02:魔神の食事
検索結果のタイトルをクリックすると研究所の位置情報も含めた詳細情報が表示された。
実験内容についても、時系列で詳細が記載されているが、今、見る必要はない。
幸運にも現在、全ての研究者が研究所内にいるようだ。
表示された位置情報を元に、私は一気に転移した。
特に何の衝撃もなく、眼前の空間が揺らいだかと思った次の瞬間にはSFちっくな研究所にいた。
世界観はファンタジーなのに、研究所はSFっぽいんだな…
驚く白いローブの研究者たち、その汚らわしい存在に我慢ならず、腕を横薙ぎに一閃し、ただ一言「砕けろ」と力ある言葉を紡いだ。
私のイメージに従い、眼前にいた研究者5人は瞬時に凍った後、パキーンと澄んだ音を立てて砕け散った。
この方法を選んだのは、ひとえに殺した跡が美しいからだ。
私は汚いものが嫌いだ。
死んだ5人が囲っていた台に視線をやると、一人のエルフが拘束されていた。
もはや元の顔なんて分からない。身体も無事なところはどこにもない。
性別も判別できないほどに切り刻まれて分析されて…もちろん麻酔なんてかけられない。
奴らは実験対象の苦痛さえ快感なのだから。
私はゆっくりとエルフに近付いた。
エルフは虚ろな目で虚空を見るばかりで、私を認識しない。
いっそ殺してあげようかとも思ったけれど、最後の記憶がこの研究所での惨劇というのはあまりに哀れだ。
立ち直れるかは分からないがひとまず助けてみてもいいだろうか。
それに私だって前世は人だ。人嫌いであったとは言え、一人きりの暮らしというのは面白味に欠ける。話し相手になってくれるのなら嬉しい。
そう思い、エルフの傍らに立ち、そっと額に手を当てた。
「あぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
触れたことで実験が再開されるとでも思ったのがエルフが奇声をあげて暴れだした。
手足と首が台に固定されているし、台に魔力封じの魔方陣も描かれているので、どんなに暴れたところで私に危害を加えることはできない。
しかし、暴れたことによってエルフの手足と首の枷がさらに食い込み、ボロボロの身体に新たな傷を上書きしていく。
助けると決めた者が目の前で傷付くのは見たくない。
まだ他の部屋に始末すべき研究者は残っているのでひとまず眠っていてもらうことにした。
「大丈夫だ。もう何も怖いことはない。今まで良く耐えた。
今は眠れ―…」
エルフの額に当てた手に魔力をこめて言葉を紡ぐと、エルフは静かに眠りについた。
ついでに痛覚も麻痺させたおかげか、寝顔は思いのほか穏やかだ。よかった…
あとはただ作業のように淡々と部屋を移動し、残りの研究者28人を殺しまわった。
事切れた死体からは内包していた魔素が溢れだし、速やかに私に吸収されていく。
この研究所は、リーダーの魔法師(この世界ではそう呼ぶらしい)の個人施設で規模は小さいので、作業はすぐに終わった。
腹は満たされたが、気分は良くない。
早くあの美しい場所に戻りたい。
生きていた実験生物は、初めのエルフの他、獣人が2人、霊獣が1匹だった。
あとはすでに死んでおり、エルフを筆頭に大量の死体が地下のゴミ溜めに放り込まれていたので、全てを焼いて灰にし、私が発生した森林へと転送して撒いておいた。
こんな地下で腐るより、世界に還元された方が良いだろう。まぁ自己満足だが。
奴らは実験生物が残り少なくなっていたので近々仕入れをする予定だったようだが、仕入れ前に殺すことができてよかった。
私は、エルフと同じく他の者も眠らせ、元いた森林へと戻った。
清浄な森と水の気配が心地良く、先ほどまでの陰鬱な気持ちがすっと晴れていくようだ。
さて、傷付いた彼らを癒すにしてもまずは家だ。
元人としては落ち着ける場所を作りたい。
霊獣は別としてもエルフと獣人にとっても家があった方が良いだろうし、まずは住む家を作ろう。