第三話
着々と神殿は出来ていった。里娘達は乙女の舞のための衣装を縫いまぼろももちろん夜も寝るのを惜しみ縫い続けとうとう仕上げた。
娘達は、祭りが近づくごとに湧き立ち美しくなった。
都から僧を迎えとうとう祭りは、行われた。
「まぁ、綺麗よ。まぼろ・・・・・・。」
母ねねは、感嘆した。白い透き通るような衣を纏ったまぼろは、若さが溢れ美しかった。
黒い大きな瞳は、何処までも澄んでいる。纏めずおろした腰まである髪は、艶があり白い肌に射す赤い頬はまぼろの美しさを引き立たせた。
まぼろは、満足そうに笑った。
「かかさま、ありがとう。」
ねねは、まぼろを優しく抱き寄せた。ああ、かかさま。私、かかさまが大好きよ。母は、香を焚いたのかよい香りがする。
「まぼろや、お前がいい子に育ってくれて本当に嬉しいわ。後は良き夫を迎えられれば私はもう思い残すことはないわ。」
まぼろは、笑った。乙女の舞は本来は神に奉げるものだが里娘達が、里男達に思いを伝えるという意味もある。
だから、娘達は着飾り思いを伝えたい相手に髪飾りの花を贈る。だが、まぼろは思いを伝えたい相手なんていないのだ。
かかさま、私そんな気にはならないわ。誰かを永遠に愛するなんて・・・・・・・一緒にいるなんて・・・できないわ。まぼろは、心の中で母に詫びた。
「かかさま、少し外を見てきたいわ。」
ねねは、まぼろの髪を撫でると行ってらっしゃいな。と言った。
里に、淡い炎が灯されて夜を迎えようとしている空を照らした。
まぼろは、里の重役に囲まれている父を見
つけ近くまで走り寄った。
やまとは、まぼろを見ると目を細くした。
「まぼろ、よく似合っているよ」
まぼろは、にっこりと笑った。
里の重役達もまぼろを褒めたのでまぼろは、ますます気を良くした。
出来上がった神殿に都の僧たちが祈りを奉げている。神殿には、八咫の鏡が恭しく飾られている。
まぼろは、炎にきらきらと反射する八咫の鏡を見つめた。
遠い昔の神話が鏡の奥底から溢れ出てくるような気がしてまぼろの心は好奇心で震えた。
里爺が言っていた。神道を疑ってはならない。信仰を失えばそれは神を失うということだ。
だから、この祭りも浄明正直を心に刻まなければならない。
この中つ国でも、信仰を失った哀れな人々が溢れていると里爺は嘆いた。
だから、まぼろも曇りの無い心で神に仕えなければならないのだ。
まぼろを呼ぶ娘達の声が聞こえる。まぼろは、その声に答えた。
「早く行ってあげなさい」
やまとが、まぼろを急かすとまぼろは里の重役達にお辞儀をし父に別れを告げた。
つと生暖かい風がとおり過ぎた。
やまとは、眉を上げた。
おかしい、いつもなら梟が鳴いているのが聞こえるはずなのに一鳴きも聞こえない。それに木々の葉の擦れる音も聞こえない。今夜の、山は静か過ぎる。
「やまとさま?どうかなさいましたか」
黙り込んだやまとを重役達は気遣う様子で見つめた。
「いや、たいしたことではないんだ」
そう、気にすることではない。やまとは、やまとは微かな不安を消すように笑った。