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天孫降臨  作者: 針鼠
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    :第十五話


それから、いろいろな町へ行き村へ行った。まぼろの舞は噂に上り商人たちはまぼろをこぞって座敷に呼んだ。まぼろは、舞いを舞うたびに人々の噂の的となった。

しかし、どの町でもどの村でもミクニの名を知っている者はいなかった。

この日は、初めて武家屋敷へ招かれた。

婆様からおろしたての衣装を貰う。

「わしがこさえたものじゃ、今日はこれを着ていきなされ」

まぼろは、嬉しくて老婆から貰った衣装を抱きしめた。真っ白な美しい衣___

「ここの主はとてもいいご隠居様のようだよ、そうだ、玉の輿でも狙おうかね」

お銀がそう言うと婆様はお銀!!と一喝した。お銀は、舌を出して笑う。まぼろは、お銀の美しい顔をぽおっと眺めた。お銀は、衣装を着て化粧をしている。ふと、声が聞こえてきた。

__________いやぁ、お銀さんは色っぽいや本当にさ

まぼろは、同意しようとしたが硬直した。

ん・・・・・?この声は・・・・・・・・

「胡蝶・・・!・・・何処にいるの?」

最近、胡蝶は前より人らしくなったような気がする。胡蝶は、けけけと笑うとまぼろの肩に止まった。蝶だ。美しい青い蝶だ。

_________おっ?まぼろも褒めて欲しいのか

まぼろは、少し顔を赤らめて蝶を追い払った。胡蝶は、慌てて退散する。

_________おお怖、まぼろのその大きな手で俺の美しい体が潰されたら大変だ

「悪かったわね、大きな手で」

まぼろは、拳を上げた。胡蝶は、まぼろの拳をひらりと避けると外に優雅に飛んでいった。

「何やってんの?」

紅葉が、飽きれた顔で見つめてくる。まぼろは、赤面して何でもないと笑った。

武家屋敷の主は、とても人の良さそうな御老人だった。

まぼろは舞いを舞った。御老人は、立派な白い髭を手で触りながら黙って舞を眺めていた。

舞が終わるとまぼろたちは酒を振舞われた。まぼろと紅葉は、もちろん断った。

その夜は、楽しい夜だった。

「噂通り素晴らしい舞だった、感服した」

御老人は、そう言うと酒を煽った。婆様が、代表してお辞儀をした。

「舞手と吹手に話をしたいのだが、いいかね?」

「まぼろ、ご隠居様にお酌を」

まぼろは、頷いてご隠居様の近くへ座りお酌をした。楓は、まぼろの後ろに座った。

老人は、嬉しそうに酒を飲んだ。

「今宵は久しく愉快じゃ、お主もどうかの?」

ご隠居は楓に杯を渡した。楓は、頷いてお酌を受ける。杯を傾けた。

旅芸人の一行はこの素晴らしいご馳走や酒に暫し酔いしれた。次々と繰り広げられる芸にご隠居は大いに楽しんでいた。頃合になってまぼろは、ミクニのことを聞いてみた。

「ご隠居様、つかのことお聞きしますが。ミクニという方を知っていませんか?」

唐突に言われてご隠居は目を丸くした。

「探し人か?ミクニ・・・聞いたことの無い名じゃ・・・」

まぼろは、がっくりと肩を落とした。ミクニは囚われ人情報もないのは仕方がない・・・・・

「いや、待て・・・・その名・・・」

まぼろは顔を上げた。老人は、暫し思案顔をしていたが思い出したと嬉しそうな顔をした。

「そうじゃ、確か武家の片倉勝家という男の嫡子がそのような名だった気がする・・・・おお、そうじゃ。ミクニなどど珍しい名をつけているので覚えておったわい」

まぼろは、老人に礼を言った。_______きっとミクニに違いない・・・・

しかし、老人は少し渋い顔をした。

「確か、ミクニ殿は床に臥せっておいでと聞いた」

まぼろは、どきりとした。_____ミクニが・・・・・?

場所を知りたい。まぼろは強くそう思った。

「勝家殿は何処に?」

「うむ、都にお住まいと聞いた・・・・して何故そのようなことを?」

まぼろは、顔を強張らせた。しまった。怪しまれても仕方がない。

「申し訳ございません・・・」

まぼろが、頭を下げて謝ると老人はにこりと笑った。

「まぁ、よい。しかし、興味本意で何処で聞いたかしらんがミクニ殿の名を口にするのではないぞ。それでなくとも戦が始まろうとしておるのだからな、隠密だと思われその場でお手打ちということもある」

まぼろは、生唾を飲み込んだ。もっと考えて行動するべきだったのかも知れない・・・・

楓が、不思議そうな顔をしてまぼろを見ていたのでまぼろは慌てて平気よと言って笑った。

「少し風に当たってきてもよろしいでしょうか?」

「うむ、わしの自慢の庭を見てくれ」

ご隠居は笑った。少し酒の匂いに酔ったらしい。まぼろは、外へ出た。

確かに自慢の庭ということだけはある美しい。池には見事な錦鯉がいる。

胡蝶の声が闇の中から聞こえてくる。

「まぼろのやりたいことってそのミクニって奴を見つけること?」

まぼろは、頷いた。

「何、そいつ・・・もしかしてまぼろのいい人?」

胡蝶はまぼろの隣に降り立った。にやにやと嫌らしい笑みを浮かべている。

「残念、違うわ。可哀想な人なの・・・死なせたくはないわ」

「じゃあさ、やりたいことが終わったら主の所へ一緒に来てくれるか?」

無邪気な胡蝶はまるで子供のように可愛らしい。まぼろは、笑った。

「ええ、いいわ」

「えぇ!!本当か?言ってみるもんだな」

胡蝶は、素直に喜んで飛び上がった。

「だだし、もしミクニに行く所が無かったらミクニも一緒よ」

「うへぇ、野郎連れかよ・・・まぁ、いっか」

胡蝶が、地面に降り立った瞬間だった。

「うぎゃあ」

突然胡蝶の叫び声が聞こえ姿が消えた。

「胡蝶・・・?ねぇ、胡蝶ってば・・・」

まぼろは、声をかけたが胡蝶の声は返ってはこない。

(先に宿に帰ったのかしら・・・)

まぼろは、首を傾げた。しかし、宿に帰っても胡蝶の姿は無かった。まぼろは、その夜眠れず胡蝶を探しに出かけた。

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