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魔神と”私”が溶ける刻  作者: 美雷
第1章:当代の魔神は家を欲す
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12:魔神の再生治療

「俺の寝てる間に何があったんだ…」


翌朝、目覚めたアスが呆然と呟いた。つられて起きたリュイも言葉はないが驚いているようだ。

まぁ無理もない。

琥珀は名を得たことで見るからに成長し、今は体長2.5m程になっている。

加えて内包する魔素量が跳ね上がったことで、角も成長して枝分かれが複雑になっているし、鱗ともども内側から淡い光を発している。

要約すると、威厳が出て大変美しくなった。


ちなみに、琥珀は昨日の食事の後、寝ている間に勝手に私から離されて寝床に移されていたのが相当気に入らなかったようで、昨夜は頑なに離れたがらず眠るのを拒んだ。

きゅぃきゅぃと必死に鳴く琥珀がかわいくて、仕方なく私もともに眠りについた。とはいっても、琥珀が巻き付きっぱなしなので寝転がることはできず、ウッドチップの琥珀の寝床に座ってうとうとしていただけだ。

…どうせ琥珀は私に巻き付いていただけなのだからわざわざそんな固い所に座っていなくてもよかった気がするのは、気付かなかったことにしたい。


とりあえず、琥珀を撫でて覚醒を促しつつ、未だに呆けているアスとリュイに声をかける。

レウムは豪快に爆睡中で起きそうな気配が欠片もないため無視だ。


「アス、リュイ、おはよう。」


「あ、おはようございます。」


「おはよう。

…て、いや、暢気に挨拶されてもさ。

こいつ、なんで一晩でこんな大きくなってんの?」


「といいますか、この子、シャイニードラゴンですよね?

まだ幼竜なのに、なんですか、この尋常ではない魔素量は…」


さすが魔法が得意なエルフといったところか、リュイは琥珀の魔素量をある程度把握できているらしい。

そう、リュイの指摘通り、実は琥珀の魔素量はすでに成竜のそれに比類する。

ただでさえ魔神の加護は他と一線を画すものであるにもかかわらず、予想以上に私の力との馴染みが良かったのだ。


「昨夜、この子に名前を付けたからな。祝福の加護で覚醒したんだ。

…ほら、琥珀、ちゃんと起きて挨拶しろ。」


(うぅー…ノワール、おはよう。アスとリュイもおはよう。

昨日、ノワールに名前貰ったの。コハクだよ。ハクって呼んでー)


まだ目が覚めきらない琥珀に促せば、眠そうな雰囲気を漂わせながらもきちんと挨拶を返してきた。

昨夜一晩で精神感応(テレパシー)による念話をほぼ完璧にマスターしてしまったあたり、さすがドラゴンである。しかも、しっかりと”琥珀”と”コハク”の区別もつけているようで何よりだ。

普通の口頭での会話だと、発言者が漢字でイメージしていようがカタカナだろうが、音としては”コハク”としか聞き取れないので問題ないのだが、念話の場合は漢字のイメージまで伝わってしまうのだ。

ならば漢字の名前なんて付けなければよいとか、漢字の説明をすればいいだけだとか、いろいろな突っ込みが頭に浮かんでは来るが、そこは私のわがままである。

あんなにも美しい琥珀色の角と瞳を持つあの子にはぜひとも琥珀という名を付けたかった。

英語のアンバーでもよかったのかもしれないが、シャイニードラゴンは蛇ベースの東洋風の龍であるので漢字の方がしっくりくる。

あとは”琥珀”と呼ぶのが私だけであってほしいという、まぁ有り体に言えば独占欲というものだ。


「おはようございます、ハク。

素敵な名前ですね。良かったですね。」


「おはよう。ノワールに名前付けてもらったってことは、しばらくノワールに守護してもらうのか?

