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第四十二話 回帰

「バーンさん? だ、大丈夫ッスか!?」


 倒れたバーンにアンが駆け寄る。身体中に傷を負いながら相当な量と出力で波導を使用したバーンは、とうに限界を超えていた。ザイルが体に触れて状態を確認する。


「息はありますが、あまり良くないですね。すぐに医療班に運びましょう」


 バキラに吹き飛ばされたシエルもバーンたちの側まで戻ってきた。


「なら私が背負います。恐らく一番速いので。五番隊はひとまず周囲の被害状況の確認を」


 シエルがバーンを背負い、地面を蹴って走り出す。ビルや瓦礫の上を跳ねるように駆けていった。




 キャンドと郊外の境にある簡易基地に到着したシエルは医療班にバーンを預け、


「治療は、できそうでしょうか?」


 問いかけるシエルに班の一人が答える。


「かなり外傷は多く、そのうち一つはかなり深刻なダメージを与えていますが、ここで可能な治療の範囲で修復できますので、生命の危機に陥ることはないかと」


「そうですか。それは良かった。では、彼をよろしくお願いします」


 シエルは胸を撫で下ろしながらそう言って基地を後にし、キャンド中央に向かう三番隊に合流した。






 一方、キャンド中央より少し南の地区。

 ここではアヴァリティアス騎士団四番隊が『ACE』の対応に当たっており、そのほとんどを制圧し終えそうな状況であった。


「何とかなりそうだね、シン。初めは四番隊だけで制圧しろって言われてギョッとしたけど」


「ホンマになぁ。あの氷女くらい強い奴が居らんくて良かったわ。代わりにというか、チラホラとクレールの奴らが混じっとるけど。ちなみにハブられた一番隊と六番隊はどうしとるん?」


