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第三十話 氷牙

 数分前、ダイン南部の騎士団緊急対策本部。

 四番隊の到着が遅れるという連絡を受け、六番隊は中心街へ突入できずにいた。


「遅いねー、六番隊。今どの辺りー?」


 レレアが隊員の一人に尋ねる。


「あと三分ほどで到着するかと」


「オッケー。中心街の方は?」


「そちらも動きはないそうです。とりあえず待ちま、

 いや、監視部隊から連絡! 中心街から、大量の魔獣が放たれた模様!!」


「マジ!? しかも全方位に数十体ずつ、か。ヤバいねー、これは。

 六番隊、戦闘準備! 魔獣を倒しながら中心街を目指す!」


「「了解!」」


 六番隊全員が動き出す。本部に数人を残し、中心街へ進み始めた。


 道中、六番隊が襲いかかってくる魔獣を倒していると、四番隊から連絡が入った。


『六番隊、聞こえているか? 四番隊隊長のディクトだ。今本部を通過した。僕たちは少し迂回して南西から突っ込むつもりだ』


 無線にレレアが顔を近づけ、


「オッケー。アタシたちは真南から突破するからー。他の方角に出ていった魔獣はどうするー?」


『僕たちじゃ間に合わないね。なんとか、今いる戦力で粘ってもらうしか……。もしかして避難所の方もまずいのか!?』


「いや、そっちは大丈夫ー。対処できる人がいるから。ヤバいのは西側かなー」


『なら問題ない。一番隊が西側からゼリアに入ってくる。住民さえ避難させれば対応できるはずだ。六番隊はそのまま進んでくれ』


 はいよー、とレレアが言って通信を切る。


 魔獣の大群を破った六番隊が中心街の入り口に差し掛かる。


 そこには、銀髪の女性が立っていた。

 レレアが隊の先頭に立ち、銀髪の女性に話し掛ける。


「はじめまして、かなー? 一応聞くけど、『ACE』だよねー? 退く気はある?」


 銀髪の女性が口を開く。


「ないよ。貴方たちこそ、今撤退するなら見逃してあげてもいいけど。どうする?」


「人が住む街を占拠された騎士団に、そんな選択肢あると思ってるー?」


「命は大切にした方がいいんじゃないって言ってるの。貴方たちじゃ、私に敵わない」


 レレアが六番隊の隊員に指示を出す。


「みんな、迂回して先行ってて。この女はアタシがやるから」


「分かりました」


 六番隊の一人が答え、全員がレレアと銀髪の女性の二人を避けて移動し始める。


「結構強そうだねー。内心ドキドキしてるよ。死ぬかもしれないってね」


「実力差を測れる目はあるのに、勿体ないわね。全員で逃げればよかったのに」


「アタシたちはこの国を守る盾。人の命を守るために自分の命を懸けるバカの集まりだからね、そういうわけにはいかなくてさ。だから、覚悟しろよ」


 レレアが右手を構える。波導が莫大なエネルギーとして放出され、銀髪の女性を巻き込む。続けてレレアが女性に飛びかかり、頭部に蹴りを打ち込む。

 しかし、



「悪くないね。ま、まだまだだけど。どうせ暇だし、少し遊ぼっか」



 銀髪の女性がレレアの脚を受け止める。

 その肉体には傷一つ付いていない。銀髪の女がレレアを振り回して放り投げる。建物に直撃したレレアのもとへ、いくつもの巨大な氷柱が飛来する。

 レレアは波導のエネルギーで氷柱を全て撃ち落とすも、


「受けられそう? 避けてもいいよ」


 一際巨大な、ビルの三倍ほどのサイズの氷柱がレレアを襲う。


「んなっ!? 無茶苦茶でしょー!!」


 レレアが壁を蹴り、ビルとビルの間を飛んで逃げ出す。

 建物を何十棟も破壊しながら進む氷柱。その速さはレレアよりほんの少し遅く、レレアはギリギリで避けきった。


「なかなかやるね。少し甘く見てた。貴方、名前は? 殺した後も覚えておきたいから」


「殺されるつもりはないんだけどねー。アタシはレレア・クライン。『ACE』の情報収集能力なら分かってそうだけどねー」


