:第十四話
まぼろは、舞台に上がった。人々がこちらを見ている。平民も貴族も関係なくただ舞いを楽しみにしている。
深呼吸をして心を落ち着かせる。足音がする。もう一人の私がが舞台に上がってくる。
来た__________と思った反面来ると思っていた。
反対側からもう一人の私が歩いてくる。私と同じ衣装を纏っている。
違いといえば少女が般若の面を被っていることだ。
まぼろの後ろにいる楓にも観衆にも少女は見えていないようだ。
まぼろは、暫く少女を見つめ、観衆の方を向いた。
笛の音を待たずにまぼろは舞い始める。暫く般若の面を被った少女も舞い始めたまぼろを驚いた様子で暫く見つめていたが、前を向いてまぼろに倣った。
二人の少女が舞う_________ぴったりと合っているまるで乱れない。
(私は、私なのだから)
まぼろは、舞う。集中する。
人々の口から感嘆の声が漏れる。それほどまでに美しく力強い舞い________見たことが無い_________団員たちまでまぼろの舞いに見惚れた。笛の音もないまま舞う一人の少女を見つめた。
つと笛の音が聞こえる。深く_______心を打つ音色_________
楓は、何時の間にか笛を手にして吹いていた。
吹かずにはいられなかった。
「まぼろお姉ちゃん、天女さまみたい_________」
見ていた子供らがぽつりと言った。
紅葉も頷く。笛の音に合わせ舞うまぼろは地上に降り立った天女のようだ。
皆は、ため息をついた。こんな、素晴らしい舞手はいままでに見たことがあっただろうか?
笛を、吹いている楓でさえも思うず見惚れてしまうものだった。
でも、なんと悲しい舞だろう。羽衣を奪われて天に帰れなくなった天女のように少女は舞う。
笛の音が止む_____まぼろの動きが止まった。終わったのだ。だが、皆立ち尽くしている。
誰かが、手を叩いた。皆もはっとしたように手を叩く。
まぼろは、肩を上下させ息を吸った。
もう一人の私も肩を上下させている。
まぼろは、小さな声で言った。
「御免ね、私・・・あなたから逃げてたの・・・恐ろしいことから目を背けて逃げていた。・・・ずるくて醜いのは私だったんだよね・・・あなたはいつでも立ち向かっていたのに・・・・」
二人は見つめあった。般若の面が音をたてて崩れていく。少女の顔が覗く。少女は笑っていた。
________いいのよ、だってあなたは私だもの
もう一人が、消えていく。
____________いつだって私達はひとつ
まぼろは、頷いた。
拍手は、ずっと鳴り止まなかった。
この後、まぼろは舞台で舞いを見せるようになった。その舞は評判となり人々の噂にのぼるようになった。