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天孫降臨  作者: 針鼠
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まぼろ:第一話


________時は、混沌の世なり



_________まこと恐ろしきことなれど神道消えつつあり



___________天津神地上に託しし三種の神器手にし者



______________この中つ国




__________________三国の王となるだろう












鳥たちがさえずる声が聞こえる_________

まぼろは、よろめきながら起き上がった。

着物が着替えられている。一体誰が・・・・?

じっとりと汗をかいているせいか髪が顔に張り付く。まぼろは、髪をかきあげた。

_________ここは、どこかしら?

まぼろは、困惑した。

「起きたんだね」

まぼろは、驚いて声の主を見つめた。そこには、赤い紅を引いた妖艶な女が立っていた。

女は、戸を閉め中へ入ってくる。着物からのぞく女の手は、驚くベきほど白く美しい。

まぼろが、ぽかんと口を開けていると女は美しい目を細めた。

「驚いただろう?婆が倒れたアンタを見つけてここへ連れてきたんだ」

一つ命貰いもんしたねと女は笑う。美しくそれでいて豪快に笑う女を呆然と見つめながらまぼろは礼を言った。

「いいんだよ・・・・・そうだ。アンタ腹減ってないかい?」

まぼろは、首を傾げた。そういえば減っているのかもしれない、感覚が鈍っているのかまぼろの腹はうんともすんともいわない。

「腹が減っていなくても少し入れたほうがいい。持ってきてやるから、もう少し休みな」

こくんと頷くとまぼろはまた布団の中に蹲った。

女が、戸を開け出て行く音が聞こえる。女の遠のく足音を聞きながらまぼろは、静かに目を瞑った。

目を瞑れば真っ暗なはずなのに目の裏側に焼きついたあの恐ろしい光景がよみがえってくる。まぼろは、耐え切れなくなって目を開けた。

胸が苦しい・・・・・心が散り散りになってしまったかのようだ。まぼろは、顔を抑えずるずると起き上がった。

ととさま、かかさまは・・・・・・・・死んだ・・・・・・そして、里の者たちも一人と生きてはいない・・・・・。

もう、泣く気力さえない__________どうせなら、死んでしまおうか?

死んだら、ととさまやかかさまのいるところへ行けるかな。

風に乗って声が聞こえてくる。

顔を覆い悲しみに臥せっているまぼろの耳に楽しそうに笑う子供らの声が聞こえてくる。まぼろは、耳を澄ませた。何処から聞こえてくるのだろう。

_______あっちのほうから・・・・・

まぼろは、声のするほうへと歩き出す。

居間に出てみると庭のほうで子供たちが捕まえたばかりの蜻蛉を紐で繋いで遊んでいる。

きゃっきゃと声を出して笑う子供たち。一人、一人の笑顔は希望で輝いている。まぼろは、立ち止まり子供たちを見つめた。女が、子供たちを見つめている少女を見つけ立ち止まる。少女の顔は、絶望に満ちていてなんとも悲しげに見えた。婆の言葉が、蘇る。

_________今は、そっとしておあげ。この娘は、死地をさ迷っておる。

婆は、死んだように眠る少女を見つめながら続けた。

____________________よっぽど辛いことがあったんだろう。心を閉ざしておる。


「・・・・・・・あっ・・・・」

まぼろは、女に気づき身を固くする。そんなまぼろを見て女は、見惚れるような美しい顔で笑う。

「此処まで歩けるんならここで食べな。ほら、おいで」

女が、粥の盛ってある膳を居間に置くとまぼろは恐るおそる膳の前へ座った。

箸を持ち恐々と女を見つめる。

「大丈夫だよ、毒なんて盛ってないから。さぁ、お食べ」

まぼろは、頷くと粥を啜った塩が利いていてとても美味しい。

「・・・・・・とても、美味しい・・・です」

女は、驚いた顔をすると豪快に笑った。

「当たり前じゃないか、アタイが作ったんだから」

「・・・・・・・・・おいしい・・・」

少女の声が震えていることに気づき女は笑うのを止めて少女を見つめた。

「・・・・・・・・ひっく・・・・」

少女は、泣いていた。泣きながらも粥を頬張る。

「ちょっとアンタ、泣くか食べるかどっちかにしなよ」

女が、困ったように頭を掻く。まぼろは、関を切ったように泣きじゃくった、わんわんと声を上げた。女が、まぼろの背を優しく摩ってやるとまぼろは女の胸に縋りついて泣いた。

子供らが一斉に泣きじゃくるまぼろを驚いた様子で見つめた。

「ねぇ、お銀ねぇさん。なんでこのお姉ちゃん泣いてるの?」

「ねぇ、どうして?」

いつの間にか子供らがまぼろの周りを取り囲んでいた。心配そうな顔を覗かせている。

「困ったねぇ」

女は、困った様子で少女を見つめた。だが、まぼろは泣き止むことが出来なかった。



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