挨拶されて、無茶振り食らって
あたしをガン見してた王子様 (仮)は、その後もしばらくガン見を続けた。
んー時計ないからよく分かんないけど、大体5分くらいかな?
って長いわッ!!
羽が邪魔して部屋から出れない女の子を5分も眺めるとか、王子は王子でも変態と言う名の王子様 (仮)か貴様は!
気がついたんならさっさと助けてよ。
あたしこれ以上ないくらい分かりやすくジタバタもがいてんじゃん!
あ、そうそう。ちなみになんでもがいてるかっていうとね、羽が上手に畳めないからドア潜れないのwww
自分の意思で動かせることは動かせるよ?ただ、どう動かせば畳めるかが分かんないの。
あたし羽先 (手先的な意味で) が不器用なのかしらwww
不器用なのは生き様だけでお腹いっぱいなんだけどなwwwってやかましいわwww
で、埒があかないから『えーい羽なぞどうなっても構うものかッ!』と思ってドアに向かって突撃したんだけど、普通に引っかかって失敗しました。グヌヌ……。
もー、あたしの羽丈夫すぎッ!助走をつけて思いっきり突撃したってのに何ともなってないの!極太のワイヤーとか入ってるんじゃないかってくらいの頑丈さ!
でも、そんなあたしの捨て身の特攻を目の当たりにした王子様 (仮)がハッと正気を取り戻してくれたのは嬉しい誤算だったかな?
その後、王子様 (仮)に補助 (羽に手を添えて『こっちに動かすといいですよー』的な補助。但し無言) してもらって無事羽を畳めたあたしはようやく部屋から出ることができたのでした。
ただねー……。この王子様 (仮) 小鹿みたいにプルプル震えてるんだけど、この人ホントに大丈夫なのかしら?
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あの後プルプル震える王子様 (仮)に案内されてやってきたのは、でっかい建物だった。
お城とか思った?残念!正真正銘ただのでっかいお家なんだなこれが。
入口にはドアベルがついてて、王子様 (仮)がドアを開くとチリリンと涼しげな音とか出しちゃってるの。
で、ジクザグ模様の玄関マットが置いてあって、備え付けの棚にはウェルカムドリンクらしきものがなみなみと入ったガラスの水差しが……。
ね?全然お城じゃないでしょ?
見た目も雰囲気もアットホームな民宿って感じだよ。
ちょっと予想とは違ってたけど、あたし的にはこっちのほうが助かるわ。
だって仰々しいお城とか肩こっちゃいそうじゃない?え?お前そんなの気にするような性格じゃないだろって?ブッ飛ばすわよ?
そんなアットホームな玄関を不躾にならない程度にチラチラと観察しながら中に入る (今度は1人で羽畳めたわよ)と、ドアベルに反応したのか奥の方からニコやかな顔をした1人の女性が出てきたんだ。
でね。絶対あたしが原因なんだと思うんだけど、その人もね。なんかね。
「あなた。お帰りなさ――
王子様 (仮)への挨拶の途中で、あたしが視界に入ったんだと思う。
まるで王子様 (仮)との初対面を再現するかのごとく
まずはポカンとした表情であたしをガン見して、それからプルプルと震えだしたのよ。
『こんにちは~』とか挨拶する暇もあったもんじゃない。
何なんだろね。この反応は。
あ!もしかして、あたしに怯えてるのかな?
こっちの世界だとあたし顔が般若に見えちゃうとか?
地球ではかわいい女の子。だけど異世界では般若な女の子。
何よこの刺激的なキャッチコピーwwwでも当事者としては笑えないんですけどwww
……ホント笑えないんですけど。
地味に凹んでるあたしを華麗に放置したまま、2人に増えちゃったプルプルさん達が活動を再開する。
プルプルさん2号 (家の中から出てきた女の人ね。当然1号は王子様)は、生まれたてのバンビみたいな足取りで方向転換すると奥へ向かって歩き出した。
それを追うプルプルさん1号と、さらにそのプルプルさん1号を追うあたし。
もーね。意味不明すぎです。開き直ってあたしもプルプルしたろかと思ったわよ実際wwwwwww
でも何とか自重したの。
だって万が一奥からもう一人出てきて、その人がプルプルさん3号になっちゃったら、実質プルプルさんが4人揃っちゃうわけじゃない?