「私、人物資料とか見ないから。見たところで、要らなくなるからさ。貴方ぶんも、ね!」


 銀髪の女性の周囲から氷が伸びていく。辺り一帯が凍りつき、白銀の世界に変わっていく。


「"氷雪真世界(アイスヘブン)"」


 レレアの足下が氷に包まれる。素早く足を抜いて後方へ飛ぶレレア。彼女を追うように地面から巨大な氷が地面から伸びていく。

 レレアは走り回り、時には波導術で氷を破壊して避け続ける。


「ああっ、もうっ!!」


 執拗に追いかけてくる氷に苛立ち、氷を砕きながら銀髪の女性にエネルギーを飛ばす。しかし、


「ダメだね、それは」


 女性は攻撃を容易く弾き、氷柱でレレアのそばのビルを破壊する。

 空中からは瓦礫が、地面からは氷がレレアを挟み撃ちにする。レレアは全方向に波導を放ち、瓦礫と氷を粉砕する。

 その目の前に、破片を吹き飛ばしながら銀髪の女が現れる。

 女の脚がレレアを捉える。


「つっ! うわっ!!」


 両腕のガードごと吹き飛ばされるレレア。

 その腕と腹が凍っていた。

 体から熱が奪われ、上手く動けなくなる。


「終わりかな。案外、手応えがあったよ」


 銀髪の女性が氷から剣を作り出し、レレアに近づく。レレアは、笑っていた。



「まだ終わってないよ。足下、凍ってるんだからー、気を付けないと転ぶよ?」



 女性が下を向いた瞬間、足下の氷が割れ、女性の脚に衝撃が走る。

 レレアは女性の蹴りのエネルギーを吸収していた。そのエネルギーを波導とともに放出、氷の内側を伝播させてダメージを与えたのだ。


「ここまでやって最初のダメージかあ。でもアタシ、ツイてるみたいだねー」


 レレアの言葉の直後、銀髪の女性を槍と糸が襲う。女性は跳躍して避ける。

 現れたのは、



「なんや、あの時の女やないか。リベンジのチャンスですよ、隊長」


「そうだね。全く、氷漬けにされて大変だった」


「もしかしてかなり強いんスか? あの女の人」


「そこにいるのは六番隊の隊長ですね。この前は仲間がお世話になりました」


 シン、ディクト、アン、ザイルが凍った地面の上に立っていた。四番隊の隊員らもその後方に並んでいる。

 また、中心街に向かったはずの六番隊も戻ってきた。


「クライン隊長! 無事ですか! 報告します! 中心街に敵影無し! 既にもぬけの殻です!」


 報告を聞いたレレアはきょとんとした顔をする。


「え? じゃあ何のために氷女がいたわけー?」


 一方、氷女と言われた銀髪の女性は、


「そう。私たちの方も作戦終了ってことね。でもーー

 戦力は削っておこうかな」


 銀髪の女性が三十本ほどの氷柱を作り出す。

 女を囲む陣形をとり、騎士団員たちが構える。

 最初に動いたのは、ディクトだった。



「『動くな』! 銀髪の女ぁ!」


 "王の勅命(キングス・コマンド)"が発動する。その隙にレレアが手のひらにエネルギーを集中させ、シンが槍を構えて突進する。

 アンも超硬度の糸を振り抜き、銀髪の女性の周囲全方位から攻撃が放たれる。しかし、


「"永久凍土・(ネバーメルト・)氷河城(ゼロフォートレス)"」


 空気が凍る。地面から急速に氷が成長し、街を覆い尽くしていく。あらゆる攻撃が阻まれ、騎士団と『障壁を越える者(スヴェラトール)』の二人が氷に巻き込まれるその直前、


「全員、『下がれぇぇっ』!!」


 ディクトが叫ぶ。意思とは別に全員が後方へ跳ぶ。ディクト本人も目一杯の力で退避する。




 回避しきった彼らの目に映ったのは、氷でできた巨大な城。その表面には波導が満ちており、周囲には押し出された建物が重なっている。

 騎士団員らの目が城に釘付けになるなか、


「隊長……!?」


「かはっ、こふっ!」


 ディクトの腹を氷柱が貫いていた。

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