ」


「どんくせぇな」


その中でも、はむかうことのできなそうな奴をみんなでバカにして笑ってやがる。


…。


ほんと最低なやつ…。


ハセも同じ気持ちだったのか


「あいつ…どうしようもねぇな…」

冷たい視線を送った。




あ…いる…。

公園に田崎蒼叶の姿があった。

西女の彼女も一緒だ…。この前は顔見えなかったけど、すごくキレイな人。


でも…なんか彼女、頬叩かなかった?今…。


なんでいつもタイミング悪いんだろ…私。


逃げようとしたんだけど…



「おい…」


いきなり声をかけられ、心臓がビクッとなる。

怒られる…こわい…。



「なにびくついてんだよ」

低い声に、するどい眼差し…。


……。


「ごめんなさい」

私はこわくなって謝る。


「何謝ってんだよ」


予想外の反応が返ってくる。


……だって…彼は笑ってたから。





マジいてぇ。


サキとはまだ付き合ってそんなに経ってなかった。

1カ月?


原因は、俺の浮気。


アヤとの…。


正直気持ちしんどかったから、俺から別れを言った。





なんで変なとこばっか、見られるのか…。


長谷部花…。


俺は声をかけた。

なんでその時声をかけたのか…よく分かんねぇ。


スカートを両手でくしゃくしゃになるまでつかんでる。手ふるえてっし…



その反応が面白くて…俺は吹き出し、思わず笑ってしまった。


怖がりすぎじゃね?





「あ…あの…」

どうしていいか分かんない。


「せっかくだから、ちょっと話さね?」


「あ…あの…はい」


緊張して…なんかドキドキがとまらない。


公園のベンチ…



私の隣には、彼が座っている。



……。


あ…彼の頬やっぱ少し赤い…かも。


「あの…平気ですか?」


違う、なにいってるんだろ…私。


田崎は最初意味が分からなそうだった。


数秒後…


「あ…やっぱ見られてたんじゃん」


ため息をひとつ…ばつ悪そうに答えた。


そして…


「これ…俺が悪いだけだから」


私は彼の方を思わず見てしまった。



「まぁ…なんつーか、浮気?」


そう言って彼はヘラっと笑ってみせる。



やっぱ田崎って、軽いんだ…。

分かってたはずなのに…どこか、気持ちの奥でかなしくなった。



ただ、左耳のピアスだけは…彼のいつもの瞳のように、意志をもって…強く、蒼く光っていた。





サキとの待ち合わせ場所。


西女は終わりが遅い…茶道やら華道やら…なんか色々学ぶんだとよ。


さすがお嬢様学校だよな。


「蒼叶、待っててくれるよね」


ったく、結局俺はあいつが終わるまで暇つぶしすることになっていた。


あいつと別れて…もうあの公園に行く必要もなくなったはずなんだけど…


つい、足が向く。

俺はこの場所がけっこう気にいってたりする。

噴水の水音がなんか心地いい。


毎日暑いしな…


ベンチでぼけっとしてたら、


長谷部花が遠くから歩いてくるのが見えた。


ぜってぇ、俺に気づいてるクセにシカト…。


「おい…長谷部、声ぐらいかけろよ」


また、ビクッとしてこっちを向く。


……。


はぁ…ったく、


「なぁ、ここいつも帰ってんの?」


「は…はぃ」


「そっか、ここいいよな、噴水気持ちいいし」


俺の言葉に予想外の反応が返ってくる。


「はい、噴水私も大好きで…キラキラしてて…みてても…」


笑ってる。


さっきまでビクビクしてたのに。

…分かんねぇやつ。


こいつって、こんなに笑うやつだったんだ…。





「今日は遅いんだな」


「うん、委員会…」


なんてことのない何気ない会話。

けど…


少しずつ…



公園の木々に色がつき始める頃…

俺たちの関係も何かが変わり始めたような




…気がした…。







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