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■2 虹色レンズ-上

■1 よりはかなり短いです。というより、前のが長すぎたんだ、きっと。

 音高くドアを開け、サングラスをかけた異様な格好の転校生は、挨拶もせずにクラスを見回した。その姿に、教室がざわつきはじめる。

「えーっと、名前、言ってくれるかな」

 先生が声をかけても、転校生は黙ったままだった。

「緊張してるのかな、仕方ないよな。えぇっと、転校生の楠木くすのき──コウキ君だ」

虹輝ななき

 即座に入ったその名前の訂正で、私たちははじめてその人の声を聞いた。

「名前も把握してなかったのかよ」

 小さく転校生──楠木君はつぶやいて、黙って空いていた席、私の斜め前に腰掛けた。先生もそこに座らせるつもりだったらしく、何も言わない。

「……あ、あぁっと、ごめん。でも、これからの行事も一緒になるんだし、よろしくな」

 さっきの気まずさを取り繕うかのように、明るい声で先生は言った。一時間目は社会か、などとつぶやきながら教室を出て行くが、いつもの時間よりかなり早い。

 楠木君は早くも机に頭を伏せていた。周りはヒソヒソと話していたけど、サングラスだって楠木君なりの訳があるのだろうし、不必要に干渉するのは気が引ける。あまり気にしないようにしながら、社会の教科書を机に出し、本を開く。今日は持ってきたものが多かったからだろうか、カバーの端が少し折れていた。やっぱりブックカバーはもらっとくべきかな、と小さくため息をつく。

 小さいころから、せっかく綺麗な表紙なのに覆ってしまうなんて、とブックカバーはつけない主義だった。綺麗だからこそ汚れないようにつけるのだろうけど、いざ本屋さんで聞かれると、首を横に降ってしまうのだ。

 ──と、社会の先生が入ってきた。出欠表を手に、楠木君を見て顔をしかめる。

「楠木 虹輝は──は転校生か、早々寝てんのかよ」

本当に寝ているのか否か、楠木君は顔を上げようとはせず、最後まで突っ伏せたままだった。

 次の国語の時は辛うじて起きていたけど、それ以外はずっと寝たままだ。もしかして、国語は好きなのかな。確証なんてないけど、楠木君の意外な一面を見つけた気がして、なんだか楽しかった。

 お弁当の時は楠木君はどこかに行ってしまって、見た目はサングラスを除けば普通だし、不良というわけでもなさそうなのに不思議な人だ。昼休み、さっきの続きを読もうと再び本を開くと、どこからか視線を感じた。周りを見回して、再び前に目を戻したとき、

「うわっ」

 椅子だけこっちに持ってきて、楠木君が前に座って表紙を覗き込んでいる。

「……それ、好きなの」

まだ聞き慣れない声で、楠木君が聞いてきた。

「うん、この作家さんが好きだから。大抵は、揃ってる」

「限定版も?」

 楠木君が口にしたのは、去年だったか、ネット限定で売り出されたものだ。ネットには疎く、手に入れられなかった私は、図書館を探し回ったが、結局は見つからなかった。

 首を横に振った私に、楠木君はそう、とつぶやき、また席へと戻って頬杖をついた。結局なんだったのかはよく分からないけど、話しかけてくれたのはなんだか嬉しかった。きっとこの本を持ってる人なら誰でもよかったのだろうけど。──やっぱり、ブックカバーはつけないでおこうと、一人そう頷いた。


「……あ」

 次の朝、机を覗き込んで私は思わず声をあげた。教科書を入れようとして、ひっかかったのはこれが原因だ。机から出してみるとそれはやっぱり昨日言っていた本で、思わず楠木君の方へ顔を向けると、昨日と同じように、背中を丸めて寝ていた。わざわざ起こすのも申し訳なくて、楠木君がいないお弁当の時にお礼を書いたメモを机に入れておいたけど、未だ空っぽの机に入れたところで、気付いてもらえるのかな。と、そう考えたのは既に日が落ちた放課後、帰り道のことだったから、もう遅い。気付けばいいな、と思いながら、早く本を開くべく、歩調を速めた。

 結局、読み始めてからは夕飯とお風呂の時以外ずっと読み続け、ようやく本から顔を上げたときには針は十一時過ぎをさしていて、いつも寝る時間よりは少し早かったけど、寝てしまうことにした。宿題もまだだけど、この余韻は大切だ。

 返す手段としては、机に入れておくのが自然なのかもしれないけど、やっぱり直接渡したほうがいいような気がする。次の日お昼ご飯を早めに食べて、私は楠木君を探しにいくことにした。

 ──とはいえ、楠木君が行くところなんて検討もつかず、結局は学校内を当てもなく歩き回ることになる。本を抱えてうろうろしていると、

「すげぇ絵になってる」

 面白そうに言う、去年の担任に会った。

「顔がよければ文句なしですけど。──そうだ、楠木君って見ませんでした?」

学年が違うから知ってる可能性は低いけど、聞いてみて損はない。

「楠木って、楠木 虹輝か?サングラスの」

目立つもんなぁ、と先生はつぶやき、あっちに歩いてったよ、と左を指差す。

「あっち……って、何もないですよね」

 行ったことはないけど、多分捨てる予定のものがあったり、室外機が並んでいたり、とにかく用があるものは何もないはずだ。

「声かけてみたんだけど、ちょっと振り返っただけで無視されちまった。別に行ってもいいけど、あちこち触ってたら怪我するからな、気をつけろよ」

 先生にお礼を言って、教えてもらった方へ歩き出す。雑草だらけで、虫も多そうだ。楠木君は長ズボンだからいいよなぁとため息をつき、長くも短くもない草の道を通り抜ける。校舎の裏を覗き込むと、──いた。

 段差に座り込んで、楠木君が猫と遊んでいた。綺麗な毛並みの猫で、こんなところにこんな猫がいるのかと、それにも驚いたけど、もっと驚いたのは、

 ──サングラスを、外している。

見た目が普通とか言いつつ私の脳内で虹輝さんは不良みたいな格好をしていらっしゃいます。 あと、私はブックカバーもらう派です。本を買う度もらうから、山のようなブックカバーがw

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