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第九話 討伐合宿

 午前八時過ぎ、扉を開けて教室へ入る。クラスには若干の緊張感が走っている。別に俺が原因ではない。今日から少し訓練が増えるからだ。

 増える理由は一週間後に控えた『討伐合宿(とうばつがっしゅく)』という行事である。

『討伐合宿』とは、五日間『導脈(どうみゃく)』の噴出口付近で魔獣の討伐のみをおこなう、というハードな訓練だ。一週間前から鍛え、この合宿に少しでも耐えられるようになることが狙いらしい。

 午後の訓練が終わり、教員がこの一週間、夜はしっかり寝るように伝えている。俺も深夜のトレーニングは控え、疲労解消に努めよう。





 一週間後。アヴァリティアス東部の小さな都市、ダインの端。山と森に囲まれた『導脈』近くで『討伐合宿』が始まった。同学年の生徒と教員、サポート及び緊急時の対応をおこなう騎士団員もいる。

 三十分ほどの説明を受けた後、実習開始だ。本来であれば五、六人で班を組んで臨むのだが、俺はハブられた。教員もあまり気にしていない。学校全体にドームの一件は広がっている。不名誉な呼び名であった『学園最弱』はさらに不名誉な『学園最弱・最悪のクズ』に変わった。

 それゆえ実習中は単独行動だ。俺としても都合がいい。全力で魔獣を狩って核を手に入れる。





 あまり人が来ない森の中へ入ってすぐに体長三メートルほどの犬型の魔獣と遭遇する。

 魔獣が向かってくる。噛みつきを避けて灰の槍で刺す。一撃だ。

 灰外殻を使いこなすための練習もしておきたい。それと、も(・)う(・)一(・)つ(・)の(・)マ(・)ギ(・)ア(・)も使いこなせるようにしなければ。単純な刺突と斬撃がメインのゼクシオンに比べると扱いが難しいのだ。





 その後も森で狩りを続けた。収穫は魔獣核十個。まだ少し時間がある。

 サブルとの戦闘の直前、俺はキメラの魔獣核を喰った。その際、波導神経が強くなった感じがした。本来、人間が魔獣核を体内に取り込めば拒否反応で即死する。俺が死ななかった理由には思い当たるものがある。確実ではないが、強くなれるのなら。


 魔獣核の一つを喰らう。


 猛烈な吐き気がする。なんとか飲み込むと体が熱くなる。神経が燃えるようだ。全身を襲う痛みに耐えること数分。


 症状は嘘のように消えた。さらに、やはり波導神経の質が上がっている。


 他の核も口に運ぼうとして、やめた。しばらくの間は一日一個にしておこう。二個以上取り込めるのか不安に感じた。

 核をしまい、集合場所へ向かう。全員が集まった後、近くにある騎士団所有の施設へ移動し、夕食と入浴を済ませ、早々に眠りについた。





 次の日の朝。身支度をして朝食会場へ向かう。食事はかなり広い部屋でバイキング形式だ。生徒たちもぞくぞくと入ってきた。半数は眠そうな、もう半数はスッキリとした顔をしている。

