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第六十二話 星導獣

 突如、アヴァリティアス王国とクレール王国の各地に出現した巨大魔獣。

 本来魔獣が出現する地上にある『導脈』の噴出口のみならず、地下の『導脈』の経路からも魔獣が発生し、膨大なエネルギー地面を割っていた。


 突然の事態に対応が追い付かないアヴァリティアス騎士団。『ACE』の部隊との戦闘中、または撃破直後に数え切れないほどの魔獣が戦場に割り込んだ。


 真相を知っているのは、この事態を引き起こした張本人である『ACE』の『王』のみ。


「聞こえるかい、バーンモルト。魔獣たちの咆哮が。この星の叫びが。世界に蔓延る旧人類の最後を、未来を生きる新人類の誕生を告げる、大いなる鐘の音だ」


「お前、何しやがった? これまでの魔獣の襲来の比じゃないだろ」


「『導脈』を操作した。ただそれだけだとも。我は、永劫とも思える時間、その全てを費やした。君たちの肉体を、ときには自分の不老の体も使って実験を進め続けて、ようやくその時が来た。君たちの遺伝子は本当に役に立ったよ。お陰で分裂・消失しかけの自我が何とか繋がり、星の波導を存分に吸収しても肉体は崩壊しなかった。そうして手に入れたのが星の波導の操作能力、いわば、『星の支配権』。ほら、向こうの山をよく見たまえ、バーンモルト」


『王』が指差した方向、クレール王国西部にそびえる山を見る。確かあそこには巨大な『導脈』の結節点が存在していた。


「何だ、あれ」


 そこにいたのはーー



 天を衝くほどの高さ。

 街を跨ぐ四本の脚。

 二本の巻いた角と三本の真っ直ぐに伸びた角。

 空を覆い尽くさんばかりの、黄金に輝く二対の翼。

 その漆黒の身体からは黒い霧が噴き出し、肉体の表面を青く光る模様が蠢いている。


 大地を踏み砕き、大海を溢れさせ、大気を震わせる禍々しくも神々しい怪物。



「『星導獣 ヴ・ドゥジュ』。ヒトという種を塗り替える、獣の名だよ」





 一方、クレール王国北部、アヴァリティアス騎士団一番隊中央。本局局長 コール・ポーターが報告を受けていた。


「まとめると、全部隊が『ACE』を追い込んだところで魔獣の襲撃を受けた。一匹一匹がかなりデカいうえに、数が多すぎて対処がギリギリ。さらに西部からとんでもないサイズの魔獣が向かって来ている、と。


 終わりだな、これは。全体に退却の指示を出すしか――」


「不可能だ。アヴァリティアスとクレールの国境にも大量の魔獣がいる。挟み撃ちになるだけだ」


 一番隊に追い付いた隊長 アルス・エルバートがコールに言う。


 バーンモルトとカノン・グラキエスの戦闘が始まって数分後、セルーバ・アマズおよびセリンと名乗る女性はシエル・リュミエールとレレア・クラインによって捕縛された。主力を失った『ACE』の部隊は簡単に制圧され、現在は三番隊と六番隊が魔獣の対処に当たっている。


「さすがに多すぎない? 普通に苦しいんだけどー」


「レレア、頑張るほかありませんよ。各個体がまあまあ強いですし、範囲攻撃ができる私たちにこの局面は懸かっています」


 雷撃とエネルギーが戦場を交錯する。次々と魔獣が消滅していくが、地面の亀裂から消滅したぶんを補って余りある数の魔獣が這い出てくる。


「もちろん全力でやるけどさー。私たちだけじゃどうしようもないよー。ア(・)イ(・)ツ(・)ら(・)、使うしかないんじゃない?」


「……そうですね。万が一、戦力が足りなくなった時のために連れてきたのでしょうし。今がそのときです」


 二人の会話と同時、コールの指令が無線を通して全騎士団員に伝わる。


『全員、魔獣の対処をしながら徐々にアヴァリティアスへ退け。そしてその際の戦力として、特(・)別(・)人(・)員(・)を参戦させる! 以上だ! とにかく生き残れ! アヴァリティアスを守り抜け!!』


「「了解!!」」


 騎士団員らが魔獣との戦闘を始めると同時、本隊が車両で輸送し、厳重に閉じられていた鉄の檻がコールの手によって開かれた。





 クレール王国北端。イリュスおよびトロンと戦闘していた騎士団四番隊と『障壁を越える者』こと五番隊だったが、突然の現れた巨大な魔獣にトドメを防がれた。


「チッ。何がどうなってんねん、これ!」


「イリュスとトロンは気絶してるッス! 糸で二人とも捕縛できたんスけど、持ち手辺りで切れてしまって……」


「十分な成果です、アン。位置は私が捕捉していますので、まずは魔獣に対応しましょう!」


 周囲で暴れる魔獣は数百。その場にいる戦力では対応し切れずにいた。そんななか、イリュスの攻撃によって全身に切り傷を負ったディクトが膝を折ってしまう。


「うっ、さすがに痛いな。まだ、僕は……」


 すぐにサーベルを持って襲ってきた魔獣を切り裂いて何とか立ち上がるが、三体の四メートルほどの魔獣が同時に襲いかかる。


 ディクトの"王の勅命(キングス・コマンド)"は命令の内容を理解できない魔獣相手には効果がない。彼にとって魔獣の群れは相性が悪いのである。


 三体のうち一体の腹部を両断しながら後退するが、避けきれずに魔獣の牙がディクトに迫る。そのとき、




「まさか俺たちの力を使おうとはね。アヴァリティアス騎士団も落ちたものだよ」


「おれは気に食わねぇんだがな。まあでも、とにかくコイツら潰さねえと汚い口の中か。そっちの方がゴメンだな」


「ま、そんなに悪い条件じゃない。今日くらいは背中を任せてやってもいいんじゃないか?」


 大量の魔獣が消滅していく。


 暴れ狂う砂嵐。

 高速で振るわれる超硬度の塊。

 そして、燃え盛る炎。



 アヴァリティアス騎士団が事前に用意していた特(・)別(・)人(・)員(・)。

 その正体は強力な犯罪者である。減刑や多少の優遇を交換条件として戦場で騎士団に協力する元『ACE』のメンバーであり、その首元には緊急時用の爆弾がつけられている。そしてこの戦場に現れた特別人員は三人。


 サブル・ラムザ、

 バルト・ドゥーロ、

 ブラン・レッド。


 彼らの波導術が、騎士団に活路を与えた。

四話以来、紹介を除いて実に五十八話ぶりのサブルの登場です。今のところ一番再登場までに間が空いてますね。覚えていない方は、是非読み返してみてください。

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