「『反撃』だそうだよ。ポテンティアと一緒に」


「へぇ。ま、結局は戦争になるか。しゃあないけど」


 そんなことを言いながら次々と魔獣や敵兵を倒していくディクトとシン。

 確実に敵の数は減っている。なのに、いや、だからこそ二人には違和感があった。


「なあ、隊長。オカシないか? コイツらホンマにここの『導脈』潰しに来とん? だとしたら戦力足りてなさすぎるで。普段ならここにアルスたち一番隊がおるんやから」


「それは僕も思っていた。郊外にもそれなりにいるだろうけど、明らかに十分じゃない。ダインやゼリアの時の方がキツかった。もしかしたら、おかわりあるかもね」


「嫌やなぁ。それに、こんなアヴァリティアスの中央までどうやって……。まさか、な」



 シンの脳裏を過った考え。本当に裏切り者は二番隊のマティクだけか? 『ACE』がこれまで用意周到に襲撃できていた理由は……。



「なあ隊長。コール局長って今何しとる?」


「本局で指揮を執ってるはずだけど。何か用なら無線で聞こうか?」


「ああ、頼むわ」


 ディクトが無線を取り出し、コール率いる本局指令部に繋ぐ。


「ほら、シン」


「おおきに。コール局長、一つ聞きたいことあんねんけど」


『シンか。何だ? ん? ちょっと待ってろ、って……は?』




 間の抜けたコールの声。


 直後、無線の先で銃声が響いた。




「なんや今の音!? おいコール!?」


 ガシャン、と何かが床に落ちる音と何発もの銃声だけが鳴り、無線は切れた。


「シン、今のは……?」


「まったく分からん。銃の音が聞こえただけや。隊長、本局行った方がエエんやないですか、これ?」





 シンが考えていた、コール・ポーターが裏切り者であるという可能性。それは間違いだった。

 実際には、


「案外動けるのですね、局長。まさかこんなケツに根が生えてそうなくせして避けるとは」


「見てわかんだろ。現場からの叩き上げなんだよ、俺ぁ。銃弾の飛び交う戦場だって越えてきてんだ」


 そう言ってコールが睨む先。黒く光る銃を構えているのはアヴァリティアス騎士団本局司令官第三位 メア・ゲーティス

 濡れ羽色の髪を耳に掛けながらメアはコールは近づいていく。


「そうですか。でもそれがなんだというのです? 局長という立場である以上、所詮は体の鈍った中年男性でしょう」


「つっ……! じ、じゃあ当ててみろよ。その体の鈍った中年男性に当てられねえようじゃ恥ずかし過ぎるだろう」


 事実を突きつけられたコールは負けじと言い返したが、


「では遠慮なく」


 メアはどこからか機関銃を取り出し、コールへ向けて構える。


「え? あ、ちょっ。おわあああ!!」


 情けない叫び声を上げながら走り回るコール。その身のこなしはとても指令部の人間とは思えないほどのキレがあるものの、戦場に立つ騎士としてはあまりにもトロかった。


 コールの左腕を銃弾が掠り、服が裂ける。幸いなことに副局長を含め指令部の人間のほとんどが別の場所にいるおかげで誰も巻き込まれていない。コールは近場にあった机や椅子を盾にしながら逃げ回り、司令室から脱出した。幾つかの人影がコールの目に写る。


 そこに立っていたのは騎士団員ではなく、黒いローブを着た『ACE』の構成員であった。


「あばゎあっ!!」


 驚きつつも黒ローブを殴り倒したコールはすぐに人がいない方向へと走り出し、本局からの脱出を図るが、時既に遅し。本局は内部に突然現れた『ACE』及びクレールの兵士によって占拠されていた。



 周囲を調べつくして手の打ちようがないことを知るコールのもとへ、


「局長、どこですかー。もう機関銃は持ってませんよー。早く出てきてください、めんどくさいので」


 メアの声。ヒールの音。

 そして、何かが羽ばたく音。



「何かが羽ばたく音?」


 コールが疑問に思った瞬間、壁をぶち抜いて竜が侵入してきた。

 その竜はコールを見つめ、


「逃げますよ! 乗ってくださいコールさん!」


「いや誰!?」


「え? わたしですよわたし。この前会ったばかりじゃないですか。ロゼ・リュトモスですよ」


「分かるはずないだろうが!!」


 そんなコールのぼやきを無視してロゼはコールを加えて飛び去っていく。



 そんな様子をメアは呆然と見つめるのみだった。ふと我に返った彼女は


「ま、いいか」


 とだけ呟いた。






 一方、アヴァリティアス―クレール国境付近に、一番隊と六番隊はいた。そばにはポテンティアから来た竜人の戦士らがいた。彼らを迎え撃つはクレール兵団と『ACE』の合同部隊。


『六天』アルス・エルバートの特大の一撃により戦いの火蓋が切られ、アヴァリティアス・ポテンティアの部隊が終始圧倒していた。

 クレールと『ACE』を撤退させた彼らは戦場付近に拠点となる砦を建設し始めていた。騎士団のうち何人かは砦や城といった防衛拠点を作成することに長けた波導術を持つ者がいるのである。


 おおおよその外観が完成し、内部に機能を加えようとしていた頃、戦場にその男は現れた。


「おやおや、随分立派に建てたものだね。少し、お邪魔させてもらおうかな」


「お断りだ。そんな怪しい格好の人物を入れるはずがないだろう、

『ACE』の『王』」


 拠点から飛んできたアルスが紫のローブの男と話す。


「それは残念。私はただ見学したかったんだけどね。でも君が来てくれてよかったよ。

 ……私は、一番面倒な人間から消す主義でね」


「嬉しくはないがオレも同じだ。まさかいきなり大将首を取るチャンスが来るとは、思ってもみなかった!」


 アルスが波導神経を励起状態にする。一方のローブの男も周囲に波導の渦を作り上げていた。


「さあ、見せてもらおうか! アルス・エルバート!」


 ローブの男が地面を踏みつける。その瞬間、地面から様々な植物が伸び、アルスが見たことのない巨大な動物が出現する。戦場の黄土色の地面が赤黒い土に変わっていく。

「これは、データベースで見たセルーバ・アマズの波導術? いや、少し違うか」


 アルスは呟きながら周囲の変化を観察し続けた。見た目だけではない。空気が変わっている。異常な冷たさと湿っぽさが拡がっていく。


 そんななか、アルスの顔のそばを一メートル近いサイズの何かが通過した。

 透明な翅に巨大な眼。そして、バランスが悪いほど細い胴体。


「トンボか? いや、あのデカさ、まさか……?」


「あの頃は大きかったね。植物、昆虫、動物。潤沢な酸素を吸いに吸って体を巨大化させていったんだ。特に昆虫とか蠍みたいな節足動物が栄えた頃でね。

 歓迎するよ、アルス・エルバート。石炭紀のこの星へ、ようこそ」

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