:第二話
それから、まぼろは二日間熱にうなされた。朦朧とする意識の中でまぼろは何度か苦い薬を飲まされ手厚く看病を受けた。それから、何度もあの夜の夢を見た____父と母が死ぬ姿______あの恐ろしい影たち_________夢の中ではまぼろは、無力な少女に戻っていた。少女は、あの時と同じようにまた闇の中を駆けていた。
ほぅら走れ________ほら走れ_______走らなければどうなるかお前は知っているだろう?ととさまの目の光が失われる瞬間が頭の中を駆け巡る。
少女は、声にならない叫び声を上げる。
___________お前だけでもと私は__あの方に背いてまで___まぼろ・・・・
やたかの声が耳元で静かに響いた。
「やたか_____わたし・・・・!!」
少女は、顔を上げた。
「ひぃっ!!」
やたかの顔があの異形たちと重なる。やたかの顔が崩れて中から闇が溢れ出す。
__________カガミヲヨコセェェェェェェェェ!!!!!!
声が、木霊す。
少女は、首を振りながら頭を抑える。
「もう止めてよぉ!!・・・・・・・あぁ・・・」
死が________死が溢れている______どうして・・・・どうしてこんなことに?
少女は、か細い腕で体を抱きしめる。しゃがんで咽び泣く。
心の中で声が響く。
________何処に光があるのだろう?
洞窟の中で水が木霊すかのような神秘的で美しい声だった。
少女は、涙でぐちゃぐちゃになった顔で前をむいた。
声が、響いてくる。
私は光がほしい____誰か光をおくれ・・・・誰か、だれか________
声は、懇願する。だが、その願いは叶わないとでも言うように淡々とした冷めた声で懇願する。
誰に祈るわけでもなく_______ただ、吐息のように滑りでた願い_______
「ねぇ、誰か・・・誰か、いるの?」
少女が、問いかけると声は急に聞こえなくなる。少女がぼうっと立っていると背中の方から軽く肩を叩くように声が聞こえてきた。
_________あなた・・・・・だれ?・・・・
声を合図にしたように辺りが明るくなる。少女は、口を抑えた。
(ここは________牢屋・・・・・)
鉄格子の檻が、すべての自由を奪うように規律を守るように並んでいる。少女は、声の主をまじまじと見つめた。
少年だ______少年が冷たい牢屋の中で椅子の上にちょこんと座って少女を見つめている。
いや________見つめているのではなく顔を向けているのが正しいだろう。
何故ならば少年は、何やら模様が描かれた袋を被されているから。
まるで、罪人のように_________
「酷い・・・・誰がこんなことを・・・・・?」
まぼろは、泣き出しそうな声を上げたが少年はさも珍しく無さそうに淡々と言う。
_________あぁ・・・陰陽師が私にほどこしたものだ
「・・・酷い・・・・・酷いよ・・・」
少女は、泣いた。世界は、なんでこんなにも無慈悲なのだろう・・・・・?天津神は、何故こうも私達に残酷な運命を与えるのだろう。
_________私のために泣いてくれるあなたは誰・・・・?天から舞い降りた天女?それとも、私が作り上げた幻?
少年は、私に興味があるのだろう。上ずった声で聞いてくる。
「いいえ、どちらも違うわ。貴方こそ私が作り上げた幻じゃなくって?」
少年は、くすりと笑った。
________いいや、違う。私は、ちゃんと此処に存在している、あなたと同じように・・・・・
うんと少女は頷く。二人は笑いあった。久しぶりだこんなに笑ったのは、夢の中でもなんて心地がいいのだろう。少女は、考えた。これが、もし夢の中でも・・・・この少年を逃がしてあげられたら・・・どんなにいいだろうか・・・・・
「出してあげる・・・・逃げましょう、ここから・・・」
少年は、驚いたように顔をあげる。
___________逃げる・・・・?ここから・・・・?
そして、飽きれたように少年は笑う。
_____________やはりあなたは幻だ。私の作り上げた・・・・最後の・・・・・・
少女は、怒って声を荒げた。
「いいわ、私のことを幻だと思うならそう思えば良いわ。私は、鍵を取ってくるから」
少女は、そう言うと鍵の場所を少年に聞いた。少年は、止めたが少女は頑として聞かなかった。
少年の牢屋には大きな錠がかかっていた、如何考えても少女の力では無理には開きそうにもない。危険でも少年を逃がすには鍵を取ってくるしかないのだ。
__________鍵を持っているのは門番だよ。でも、あまり無理しないで
少女は、まかせてとでも言うように勇敢に笑った。