そしたらなんか消えちゃいそうじゃんあたしたちwwwぷ○ぷよみたいにさwww
ほら語感も似てるしさwwwプルプルとぷよぷ○ってwww
まぁ、実際にそんなことないってのは分かってるのよ。
でもそんな事でも考えてないと、暇で暇でたまらなかったのも事実なの。
けっこうデッカイ建物だから目的地も遠いの。プルプルさん達が気を利かせて小気味なトークでもしてくれりゃあっという間だったかもしんないけど、ひたすら無言でプルプルしてる人達の後ろを付いてくだけだからね。
結局目的の部屋に到着する頃には
プルプルした外皮を脱ぎ捨てた2人の中身が、あたしに襲いかかってくる展開まで妄想しちゃってたんだから。
我ながら逞しい想像力だと思うわwwwあと2人ともゴメンね変な妄想のネタに使っちゃってwwwこれでも悪気はないんだwwwだから許してねwww天使様からのお願いwwww
気を抜くとウププと笑いだしそうだったから、腹筋をフル稼働させながら部屋の中に入る。
部屋の中をサッと見回してみると、そこは『配置だけなら』王様の謁見の間みたいな部屋だった。
そう『配置だけなら』ね。
まず家具が1つしかない。
うん。その唯一の家具ってのがデッカイ椅子なんだ。
部屋の一番奥。他の床より3段程高く作られた場所にデデーンとその椅子が置いてある。
ただね。その椅子ってのが……普通の木の椅子なのよ。
しっかりとした作りなのは見た目で分かる。丁寧な作りを伺わせる重厚な存在感も素晴らしい。
だけどね、全然王様の椅子っぽくないの。
金銀を使って細かな模様を付けるでもなし。様々な宝石を散りばめてるでもなし。上等な生地をつかって豪華なクッションを付けるでもなし。
オール木製。正真正銘ただの椅子なのよ。
その上謁見の間にしては部屋が狭いの。10畳くらいしかないんじゃないかなこの部屋。
言うなればアットホームな謁見の間?
って流石に謁見の間はアットホームにしちゃイカンでしょ……。
だって言うなればあれって、国の顔なわけでしょ?
外国の大使に向かって『ワシの国はこんなにも豪華な部屋作れんねんで!スゴイやろ!』って力を見せつけたり
国の貴族達に向かって『ワシはこんだけの人数を召集して従わせるだけの権力持ってんねんぞ!逆らうなよ!』って力を見せつけたり
要は見栄を張れるだけ張りまくった部屋じゃないといけないと思うのよね。
まぁ、こんな民宿みたいな建物に絢爛豪華な謁見の間があっても、同じくらい驚いてたとは思うけどさ。
そんな事を考えてたら、プルプルさん1号 (王子様)から始めて声をかけられた。
「天使様。どうぞ奥の椅子に座ってください」
あ、やっぱそういう展開になっちゃいます?
察しがよくないあたしでも、この展開は読めてたよ。
「あ、そう?じゃ遠慮なく」
プルプルさん1号にペコッと頭を下げて、あたしは椅子に向かって歩き出した。
こういう時『いえ、私だけ座るなんてできません!』とか遠慮するのはかえって相手に失礼になるかんね。
旅行のお土産とかもそうじゃん。
『こんな大層なものいただけませ~ん!』『いえいえ。ほんのつまらないものですから。ご遠慮なく。ホホホ』みたいな遠慮のラリーした挙句受け取るより
『わー嬉しい!ありがとうね!あたしお饅頭大好きなんだ!』ってもらってくれた方が気分いいと思わない?
相手の好意は遠慮せず受け取る。これあたしの哲学ね。
その代わり受けた好意には必ず報いる。これあたしの信念ね。
という訳であたしはプルプルさんたちの好意を黙って受け取る事にしたんだよ。
あたしが歩き出すと、あたしの後ろに続くようにプルプルさん2人も歩き出した。
当然よね。謁見の間としては狭いって言っても入口と椅子との距離は10m近くあるんだもん。あたしが椅子に座ってプルプルさんたちが入口から動かなかった場合、10m離れた人とお話しないといけなくなっちゃうからね。
そんなの切なすぎるでしょwww
いや実を言うとちょっとだけビビッてたのよねwwwホラ、あたしの顔が般若みたいに見える可能性が微レ存じゃない?wwwもしかしたら10mくらい距離をとらないと怖くておしゃべりもできないとか言われたらどうしようかとさwww
そんな切ない心配も杞憂と終わり、あたしは安心して椅子に腰掛けた。
見た目通りしっかりとした作りだったらしく、座っても軋みすらしない。いい仕事してるなプルプル族の職人さん!
あたしの後ろを付いてきたプルプルさん2人は
高段の上にあがるつもりはないのか、高段の手前の床に座った。
プルプルさん1号はまるで騎士様のように片膝立てで座り頭を垂れ、プルプルさん2号はお姫様みたいに両膝立ちで座りスカートの両端を摘んで頭を下げる。
――って感じになるだろうなー。そんな態度とられたら緊張しちゃうじゃん。とか思ってたあたしの想像は木っ端微塵に粉砕された。
2人ともごく自然な体育座りだった。
床にお尻をつけ、行儀よくお膝を抱えて、キラキラした目であたしを見上げてるんだ。もちろんプルプルしながらなッ!
