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魔神と”私”が溶ける刻  作者: 美雷
第1章:当代の魔神は家を欲す
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04:魔神の治療と看病

個別に寝かせると移動が面倒なので台所に隣接して作った12畳の茶の間に並べて寝かせた。もっと広い部屋もあるが、水場が近い方が何かと便利だ。

ちなみに我が屋敷の畳は京間(もしくは本間)と言われる基本のサイズよりも少し大きなサイズのもので、12畳もあれば(日本人的感覚では)長身の部類に入る3人を並べて寝かせてもそれなりに余裕がある。

なお、こちらはベッドの文化なので、敷布団の代わりにマットレスを敷く。出処は悪徳貴族邸の客室だが、浄化も掛けたし問題はないだろう。もちろん彼ら自身にも浄化を掛け、身体を清潔にする。

服はもともと着ていなかったので全員、裸だ。

今更といえば今更だが、そのままというのもどうかと思ったので入院着みたいなものを着せておく。ズボンはなしのワンピース型で、紐で結んで合わせを止めるタイプだ。これなら前開きで傷の状態も簡単に観れるし便利だろう。


寝床に関して問題となったのが霊獣だ。

霊獣は全身白い鱗で覆われた蛇のような身体だが、小さな手足がついている。そして頭部には鹿のように枝分かれした角があり、こちらも白だ。

(みずち)という名が浮かんだがあれは日本での名称だし、ちょっと違う気がする。特徴から検索をかけても該当する種は検出されず、霊獣としか出てこない。

…肝心なところで使えないな。

とりあえず、蛇の飼育を参考に、浅いケースに傷に障らないよう丸みの強いウッドチップを敷き詰めてその上に寝かせた。

ちなみにこの子のサイズは、全長が2mくらいで内半分は尻尾、太さは頭部付近で二の腕程度だ。今は鱗があちこち剥げてボロボロだが、全快すればきっと素晴らしく美しいだろう。


さて、改めて皆の状態を診ると、全員瀕死と言って差し障りない状態であるようだ。

エルフは大きな部位欠損こそ見受けられないものの、全身の肌が継ぎ接ぎだらけの上、パックリと肉が覗く程の傷があちこちに刻まれ、とにかく衰弱度合いが酷い。生命力がほとんど無い状態だ。

獣人は、エルフのように長命ではないが再生力に優れる。その再生力の限界を調べる実験でも行われたのだろう、2人ともエルフと同じく全身を切り刻まれており、さらには片腕片足が無い。肉体再生は可能だが、これだけの欠損部位を補うとなると、かなりの生命力を必要とするだろう。

そして霊獣は、あちこち鱗と共に肉が削がれている。本来はこの程度の傷ならば瞬時に再生するほどの生命力を持っているはずであるのに、傷付いたまま再生する素振りもない。エルフと同じくもう生命力が残っていないのだ。


この世界では、魔法であろうと肉体の治癒や再生に、治療を受ける者自身の生命力が多かれ少なかれ必要とされる。術者が魔神である私であれば、代償に必要となる生命力を極限まで減らすことはできる。だがそれでも一気に全快させるのは危険だろう。

魔神の力をもってしても魔法は決して万能ではないのだ。

確実に彼らを治すには生命力を回復させつつ、治療するしかない。あまり急激にやると身体への負担が大きくなるので、時間をかけて回復させることにしよう。


まずは空気中の魔素を体内に取り込み生命力に変換する魔法陣、その上に治癒・再生を促す魔方陣と、さらに痛覚を麻痺させる魔法陣を重ねる。

これらの魔法陣では欠損部位は再生しないが、その他の傷は完治するだろう。肉体の再生は生命力がある程度回復してから行わなければ危険なので、今はこれで良い。

場が整ったので、一人づつ状態保存の魔法を解き、出血が止まるだけの最低限度の治癒を掛けた。あとは魔法陣の補助と彼ら自身の生命力に任せる。


ふと外を見るとすっかり辺りは暗くなっていた。さすがに発生初日でいろいろと頑張りすぎていささか疲れたらしく、気を抜いた途端に眠気を感じた。

屋敷の周囲には物理攻撃や魔法攻撃を防ぐ万能結界の他、認識阻害結界も張っているので、窓などを開けっぱなしていても、外敵どころか蝿蚊1匹入ってくることはできない。このまま私が眠ってしまっても何の問題もない。

それにしても、感じる疲労は精神的なもののみで、なぜか肉体的には疲れていない。十中八九、魔神だからだろう。おそらく本来は精神的にも疲労を感じることはないのだろうが、私は前世の感覚を引きずっているからなのだろう。頭が痺れるような疲れを感じる。

彼らはまだまだ起きないだろうし、私もひとまず休むことにしよう。


        ・

        ・

        ・


目が覚めたらまだ辺りは暗かった。わりと短時間で目が覚めたようだが、頭はすっきりしている。

彼らは予想通りまだ眠っている。私が寝ている間も目覚めなかったようだ。おそらくあの研究室では眠ることもできなかったのだろう。摩耗した精神と肉体が休息を欲して深い眠りに入っているのだ。

しかし、魔法陣により生命力を与えられているのでもう少し回復するまでは食事をさせる必要はないが、水分だけは取らせた方が良いだろう。


台所に行き、水差し、吸飲み、コップをヒューマンの街から取り寄せる。はっきり言って強奪なので、落ち着いたら買い物に行きたいが今は気にしないことにする。その他、タオルや替えのシーツなども転移しておく。


水は台所の蛇口から当たり前のように出てくる。もちろん水道なんて通っていないが、私のイメージに従い、望む結果が得られるように魔法技術が使われているのだ。

ちなみにこの屋敷の蛇口は全て、ハンドルではなくタッチセンサー式だ。手を翳すことにより組み込まれた魔法陣が起動し、滝壺から水が転送される。

魔法陣には浄化も組み込まれているので、そのまま飲んでも安全だ。しかも、出てくる水量は手を翳した者の意識を読み取り自動制御されるという、前世よりも便利な仕様となっている。


準備を整えて茶の間に戻り、一番端に寝かせているエルフから水を飲ませるべく、口元に吸飲みを持っていく。しかし、口内に流し込んだ水は飲み込まれずに口の端から零れ落ちた。

仕方がないので、今度は自分の口に水を含み、口移しを試みた。舌を差し込みゆっくりと水を流し込むとなんとか飲んでくれたようだ。

同じ動作を何度も繰り返し、コップ1杯分の水を飲ませた。


同様に獣人2人にも水を飲ませる。やはり自力では飲めないようだったので、結局全員に口移しをする羽目になった。

さすがに霊獣に口移しは形質上難しいのでどうしようかと悩んだが、幸いにも霊獣だけは吸飲みで飲んでくれた。

水を飲む力があるなら、彼らはそう心配ないだろう。おそらく数日で回復するはずだ。


私は2~3時間置きに彼らに水を飲ませ、様子を見続けた。

痛覚麻痺の魔方陣のおかげか、彼らは概ね穏やかな寝息を立てて眠っているが、やはり研究所で受けた仕打ちが堪えているのだろう、皆時々魘されているようだ。

私は気休めにでもなればと思い、魘されている者の手を握り、もしくは霊獣の鱗を撫でながら、できる限り優しくもう大丈夫だと話しかけた。

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