:第十二話
まぼろは、何時の間にか闇の中を駆けていた。
あの日_________ととさま、かかさまが殺された__皆が_______
早く逃げなきゃ________影が・・・・あいつらが来る_______________
里に火がついている。あぁ、やっぱり_________
里の人々が倒れている。優しい人々__________切られて血を流している。
まぼろの足が勝手に動く。いやだ_____いやだよ。神殿には_____神殿にはととさまとかかさまが____________体の自由が利かない。
しかし、神殿にはかかさまやととさまの亡骸はなく。一人の少女が顔を覆ってしゃがんでいた。
乙女の舞いの衣装を着ている。火の光に照らされて白い衣が天の川のように輝く。
まぼろが、立ち尽くしていると笛の音が朗々と響き渡ってきた。
少女は顔を上げる。笑った女の顔________能面を被っている。
少女は舞う______あの日私が舞うはずだった舞を______
笛の音が激しく早くなってくる。少女の舞も激しくなってくる。
笛の音が切れる______大地に響き渡る。それを合図にしたように少女は倒れた。
びりびりとした緊張感が消えまぼろははっとして少女に駆け寄った。
「あなた_______大丈夫?」
少女は、頷いてまぼろの差し出された手をとった。
「どうして・・・こんなところに・・?危ないわ」
まぼろは、少女を見つめた。少女の面には一房の髪が垂れている。
「どうして?」
「だって、大帝の兵が_______里を・・・・・」
少女は、首を傾げた。笑ったままの能面が怖い。
「だって私達助かったじゃない」
「え・・・・」
辺りを見渡す。ここは、旅一座の舞台の上__________そうか、私助かったんだ。
まぼろが、ほっとすると少女は、やけに幼い声で呟く。
「あーあ、やたかについていけば良かったなー」
少女は、大げさにため息をついた。
「・・・・・なにを・・・」
「やたかなら、頼りになるし・・・もしかしたら、大帝に復讐してくれるかも」
まぼろは、後ずさった。
「なにを、言っているの?」
「舞だってほんとは気が進まないし、止めたいなー」
「止めて」
「大帝のせいだよ、私がこんなことになったのは・・・殺したいぐらい」
「やめて」
「ミクニのことだって本当は_____」
「止めてぇ!!!_______」
まぼろは、耳を塞いだ。
「助けられないって諦めてるくせに」
まぼろは否定した。
「違う!!そんなこと・・・・思ってない!」
少女は笑った。不気味な笑いが響き渡る。
「あなたに私の何が分かるの?____私の苦しみが・・・あなたに・・」
少女の笑い声が止まった。まぼろを見つめる。
「分かるよ、痛いほどに」
面をとる______髪がさらりと揺れる。顔________見覚えのある顔・・・・・
「だって私はあなただもん」
そこには、私の顔があった。
私は、愕然としてその顔を見つめる。
(これが_______もう一人の私・・・?)
憎悪、妬み、狂気、人間の隠れた部分________もう一人の自分・・・・
もう一人の私は私の腕を掴んだ。痛い______なんて凄い力____________
「あなたは、偽者_______わたしが本当のわたし・・・」
まぼろは、首を振る。
「そんなわけない・・・・私は・・・・」
だって私は知っている。人の温もりを________あの暖かさを・・・
「違うわ・・・私は本物・・・あなたが、偽者よ!!」
まぼろが、叫ぶともう一人の私の顔が歪む。
「お前は偽者なんだよ!」
つき飛ばされる。思った以上の力にまぼろは、倒れた。
「うぅ・・・・」
ゆっくりと起き上がる。がちゃりと音がする。鏡だ。私が砕いた八咫の鏡_______手が切れて血だらけになる。
「お前、ばっかりずるいんだよ!偽者ー、里が襲われた日から抜け出してのうのうと生きてる」
もう一人の私の顔が鏡に映る。怖い顔________嫉妬、憎悪・・・・・
私の顔が鏡に映る。怯えている顔_______________恐怖、絶望・・・・
もう一人の私は鏡を拾い上げた。にたりと笑う。
「偽者は消えてよ」
歩いてくる。もう一人の私が近づいてくる。私は、いやいやをするように後ずさる。私が、近づく。私は後ずさる。転んでしまう。もう一人の私はにたりと笑うと鋭い鏡の破片を振り上げる。きらりと鏡が光る。
振り下ろす。
まぼろは、悲鳴を上げた。