アットホォォォォム!
何だこの圧倒的なアットホーム感はッ!!
やりやすいじゃないかッ!!
堅苦しいの苦手だからこんな対応されるとメッチャ嬉しいじゃないかッ!!
「天使様ッ」
まったく気取ったところのないプルプルさん2人の態度に内心震えながら感動していると、再びプルプルさん1号から声をかけられた
「あ、はい。何かな?」
「このたびはわれらがせーがんをうけごこーたんくださり、まことにありがとうございます
(この度は我らが請願を受けご降誕くださり、誠に有難う御座います)」
完全に棒読みだった。無理やり覚えさせられた意味不な呪文をなぞる小学生のような無味乾燥な声っての?
何この事務的な反応。え?もしかして歓迎されてないの?あたし。
でも、そんな不安は次の瞬間遥か遠くにフッ飛んだ。
さっきまでのキラキラおめめはどこへやら。ギュッと眉間にシワを寄せたプルプル1号が、恐る恐る聞いてきた。
「あの、歓迎の言葉におかしなところはなかったですか?どうも我々は"かくしきばった?"言い方が苦手で……。
先ほどのように言えば、失礼にならず感謝が伝えられると言い伝えられているのですが……大丈夫でしたか?」
つまりあたしの感じた通り。彼は言葉の意味なんて分からずに覚えてる通りの『歓迎の言葉』を口にしただけってことか!
「た、大変結構な歓迎の言葉だったと思いますよ……?」
「そうですか!それはよかった!"せーがん"とか"ごこーたん"とか意味が分からない言葉が多くて、ひょっとしたらご先祖様の誰かが間違って伝えたのではないかと不安に思ってたんです!」
そうかそうか。確かに難しいもんね『請願』も『ご降誕』も。あたしも17年の人生で1回も使ったことないよそんな言葉。
うんうん。事情は分かったし、あたしを歓迎してくれてるってのも分かった。
で、それとは関係ないんだけどあたし1つ気になる事ができたんだ。
あのさ……その……プルプルさん1号てさ?
いわゆる……そのー……世間一般で言うところのー……アホの子だったりするのかしら?
ええ!皆まで言われなくとも分かってます!
初対面のそれも成人男性相手に失礼なのは百も承知ですッ!その上であえてあたしは聞きたいんだよッ!!
謝れと言われれば、そりゃいくらでも謝りましょうッ!!
でもあたしの第六巻がビンビンに反応してるんだよ!悔しいけどビクンビクンなんだよッ!!
だって、明らかに漂って来てるじゃないか!
何がって?そんなの決まってるじゃないか!プルプルさん1号から!まごうことなきアホの子臭がだよッ!!
だってだって!『請願』と『ご降誕』だけじゃなくて、明らかに『格式ばった』っていうのも意味分かってなかったよこの人!
それに見てよ!長い事プルプルしてたからか知らないけど、ピカピカの王冠がズレてるんだよ!それに気がついてないんだよ!絶対そうだってこの人!
「あら……あなた、ピカピカがずれちゃってますよ……」
あたしに続きプルプルさん2号も、冠のズレに気がついたらしくヒソヒソ声 (筒抜け)で1号に告げている。
ってかピカピカって……。他に言い方はないものかしら。あるよね?
2号の助言に従って、1号がサワサワと頭の上を手で探っている。
そしてようやく右にズレた王冠に手が触れると
「お?ホントだ」
ポソッと小声 (筒抜け)で呟いて、何の気負いもなく王冠を持ちあげ、そして
――そのまま無造作に床の上に王冠を置いた。
ぬ、ぬ、ぬ……脱いじゃったーッ!!
かぶり直すかと思ったのに脱いじゃったーッこの人!!