ハクは昨日すでに寝ちゃってたけど、俺たちはずっとここにいさせてもらうことになったから、改めてよろしくな。」


(リュイ、ありがとー アス、これからよろしくなのー)


姿形は立派になっても、まだまだ幼い琥珀の言動は和む。

ゆらゆらと嬉しそうに身体を揺らす無邪気な姿に、思わず撫でくりまわしてしまったのは不可抗力だ。琥珀も嬉しそうなので気にしない。

一心不乱に撫でていた私だが、ぐぅぅぅ~~~という何とも気の抜ける腹の音で手を止めた。


「……俺じゃないぞ?」


「僕でもありませんからね。」


一斉に全員の目がレウムに向いた。

まだ寝ているにも関わらず、レウムの腹の虫はせっせと自己主張している。

見た目はがっしりと男らしい精悍な容貌で怜悧な雰囲気があるというのに、中身を知るにつれギャップが激しくなっていってるような気がする。

一気に脱力してしまったが、まぁ他の皆も腹は減っているだろう。


「…とりあえず朝食を作る。」


「僕、手伝います。」


「俺も…」


「いや、アスは片脚じゃ危ないから今回はいい。

リュイ、よろしく頼む。」


そんなわけで、私は琥珀をアスに預け、リュイと台所へ向かった。

レウムは、料理が出来上がってきた匂いに誘われて目が覚めたらしく、茶の間に朝食を運ぶ頃には起きて”待て”をしていた。

行儀良くアスと並んで座り、ばっさばさと音を立てながらはち切れんばかりに尻尾を振るその姿に、思わず「お手、おかわり」と口走りそうになったのを何とか呑みこんで各々食事を始めた。


私は食べなくても問題ないので、昨日と同じく琥珀に果物を食べさせながら、皆の食べっぷりを観察しつつ、たまに味見をしつつと食事の時間を過ごした。

全員目に見えて昨日の食事時より回復している。

これならば予定通り、アスとレウムの脚を治して買い物に行くことができるだろう。

脚から先に再生させる理由は、まず自力で立って歩けないことには街に買い物に行くのも困難だし、室内の生活でも不便で仕方ないからだ。


食後、念のために2人の体調を確認する。


「さて、これからアスとレウムの脚を再生させようと思うが体調はどうだ?」


「大丈夫だ。もうどこも問題ない。」


「……。」


レウムは頷きだけだが、2人とも回復具合は順調のようだ。

ちなみにこの世界での魔法による肉体再生は、参考にできる部位が残っていないとちょっと厳しい。

というのも、まぁ当たり前のことではあるが、生物の身体は各個体により細部に違いがある。個体差というやつだ。

分かりやすいところでは腕の長さや比率、見えない部分では骨格の詳細や血管の太さなどである。

これらを何の情報も無しで作れるだろうか。答えは否だ。


例えば腕だと、片腕が残っていればそれを参考に反対側の腕を複製再生することは簡単だ。そしてこの方法ならば正しく”本人の腕”を創ることができる。

しかし両腕が無くなっていたとする。すると、身体の組織の情報は他の部位から読み取ることができても、腕の長さや細かな比率、毛細血管の発達具合など腕に関する詳細な情報は分からない。

身体から比率等を推測して創ることはできるがそれは厳密な意味で”本人の腕”には成り得ないのだ。つまりは精巧な義手と同じである。

無論、神経などは本人と同一組織で創ることができるので拒絶反応の心配は要らないが、身体に染みついた感覚との微妙な齟齬が生じるのだ。


アスとレウムは、対照実験のためだったのだろう、片腕と片脚の欠損だけで、もう片方は無事残っているため簡単な複製再生で済む。

まぁ厳密にいえば、左右も完全なる対称とはいかないが、勝手に推測で創りあげたものよりはずっと馴染みが良いはずだ。


以上の事柄をざっくりと2人に説明しながら、まずは脚から再生させ、また数日後に腕の再生を行う旨を伝える。

了承した2人をマットレスに寝かせて魔力を乗せた言葉を紡いだ。


「脚、複製再生」


魔法の発動とともに、淡い光を発しながら身体の組織が再生されていく。

骨が創られ、筋肉が巻き付き、神経や血管が通っていく。最後に皮膚が再生されて魔法光は収束した。

アスもレウムも再生部位に肉を持っていかれてしまったので、元の体型よりも一周りか二周り程細くなってしまったようだ。


「よし、終わりだ。2人とも立ちあがってみてくれ。

全身の筋肉が落ちてるから、ゆっくり気を付けて…」


「すごい…脚が、ある。」


「……」


アスとレウムは”信じがたい”といった様子で恐る恐る脚に力を入れた。

少しよろめいたが2人とも無事に立ち上がることができた。

噛みしめるように再生された脚を踏みしめ、そろそろと室内を歩く。


「あぁ、俺の脚だ。また自分の脚で動けるんだ。

ありがとう… ありがとう、ノワール。」


「ノワール、感謝する。」

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