:第十六話
「胡蝶______!!」
通りを探したがただ声が響くだけだった。
「いつもは呼べば現れるのに・・・・」
真っ暗な夜に一人_____行灯の火だけがまぼろに勇気を与えてくれた。
まぼろは、探し続けた。しかし、声だけが空しく響く。まぼろは、歩いた。
可笑しい__________こんなに歩いているのに人一人にも出くわさないなんて・・・・・
じゃりじゃりと歩く音がする。____________・・・・・私の足音じゃない。
一つ________二つ__________三つ_________________
足音が前のほうからやってくる。行灯がぽうと三つ浮かび上がる。
まぼろは、立ち止まった。動けない______________耳鳴りが酷い・・・・・・
「やぁ、こんばんわ」
薬売りの格好をした男が言った。顔は笑っているが目は笑っていない。
まぼろは、反対方向へ逃げ出した。誰かとぶつかる。まぼろは、転んだ。
「やっと見つけた______主に報告しなければな」
まぼろを見下ろしながら武士の格好をした男が言った。
「ミツケタ、コンドハニガサナイヨ」
武士の隣にいる大工の格好をした体格のいい男が言った。
(こいつら・・・・)
忘れるはずが無い・・・この声__________奴らだ・・・影たちだ・・・・
まぼろは恐怖で動けない。
「くく・・・たまらんな・・・なぁ、主は娘の腕をもいだら怒るかな?」
薬売りがまぼろの腕を掴む。
「美しい目をしておるこの娘____目が欲しい」
武士が、まぼろの目を覗き込む。
「ジャア、アシモラウ」
大工は、唇を舐めながら言った。
まぼろは、ぞっとした。夢では、無いのかこれは_______夢では・・・・・・・・・・夢なら覚めてほしい________まぼろは、目を瞑った。
(大丈夫_____胡蝶は来てくれる・・・)
まぼろは、何度も胡蝶の名を心の中で呼んだ。
「胡蝶_______助けて!!」
まぼろが、叫んだその時だった。
風が通り過ぎる。花の匂いが微かに香る。
「ぐあぁ」
影たちの声が聞こえまぼろを束縛からといた。
まぼろは、目を開けた。
無数の蝶が月に照らされて光っている。蝶に金剛石が散りばめられたようにきらきらと輝く。
まぼろは、目を見張った。
「胡蝶!」
蝶が消えていく。月夜に照らされるは妖艶に笑う異形の者__________
まぼろは、口を抑えた。いつもの胡蝶ではない。胡蝶は、少年の姿を保っていなかった。美しい蝶の翼を広げている。まぼろは口を抑えたが小さく悲鳴を漏らした。
胡蝶はまぼろを庇うようにしてまぼろの目の前に降り立った。
「胡蝶_____その姿は・・・?」
胡蝶の目は、髪と同じ美しい緑色をしていた。
「後で話すよ」
影たちは、むくりと起き上がった。もう、人間では無かった。闇を集めたような体______永遠の闇の囚人__________なんて哀れなんだろう。
胡蝶は、影たちに飛び掛った。脇差から剣を抜いて影たちに浴びせる。だが、影たちは怯まない。
一気に飛びかかり胡蝶を押さえつけた。胡蝶の翼を持つと翼を引き裂いた。びりびりと生々しい音が響く。胡蝶は咆哮した。一体を真っ二つにする。
まぼろは、一人立ち尽くしていた。何が起こっているというのだ?足が震えて動けない。このままでは、胡蝶が死んでしまう。私が_________足手まといの私がいるから・・・・・・・
(強くなりたい______もっと強く・・・もう、大切な人をなくさぬように・・・)
意思が強くなるたび胸の辺りが暖かくなる。光だ__________なんて清浄な光・・・・・・
まぼろは、影たちに歩み寄った。影たちは、まぼろが放つ光に明らかに怯えている。
___________こっちにくるな・・・・やめろぉぉ・・
_______________なぜ・・・何故お前のような小娘に強大な神の力が操れる
_____________________マブシイ・・・・マブシイヨォ
「まぼろ・・・」
胡蝶は、まぼろに道を譲った。胡蝶の姿が少年の姿に戻る。
まぼろは、なおも影たちに歩み寄った。
(怖くない・・・・なんて暖かい光・・・・)
あなた達に生きる理由などあるのだろうか?暗闇のなかあなた達に手を指しのべてくれる光はあるのかしら。
まぼろを包む光がなお強まる。まぼろは、悟った。自分の中にある力________
________________陰を退ける陽の力
八咫の鏡に宿っていた力が私の中に宿っている。
神道を疑ってはならない。信仰を失えばそれは神を失うということだ。
里爺様の言葉が蘇る。
里では、あんなに天津神を信じて祈っていたのに______私は、何時の間にか天津神を失っていた。
今なら感じる天津神の力を___________
光が強くなる。影たちが消えていく。
_____________くそぅ、退くぞ
そう言うと影たちは消えた。まぼろの光も段々と弱まっていく。まぼろは、急に眩暈がしてよろめいた。
ふっと体が軽くなる。
「あっ・・」
胡蝶が、まぼろを抱えて軽々と屋根の上を飛んだ。まぼろは、驚いて胡蝶に抱きついた。
「まぼろ、まさかお前が選ばれるなんて・・・」
「えっ・・・?」
胡蝶は、渋い顔をした。