 料理の並んだトレイを運んで席に着く。一人席がないので仕方なく四人掛けのテーブルでパンをかじっていると、


「あなた一人? 相席いいかしら?」


 クラスメイトではない女子が話しかけて来た。金色のフワフワしたロングヘアに赤い瞳。名前も知らない相手だが、断る理由は特にない。


「ああ、どうぞ」


「ありがとう、失礼するわね。どう、食べながら少し話さない?」


「まあ構わないが。俺はアッシュ。よろしく」


「私はクラリス。クラリス・ヴェリテ。さて、あなたにいくつか聞きたいことがあるの」


「答えられるものであれば」


「じゃあ一つ目。あなたって弱いの?」


 いきなりなかなかスゴイこと言うな。俺がそっちの立場なら一発目で聞かない。


「ああ、弱い」


「……二つ目。昨日は何体魔獣を倒したの?」


「ゼロ」


 一つ上の位に一がつくが。


「そう。少し違う質問をするわ。あなた、現状に満足してる?」


「満足か。してないね。でも、受け入れてはいる」


 今のところ嘘しか言ってない。こちらとしても答えやすい質問をしてほしいのだが。

 クラリスがナイフとフォークを動かす手を止めて、俺を見つめる。


「最後の質問。ドームでの特別講義の日、どこで何をしていたの?」


「近くのコンビニ。飲み物買った後は周りをぶらついてた」


「……分かったわ。ありがとう。あなたも何か聞きたいことある?」


「なら、一つだけ。なんで俺に話しかけたんだ?」


「あなたに興味があったから。どんな人か知りたかったの。噂通りの人物なのか確かめたかったし」


「そうか。じゃあ、俺はもう行くよ。」


 空になった皿を乗せたトレイを持ち上げて立ち上がる。クラリスの皿にはまだ料理が残っている。


「ええ、さようなら。また会いましょう?」


 そう言った彼女は、少し不気味な笑みを浮かべていた。



 二日目の実習が始まった。今日はもう一つのマギアを使おうと思っていたところ、丁度いい相手が現れた。同じ魔獣が複数いる。


『群体型(ぐんたいがた)』だ。文字通り群れを成している魔獣。一つの核から複数の個体が生まれ、特定の個体の核を奪うまで数を増やし続ける。以前海外に出現した超強力な『群体型』は国一つ滅ぼしたそうな。


 魔獣が俺目掛けて飛びかかる。体長三メートル、狼のような形をしている。

 噛みつきを横に回避し胴体を狙う。別の個体が避けた先で襲ってくる。俺は空中へ飛び、襲ってきた二匹に灰の槍を投げる。着地した瞬間に噛みつきに来た三匹を灰外殻で串刺しにする。

 周囲にはおよそ十匹。警戒しているのか、一定の距離を保って動かない。その隙にマギアを展開する。


「『ヴェルザ』、起動」


 出現したのは片手剣。グリップの上、ガードの中心には黒色の魔獣核が埋め込まれている。

 周囲の魔獣が一斉に襲い掛かってくる。

 俺は自身を囲うように剣を一閃する。

 勝敗は決した。全ての個体が真っ二つになっている。

 ヴェルザの正体は蛇腹剣。波導を流すことで伸縮自在、最大まで伸ばした時のリーチは約十五メートルだ。




 その後もヴェルザを使って魔獣を倒していく。しばらくして木陰で昼食をとっていたとき、事件は起きた。





 二日前、ダインの廃ビル。一週間ほど前までゼリアにいた『ACE』の部隊はダインに移動し、次の作戦の段取りを確認していた。


「バルバ、お前は絶対に計画通りに動け。ストレスだ」


 トロンが眉間にシワを寄せている。


「そう言われてもなあー。まあ気を付ける」


 バルバは不満げに言い、つまらなそうに欠伸を出している。


「次。キュラは作戦位置から二十キロ離れたこの山の頂上だ」


「あいよー。バッチリ見とくからー。トロンは前線かい?」


 キュラ、と呼ばれたピンクのツインテールの女性が聞くと、


「ああ。戦闘部隊を二つに分ける。片方は俺とバルバの担当だ」


「ほーん。もう片方は?」


「ソヌスさんだ。今回の作戦はあの人主導だ」


「それ本当か!? 幹部まで来るのかよ! やる気出てきたあー!」


 唐突にバルバが叫び、キュラがしかめっ面で耳をふさぐ。トロンの眉間のシワが深くなる。


「騎士団はかなり警戒しているはずだ。四番隊と戦うことになる。タマゴの用意は終えているが、……三番隊まで出てくると勝率は五分くらいだ。イレギュラー次第では撤退する」


「『ACE(ウチ)』もさっさと本隊連れてくればいいのにねぇ。そしたら確実に勝てるじゃん」


「あの人が言うには、まだ機を待て、とのことだ。俺たちもやれるだけのことはやるぞ。『人類の進化のために』、な」

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