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天孫降臨  作者: 針鼠
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第五話




どのくらい歩いただろう?暗闇の中歩き続けたため時間の感覚が無い。

松明は、どんどん進んでいくというのにまぼろは、息が上がってしまい立ち止まった。

まるで底なし沼の中を歩くような気分だわ。

まぼろは、木々の間から微かに見える月を見つめた。

そういえば、私は何故こんな暗闇の中を躓かずに歩けるのかしら。まぼろは、首を傾げた。

暗闇で目が慣れてきたせいなのか、地面がよく見える。

いいえ、私の目が慣れてきたのではないわ、大地が光っている。

やたかが、歩いた後に光が生まれていく。まぼろは、走りだした。

自分の呼吸が聞こえる。光が見える。清浄な光だ、闇を押しのけてまぼろを包み込んだ。

森が途切れる。まぶしい。まぼろは、思わず手で目を隠した。

まるで、お天道様が私の目の前におらっしゃるようだ。

まぼろは、おそる、おそる自分の目を覆っていた手を退けた。

人影が、見える。人影は、まぼろを見据えて立っている。

「まぼろ、よかった。まぼろなら気がついてくれると思った」

声が聞こえてきた。

「やたか、やたかなの?」

まぼろは、叫んだ。やたかの声が聞こえて安心したのか足ががくがくと震える。

光の中にいるやたかは、高天原におられるという天津神のようだ。

まぼろは、光の中にいるのが本当にやたかなのか恐ろしくなってまた声をかけた。

「やたか、その光は何?なんだか、怖いわ」

「平気だよ、まぼろ。鏡の、光だ。恐ろしいものじゃない」

「かがみ・・・・?」

やたかの声に反応するようにまぶしい光が、少しずつ小さくなっていく。

不安になったまぼろは、やたかの傍まで歩み寄った。

「やたか、鏡ってまさか・・・・・・」

声が、震えた。まぼろの目はやたかの腕の中に大事そうに抱えられている光輝く包みに釘付けになった。

神殿に奉られてあるはずの八咫の鏡の鏡が此処にあるはずはない。

「そうさ、八咫の鏡だよ」

さも難しいことでは無いようにやたかの声は淡々としていた。

嘘なんだ、嘘をついてるんだ、やたかは私を驚かそうとしている。

「やたか、そんな嘘面白くはないわ。私を驚かそうなんて、ひどいわ。だって八咫の鏡は、神殿に奉られているんですから」

神殿に奉られてあるはずの八咫の鏡の鏡が此処にあるはずはない。

「あの、鏡は偽者だよ・・・・・」

偽者・・・・?あの鏡が偽者?

「里長さまの目を盗んですりかえてきた。滑稽だね、あんなに崇めていても誰も偽者とは気がつかないよ」

頭がくらくらとする。耳鳴りが酷い。

「やたか、今ならまだ大丈夫だよ。私、黙っているから・・・・・・」

やたかは、首をふった。

「無理だよ、まぼろ・・・直に鏡を奪いに大帝の追っ手がくる。まぼろ・・・あの里は滅びるんだ」

里が滅びる?何を言っているのだろうか。あの、豊かで平和な里が滅びる?

まぼろは、首を振って後ずさった。

嘘なんだ、嘘をついてるんだ、やたかは私を驚かそうとしている。

「こうなることは、予想がついていた。大帝の兵がもう里に攻め入っているはずだよ。ほらご覧、里に火がついた」

やたかは、里の方向を指差した。赤い点が幾つも黒い闇に描かれている。

里に火が_________

「!!」

ととさま!!_____かかさま!!!!

自然に里の方角に駆け出そうとするまぼろの手をやたかは掴んだ。

「今、里に向かったら無駄に死ぬだけだ。大帝の兵はきっと里の者たちを皆殺しにするよ」

皆殺し______まぼろの頭の中で何度も木霊す。なんでやたかは平気なの?みんなが殺されるのに・・・・

やたかの、漆黒の瞳は揺らぎもしない。まるで、人形のように淡々と話す。

「お前は、無力なんだ。分かって、まぼろ。お前だけは死なせたくは無い・・」

声は、熱をはらんでいるのに瞳は冷たいままやたかはまぼろに懇願した。

まぼろは、首を振った。

「無理よ___私だけが逃げるなんて・・・私・・・」

その時だった。やたかが、まぼろの手を引くとそっと抱き寄せた。

やたかの息遣いが聞こえる。まぼろは、驚き硬直したが何故だか心の何処かでは安らぎを感じた。

まぼろが、泣いていたときよくこうして慰めて貰った。

まぼろは、肩を震わせて泣いた。

「お前だけでもと私は__あの方に背いてまで___まぼろ・・・・」

やたかの声が耳元で静かに響いた。

________あの方・・・・あの方って?・・・・

「まぼろ!!!」

まぼろは隙をついてやたかが、大事そうに持っていた八咫の鏡を奪い取ると数歩後ろへ下がった。

「やたか・・・・・あの方って?・・もしかして・・・やたかは、その人の命令で・・鏡を盗んだの?」

少女は、幾筋もの涙の痕を作りながら少年を見つめた。

やたかの顔が見えない。見るのが恐ろしい。

「答えて!やたか!!」

やたかは、悲しそうに顔を伏せたまま答えようとしない。

「・・・私・・・・里を助けに行く・・」

八咫の鏡を、両腕でしっかりと持ちながらまぼろはまた数歩後ろへ下がった。

「さようなら、やたか・・・」

そう言うとまぼろは里の方向へ走り出した。

やたかは、闇に消える少女の背中を寂しそうに見つめた。

くすくすと耳をくすぐるように笑い声が聞こえる。

______こりゃぁ酷い振られようだなぁ。

別の声がまた聞こえる。

___________我らが貰うぞ、八咫の鏡

また別の声が聞こえる。

_______________モラウ・・・モラウ・・・

笑い声が、やたかを包み込む。やたかが、きっと声の主たちを睨みつけると声の主たちを追い払うように強い風が通り過ぎた。

笑い声が、段々小さくなる。

やたかは、濃厚な闇を見つめながら小さく呟いた。

「さようなら、まぼろ」



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