:第三話
そして、また闇の中を駆ける。
一人でも何故だか怖くは無かった。
光が見える。きっとあそこに違いない。少女は、部屋を覗いた。部屋には、太った男が机に足を乗せ眠っている。豪快ないびきだ。
少女は、ゆっくりと男に近づいた。男は、いびきをかいていい夢でも見ているのだろう。へらへらと品のない笑いを上げた。
(鍵・・・・・・鍵・・・・・・)
少女は、鍵を探した。男が、いきなり少女の手を掴んだので少女は驚いて思わず声を上げた。
(いけない!!)
少女は、急いで掴まれていないほうの手で自分の口を抑えた。
(良かった)少女は安堵した。男はどうやら深い眠りに入ったらしいまた高いびきを掻き始める。
ゆっくりと指を外してから力なくだらんとしている男の大きな腕をお腹の上にやっとのことで置いた。ちゃりんと金属が地面に落ちる音がする。
鍵だ_____鍵があった!!少女は、鍵を慎重に拾い上げた。
(あった!!あったわ!)
これで、あの少年を助けることが出来る。
少女は、駆け出した。
牢屋に戻ると少年は驚いたように声をあげた。
__________またわたしは同じ幻を見ている・・・・・
「見て、とってきたわ」
少女は、にっこりと笑うと鍵を錠に指した。錠は錆びているのか巧く回せない。
「うまく開かない・・・・」
少女が、困り果てたように少年を見つめた時だった。門番の図太い声が聞こえてくる。門番が、起きたのだ鍵がないことを知って慌てふためく声が聞こえる。
いや________門番と一緒に違う声も聞こえる・・・・・遠くから聞こえてくる。
酷い耳鳴りだ。
少女は、凍りついた。動けない、暗闇から目を背けることが出来ない_________
______________あなた・・・・影に追われているの?名も無い者たちに追われているの?
少年が、少女に聞いた。少女は、凍りついたまま頷いた。
__________________過酷な宿命を背負った幼子よ・・・・
少女は、驚いたように少年を見つめた。少年は、椅子から降りると少女の近くへ歩み寄った。
少女の目の中に不可思議な模様が浮かぶ。少年が、被されている袋の模様を見つめる。
二つの穴から覗いている瞳が一瞬光ったような気がした。
____________あなたを助けよう、罪深きわたしを助けようとした愚かなあなたを
少女は、首を振った。嫌________何を言っているの?逃げよう・・・・一緒に・・・
少年は、困り果てたように笑うと首に掛けていた首飾りを少女に渡した。
「綺麗・・・・」
豪華な銀の首飾りだ真ん中には赤い石が埋め込まれている。
まぼろが、そういうと少年は嬉しそうに笑った。
___________母上の形見の品なんだ・・・きっとあなたを導いてくれる
声がだんだん近づいてくる。泣き叫んでいる。何処だ、何処だと私を探している。
段々視界がぼやける。知っている、私はこの感覚を知っている。夢から覚めるときが近づいているのだ。
少年の姿が見えなくなる。牢屋にいて黙って酷い仕打ちを受ける少年______あぁ、消えてしまう。
少女は、叫んだ。
「必ず_必ず貴方を助けに行くから・・・待ってて必ず助けるから______」
少年は、困ったように頷くと少女に聞いた。
_______あなたの名前は・・・・?
小さな今にも消え入りそうな声だった。
「私は、まぼろ______あなたは?」
少年の姿が見えなくなる。
_______わ__たしは___________・・・・・・・・
ミ______ク___ニ__________________
まぼろは、目を覚ました。
じっとりと汗を掻いている。辺りを見渡す。そこは、牢屋ではなく見たことのある光景・・・・・・・・まぼろは、立ち上がった。夜中らしい。辺りは薄暗い。なんて、可笑しな夢なのだろう?夢にしては、息ずかいまで聞こえてくるような夢だった。それにあんな牢屋見たことない__________からんと音がする。どうやら、まぼろの裾から何か落ちたようだ。まぼろは、落ちた物を拾い上げる。
(首飾り________あの首飾りだ・・・・では・・あの夢は・・・・)
本物_____________・・・・まぼろは、愕然とした。では、あの少年は今もあの牢屋にいるというのか?
「ミクニ________」
確かにあの少年はそう言っていた。ミクニ______まぼろは、何度も名を呼ぶ。
ととさま、かかさまだったら絶対に助けろと言うはず。けっして見捨てるなと_______
少女は、天に昇る月を見つめた。
_______まだ、死ねない・・・・
少女の目に決意の光が浮かんでいた。




