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魔神と”私”が溶ける刻  作者: 美雷
第1章:当代の魔神は家を欲す
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03:魔神の家造り

さて、ひとまず皆を柔らかそうな下草の上に寝かせ、状態保存の魔法を掛ける。家を建て終わったら死んでいたなんて事態は避けたいからな。

なら先に治療しろよというツッコミが聞こえてきそうだが、家なんて魔法を使えば一瞬で建つ。先にやっても問題ないだろう。


というわけで、まずは家を建てる場所だが…いや、考えるまでもなく、ここがいいだろう。私が発生した地というだけあって気との相性も良いし、滝壺は水場として利用価値が高く、陽当たりも十分だ。

滝壺から適度に離れた林縁部に家を建てることに決めた。


「創造、住宅」


また半透明のパネルが出てきて、今度は詳細検索用の画面が表示された。2度目なので驚きはしないが、なんとなく脱力してします。私にとっては非常に分かりやすく使いやすい仕様なので、気にしないことにしよう。


建築物にもいろいろとタイプがあるようなので、とりあえずカテゴリー欄を見る。

城、宮廷、貴族邸、街の一般住宅、村の村長宅、村の一般住宅、などなどヒューマン用の物件に始まり、エルフなどの他種族の物件、果てに竜の巣なんてものまである。

というか、竜…いるんだんだな。ぜひとも一目見てみたい。できれば触りたい。許されるなら撫でまわしたい。希望が通るなら……いやいや、思わず夢想してしまった。いかんな。


気を取り直して再度パネルに視線を移し、気になったカテゴリーを表示させてカタログのような画面を眺める。しかし、いまいちピンとくるものが見つからない。特に希望はないはずだし、良いかなと思う物件もいくつかあった。なのに、これだ!というものは見つからない。

適当に妥協すべきかと悩みつつトップページに戻ると、ふと検索バーが目に入った。

ちょっとした好奇心というか、悪戯心というか、少し結果が気になったのでふざけ半分で言葉を紡いでみる。


「日本家屋、検索」


ポーンと軽い音がしてポップアップが開いた。…開くのか。


《この世界に該当する建築はありませんので、検索者の記憶から情報を検出します。

 情報が不完全ですので、不足分をこの世界の建築から補います。  Yes/No 》


改めて魔神の魔法は高性能である。選択はもちろんYesだ。

正しい日本家屋の様式なんて知らないし、そもそもこの世界で知っている者なんて存在しないだろう。ならば厳密な正確さなんて必要ない。


さて、注目の検索結果は…

城、武家屋敷風、寺院風、平安貴族邸風、古民家風

”風”て何だ…いや確かに正確な様式を知っているわけではないから~風としか言えないんだろう。

何度目かの脱力から立ち直り、各カテゴリーを見ていく。

先ほどこの世界の城として表示されたものは所謂西洋の城だったが、日本家屋検索で表示された城は大阪城のような戦国の城だった。面白いけどこんなものを建ててどうするんだ。

武家屋敷風はなんだか迷路のように入り組んでいる。忍者屋敷の間違いじゃないのか。

まぁとりあえずもっとシンプルでいい。自分の屋敷で迷子なんてシャレにならない。

もちろん平安貴族邸風は迷わず却下だ。

寺院風と古民家風を隅々までチェックして、最終的にシンプルな構造の一つの古民家を選び出した。


「よし、決めた!」


ようやく気に入った建築を見つけて、意気揚々と決定を押す。

……私はしばし固まった。まさかの事態だ。こんなこと予想もしていなかった。

なんとカスタムメニューが出てきたのだ。

もちろんカスタムせずにそのまま建てることもできる。できるが、だがしかし!


「ふっふっふっふっ… 中庭が欲しいと思っていたんだ!

 こうなれば私だけのオリジナルを完成させる!!」


        ・

        ・

        ・


「…こんなものかな。意外と大きな屋敷になってしまったな。

 いや、そうでもないのか?実際に見てみないといまいち規模がわからないな。

 まぁもし住んでみて不便があれば、その時改築すればいいし… 決定、と。」


最終決定を下すと、さっきまで3D映像でさんざん弄り倒した平屋の屋敷が眼前に出現した。さすが木と紙の文化の建築物だ。森に違和感なく溶け込んでいる。

ちなみに使った木材はきちんとこちらの世界のもので、色や木目にこだわって選んだ。風呂にはもちろん香りの良い木材だ。

なお、材料の出処はヒューマンの街からだ。もちろん悪人所有のものに限定することも忘れてはいない。残念ながら和紙に該当するものはなかったので、仕方なく魔法で作成した。我ながら素晴らしい出来だ。そのうち襖絵も(えが)いて、それに因んだ名前を各部屋に付けると楽しいかもしれない。


それにしても思いのほか熱中してしまった。凝りだすと満足いくまでどこまでも突っ走ってしまうのは、研究者としての性質なのか…

それにしても何か忘れているような…と考えたところで連れ帰ってきた皆の存在を思い出した。

しまった。やってしまった。ありえない。

彼らをゆっくり治療する場所が欲しいという目的を忘れて、ついのめり込んでしまった。こうなると、念のためにと掛けておいた状態保存の魔法が救いだ。すでに陽が傾いていることから随分と時間が経っていると分かるが、彼らはまだ無事だ。


私は急いで彼らを完成したばかりの家に運び、茶の間に寝かせた。

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