王冠を取った1号は、もうどっからどう見ても純朴な田舎の青年にしか見えなかった。
もともと王子要素なんてあの王冠だけだったんだ。それを取っちゃったんだから、そりゃ青年に早変わりもするさ。
耳が隠れる程度のカフェオレ色した髪。
優しい笑顔が似合うそこそこイケメンな顔立ち。
頑丈そうだけど、装飾が一切施されてない実用第一の服からは
その服に負けず劣らず頑丈そうな働き者の手足がスラリと伸びている。
『母親が選ぶ娘の婿にしたい人物ランキング』とかあれば、間違いなく上位に食い込みそうな好青年。まさにそんな感じ。
次から次へと予想を打ち砕かれて、若干固まってしまったあたしに向かって、プルプルさん1号は照れくさそうな笑顔を向けてきた。微かにプルプルしながらね。
「頭の形が丸いのか、ピカピカがすぐにズレてしまうんです……。
王様の仕事をやってるときは被ってないといけない掟があるので頑張っているんですが、どうしても途中でズリ落ちてしまって……」
まず、頭の形が丸いのは長所だから誇っていいんだぞ1号。あと王子様 (仮)じゃなくて王様だったんだね1号。
でも相槌が打てるのはこの2点くらいのもんだった。
「ここでは王様の仕事って……きっちりと時間をを決めてやるもんなの?」
1号の口ぶりから、まるで『パート中はマスクの着用が義務付けられてるから口紅落ちちゃう~』的な意味合いを感じとったあたしは、恐る恐る尋ねた。
もちろん念のための確認よ?パートタイムの王様が収める国なんて3日で傾いちゃうでしょ?
だけど現実ってのは、あたしの想像をはるかに越えていた。
「もちろんです。毎日天使小屋のドアをノックできるのは代々の王様だけですから。だからその時だけピカピカを被っています」
「……え?王様の仕事って、あの、あたしが居た小屋をノックする……だけ?」
「はい。ごこーたんした天使様を一番にお迎えするための名誉ある仕事です」
誇らしげにアホの子――じゃなかった王様 (1号)が胸を張る。
「そ、それで王様の仕事してない時は何をしてるの?」
「はい。本職は大工なので、家を作ったり、橋をかけたりしています」
マジでパートタイムの王様だった。
マジのマジマジでこの国では『王様=ノックする人』って図式で国が動いてるらしい。
こ、こ、こ、この国って……こ、この国って…………。
あまりの衝撃に眼の前でパチパチと火花が散る。
すっげぇ、愉快な国だなオイwwwwwwwww
あたしのテンションは容易に天元突破したのだった。
呆れる?失望する?それを通り越して絶望する?
馬鹿言わないでよねwwwこんな面白そうな国、最高じゃないのさwwwwwww
王様の仕事が天使小屋をノックするだけとか……プププッwww
そもそも天使小屋って何よwww天使をお迎えするっていったらテッパンは神殿とか、お社とかでしょwwwなのに小屋ってwww
「ねぇねぇ!多分だけど、あたしねあなた達とはスゴく仲良くできる思うの!って事で、いい加減自己紹介しない?」
今あたしの瞳、プルプルさんに負けないくらいキラキラしてると思うわwww
「こ、これは失礼しました。俺はこのラヴァンピース国で大工をやってます。ラルフ・クリアンです。天使様にお会いできて、感動に打ち震えております!」
だwwwいwwwくwwwって
そこは『王様やってます』だろラルフ君wwwあ、でも王様はバイトで本業は大工だからこれはこれで正しいのかwww
それにラヴァンピース国ってwwwwwwラブ&ピースってwww
国の名前まで愛と平和にあふれちゃってるなオイッwww素敵すぐるwwwwww
1号に続いて2号も深々と頭を下げながら、感極まったように自己紹介してくれた。
「私はラルフの奥さんで、ミカ・クリアンといいます。天使様にお会いできた感動で、ラルフ同様感動に打ち震えています!」
あー、だからプルプル震えてるのか君たち!
てっきりあたしってば怯えられてると思ってたよ。そーかそーか。感動に打ち震えていたのか愛いヤツらめ!
自己紹介したことで、改めてプルプル震えだした2人に向かって、あたしは精一杯の笑顔でお辞儀した。
もちろん実際に披露したのは見事な前屈だけどねwww
でもここでペコッと頭を下げるのって、相手に対して失礼だと思うのよwww
前屈にしか見えなかろうと、ここは心をこめて腰を折る場面でしょうが!
ビシッと決めるところは決める!それが日本纏の心意気ってもんだかんね!
あたしは頭をあげて、ゆっくりと両手を左右に開いた。
「あたしの名前は日本纏。あなた達を滅びから救うためこの地に使わされた天使です。皆で協力してこの地を盛りたててまいりましょう!」
あたしなりに精一杯天使っぽい行動と言葉使いをしたつもりだったけど、どうかしら?
「「ああ、天使様!ありがとうございます!」」
フッフッフ。大成功!
2人ともちょっと涙ぐんで、あたしを見つめてくれている。まぁ体育座りのまんまだけどなwww
勝利の余韻に浸っていると、ウキウキした様子の1号――もといラルフ君が声を弾ませ聞いてきた。
「それで我々はまず何をすればいいですかッ?」
……ん?
え?
そんなの聞かれても困るんだけどあたし。
次回から内政(?)パートに入ります。
あ、でも次回はその説明回って感じになるかもですが……。