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魔神と”私”が溶ける刻  作者: 美雷
第1章:当代の魔神は家を欲す
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06:魔神の失敗

洗面所で一通り身体を確認した後は、また看病に戻って、この世界での2度目の朝を迎えた。

その間の彼らの変化といえば、水を吸飲みから飲めるようになったことと、自力で寝返りを打つようになったことだ。ちなみに、それまでは私が時々体勢を変えてやっていた。

彼らが自力で動くようになって分かったのだが、どうやら獣人たちは横向きの姿勢を好むようだ。おそらく尻尾があるせいなのだろう、仰向けはいまいち落ち着かないらしい。


彼らが回復するにつれて増えてきた看病の合間の時間を使い、建てっぱなしで放置していた屋敷を整えることにした。

まずは、中庭から…


「創造、日本庭園」


屋敷の建築の時と同じく、半透明のパネルにさまざまなデザインの庭がサムネイルで表示された。予め全てが屋敷の中庭のサイズでデザインされているあたり、手間の要らない便利仕様である。

一通り眺めて、池を中心に土地の起伏を生かして庭石や草木を配置したタイプを選んだ。

ベースを決めた後は、四季折々に風景が楽しめるよう、カスタムメニューで草木を自分の好みのものに変更していく。

主役には楓のように四季で鮮やかに葉の色を変える木を、池には睡蓮のような水生の多年草を配した。

最後に土が露出した部分を苔で覆ってひとまずの完成とした。


そうして自分の屋敷で遊びつつ看病を続け、もうすぐ昼になろうかという頃だった。


不意に霊獣の放つ気配が変わった。目が覚めるのかもしれない。

私は急ぎ静かに霊獣の傍らまで移動して、そっと顔を覗き込んだ、その時だった。


「キュァアァアアーーーーー!!」


霊獣がぱちりと目を開けたかと思うと、子どものような高い鳴き声で悲痛に叫びながら、長い身体をくねらせて暴れだした。

同時に霊獣ならではの膨大な魔力が放出される。

しかも自身さえも傷つけるような滅茶苦茶な放出の仕方だ。


まずい!!混乱して暴走している。


私は咄嗟に結界の檻を展開し、霊獣と私を閉じ込め隔離した。

暴れる霊獣に手を伸ばし、胸に抱きしめるようにして固定し、ゆっくりとやさしく首筋を撫でる。


「大丈夫だ。怖がらなくていい。もう大丈夫だ。」


言葉とともに、撫でる手のひらから微弱に魔力を放出する。

魔力は各々で波形が異なるため、魔力感知に優れる者であれば、それだけで個人を特定できる。霊獣は特に魔力に敏感なので、私の魔力を感じればあの研究者たちではないことに気付くかもしれない。


「落ち着いて。もう君を傷付ける者はいない。大丈夫だ。」


この子はおそらく、卵から孵ってからずっと研究者たちの拷問まがいの実験を受け続けていたのだ。自分以外の者は全て、自分を傷付けるだけの存在だったのだろう。

そんな状況で生まれてから今まで生きてきたのなら、半覚醒の時に他者の気配を感じれば、実験が開始されると思って恐怖に駆られても当然だ。私の配慮が足りなかった。

だが今は後悔している場合じゃない。負の感情を感じさせてはならない。


繰り返し繰り返しできる限りにやさしく言葉をかけ、撫で続けていると、突然ぴたりと魔力放出が収まった。

暴れている気配もないので、抱きしめていた腕の力をそっと緩めて霊獣の顔を覗き込んだ。


「きゅぅぅ??」


「驚かせてすまなかった。もう大丈夫だ。」


くりくりとした丸い瞳で不思議そうにこちらを見上げてきた霊獣に再度声をかけると、ようやく落ち着いたらしい。私の首筋にすりすりと頭を擦り付けてきたのでまた撫でてやった。…かわいい。

先ほどの恐慌状態が嘘のように甘えてすりよってくる霊獣に、思わず目を細めて思う存分撫でまわした。

撫でながら治癒の魔法を使い、魔力暴走で傷付いてしまった箇所を治してやれば、それに気付いた霊獣が長い身体で私に巻き付いてきた。あぁ、かわいい。かわいすぎる。


「―――あの…」


一心不乱に霊獣のすべすべの鱗の感触を撫で楽しんでいると、背後から遠慮がちな声が聞こえてきた。

振り向くと、戸惑いがちにこちらを眺めるエルフと獣人たちがいた。どうやら霊獣の魔力放出の騒ぎで目が覚めていたらしい。

すぐに結界を貼ったとはいえ、霊獣の魔力は他の者には強すぎる。たとえ一瞬でも強烈な衝撃を受けてしまったようだ。しかし、怪我はないようで幸いだ。

ちなみに魔神はこの程度なら掠り傷さえ負わない。


私は結界を解いて彼らに向き直った。

霊獣は私に巻き付いたままだが好きにさせておく。撫でるのも止めない。せっかく甘えてくれているのに勿体ない。


「君たちが捕まえられていた施設のことは覚えているな?

私があそこを襲撃した時に、君たちはまだ生きていたので連れ帰って治療した。

ここは私の家だ。

君たちを拘束する気はないので、安心してほしい。」


とりあえず今の状況と、私の意志を伝える。

本当は拘束してこのまま飼っていたいくらいには愛着が沸いているが、まだ彼らの性格もわからないし、相手の意志を無視するのは良くない。

しかし、自分で言っておいてなんだが、安心しろと言われてもできるものじゃないだろう。特に私の見た目はほぼヒューマンだし、今までヒューマンからあんな扱いを受けていたんだ。警戒されて当然だ。


「えっと… 助けてくださったようで、ありがとうございます。」


困惑した表情を浮かべながらも、まず返答を返してきたのはエルフだった。どうやら先ほど声をかけてきたのも彼だ。

しかし、戸惑ってはいるものの警戒されている様子はない。

獣人たちはエルフよりも警戒心が強いのか、身体を強張らせて状況を窺っていたが、こちらも突然2人揃って緊張を解いた。

―…こんなんでいいのか、こいつら。こっちが心配になってくる。


「怪我を治してくれてありがとう。助かった。

その……警戒して悪かったな。」


「いや、構わない。気にするな。」


猫系獣人が人懐っこい笑顔でにぱっと笑って声をかけてきたが、その直後、やや決まり悪そうにそっぽを向きながら詫びてきたので、気にしていない旨を伝えた。


「感謝する。」


続いて犬系獣人も礼を言ってきたが一言で終わった。口数が少ない。表情も動かない。

どうやら無口で無表情な人物らしい。

だが、声は良い。男らしい色気のある美声だった。


「とりあえず身体に負担をかけないよう楽にしてくれ。

この部屋には回復を促す魔方陣の他に、痛覚を麻痺させる魔法陣も使っている。

痛みを感じていなくとも、完治しているわけではないので注意してほしい。」


「えっ魔法陣の重ね掛けですか!?

優秀な魔法師なのですね。素晴らしいです。」


痛覚が麻痺した状態で過剰に動かれると治療しているこちらが困るので説明しただけだったが、エルフが驚いた声を上げた。獣人2人も声には出していないが目を見開いて驚いている。

…おかしい。そんなに非常識なことをしたつもりはないのだが。

私には発生した当初からある程度の知識が植えつけられているし、検索の魔法で情報も引き出せる。

看病しながら集めた魔法師の情報には”魔法陣の重ね掛けができる者はそれなりに優秀”くらいにしか書いてなかったはずだが…


いや、そういえば、前任の魔神が死んだときの破壊が、偶然、繁殖力の高いヒューマンに有利に起こったのだったか。そのせいで、ここ1000年で急激にヒューマンが増加し、魔素がありえないほど薄くなった。

そして魔法師の数が減り、大きな魔法も使えなくなったのか。

…しまったな。とりあえず適当に話を逸らそう。


「ところで腹は減っているか?

食べられそうなら何か食事を用意しよう。」


あの研究所でまともな食事が出たとは思えないし、ここに運んでからも2日経っている。確実に空腹なはずなので乗ってくるだろう。

案の定、私の言葉に応えるように3人の腹がなった。

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